第二章・N
十月十四日(金)午後〇時四〇分
東食堂
血液型性格診断、というモノがある。
ABO型にそれぞれの気質・性格を当てはめるというモノで、
曰く、A型の人は真面目で几帳面、
曰く、B型はルーズで自己中心的、
曰く、O型は大らかでマイペース、
曰く、AB型は天才肌で二重人格――などと言われている。
戦前の教育学者・古川竹二が提唱し、それを戦後になって能見正比古が世間一般に向けて広く流布した、というのが大雑把な歴史である。断るまでもなく、これらに科学的根拠などはない。分母が小さすぎることから、統計学的根拠も薄弱であるとされている。
つまりは、疑似科学である。平たく言えば、迷信だ。与太だ。戯れ言だ。世迷い事だ。
それなのに――この考えは多くの人々に支持され、テレビや雑誌、書籍等のメディアにおいて繰り返しブームを巻き起こしている。
それは何故なのか。
識者の興味は専らこちらの方にあるらしく、多くの社会学者が様々な説を発表している。
例えば、『バーナム効果』という心理学現象がある。
誰にでも当てはまる、ありがちで一般的な事象を提示したのに、それが自分にだけ当てはまる事象であると捉えてしまう心の働きのことであり、昨今では占い師などが『コールド・リーディング』と呼ばれるテクニックにこの現象を利用している。
それに加え、人間は、他者に対してレッテルを貼るのが大好きな生き物だ。職場で、学校で、家庭で――人は人に分かりやすい記号を与え、そこから滲み出るステレオタイプな『個性』を類推し、それでその人物を分かった気になり、それで――安心するのだ。
それは血液型に限ったことではない。職業、性別、家族構成、体格、年代、趣味嗜好、誕生星座、干支、などなど。
しかし――言うまでもなく――実際の性格は、人格は、個性は、その通りではない。人間は、多面的に出来ている。あらゆる個人は、一言で言い表せるものではないのだ。その場の状況や、体調や精神状態、観察した人物との社会的関係などにより、人の印象は簡単に左右される。結局、人の性格を決めるのは、観察した人物の主観でしかなく――あらゆる属性は、観察者の指標程度の意味しか持たないのである。
だから――と。
視線を前方にやると、うどんの残り汁を啜りながら、ジュリが携帯をいじっているところだった。
「……お前は、人の話を聞いていたのか?」
「うん、疑似科学がどうこう、ってとこまではね」
結局、ほとんど聞いてないのではないか。先日のアオイにしてもそうだが、何故ヒトナリの相手をする他クラスの人間は、人の話を最後まで聞けないのか。ヒトナリの話が長いせいでは、決してないと思うのだが……。
金曜の学食は空いていた。
この学校には、学食が二つある。東校舎と西校舎、それぞれに一つずつ――生徒数が多く、それに比例してクラスの数が多いのだ。一つだけではパンクしてしまうと思っての配慮なのだろう。しかしながら、最近は不況の影響からか、弁当持参の生徒が増え、学校側が想定していた程には賑わっていない、というのが現状だ。
しかし、利用者がゼロと言う訳ではない。図書室とは違うのだ。ヒトナリは、数少ない学食利用者の一人である。親が共働きで、毎日の弁当が用意できないためだ。毎日毎日、閑散とした東食堂に足を運び、格安の昼食をとっている。不満はない。ヒトナリにしてみれば、腹が膨れれば、別段文句はないのだ。
今日も今日とて、二割程しか埋まってない東食堂に足を向け、これまたいつものように、麺コーナーでざる蕎麦を注文する。待つ間、ぼおっとして、食堂内を見回したりしてみる。
と――ヒトナリの視線は、ある一点で釘付けになってしまう。
窓際の中程、こちらを背を向けて座っている人物――見覚えがある。いや、見覚えがあるどころではない。僅かな時間ではあるが、昨日、口を利いたばかりである。そして今現在、ヒトナリはその人物に関して何やら不穏な噂を耳にしている。
十組の委員長に詰め寄り、暴行を働いたとか、何とか――。
そんな、根も葉もない噂。
だけど、ヒトナリは確信している。その噂は、恐らく真実だ。根も、葉もある。何せ、その状況に至るであろう発端に居合わせたのだ。間違いがない。
ざる蕎麦の乗ったトレイを手にしたヒトナリは、足音を立てないように気を付けながら、そっと――その人物から遠く離れた席へと移動する。椅子にきっちり腰掛け、割り箸をキレイに割り、食事開始。めんつゆに山葵を微量に溶き、刻み海苔の乗った蕎麦を半分ほど浸して、口へ運ぶ。
――風味がない。
端から学食のざる蕎麦になど期待していないのだが――というか、ほぼ毎食蕎麦を選択しているヒトナリには分かりきっていることなのだが――このがっかり感だけは、どうしようもない。まあ、この値段で蕎麦が食えるのだ。コンビニなどよりは、よっぽど良心的とも言える。贅沢を言ったら罰が当たる――などと自分を納得させ、ヒトナリは二口目へと箸を伸ばそうとした――その時、
「奇遇だね、こんなトコで会うなんて」
向かいの席にドサリと腰掛ける、盛大に外に跳ねたクセっ毛が特徴的な、その女生徒――二年七組の委員長・ジュリ。
「あれ、アンタまた蕎麦? こん前ン時もそうだったよねェ」
そう言いながら、自分はさっさとうどんを啜り始めている。
「……俺は、相席を許可した覚えはないんだが」
「は? 何、この食堂って予約制な訳? どこの席に着くか、決められてンの?」
三白眼をこちらに向けるジュリ。高圧的な態度だ。どうやら、今日も機嫌はあまりよろしくないらしい。しかし、このまま黙っている程、聞き分けがいい訳ではない。
「ガラガラの食堂で、他に幾らでも席が空いているのに、向かいの席に座られた人間の気持ちにもなってみろ」
「……あのさ、一つ、言っていい?」
表情を変えず、声のトーンだけ下げて、ジュリは言う。
「それを言うなら――知り合いに露骨に避けられた人間の気持ちにも、なってみてよ」
彼女の目は、真っ直ぐにヒトナリを捉えている。
――気付いてたのか。
こちらに背を向けていたから、気付いていないと思ってたのに。
「窓ガラスに食堂内の様子が映るから、真後ろのことも見えるの」
こちらの考えを見透かしたかのように、ジュリは言葉を重ねる。
「アンタらのクラスでどんな噂が流れてるか知らんけど……適当な噂で、人を避けたりしないでよ」
せめて、申し開きくらいさせろし――ジュリは、言葉を結ぶ。彼女はきっと、ヒトナリの態度に、自分が不当な評価をされたと感じたのだろう。ジュリはそういう部分に敏感だ。
――損をしているな。
そんな風に、思う。
ジュリは、委員長をしているだけあって、客観的に見ても聡明な人間だ。頭の回転が速いし、要所要所で鋭いところを見せる。仕事をさせれば、何事にも熱心で、粘り強い。能力だけを抜き出せば、かなり優秀な部類に入る。それなのに――否、それ故に、か――彼女は周囲の視線を気にしすぎる嫌いがある。平たく言えば、コンプレックスが強いのだ。だから必要以上に見栄を張る。必要以上に、自己正当化を計る。生来の気の短さ、口の悪さとも相まって――結果、ひどくアクの強い人間として、周囲に認識されてしまう。
それでも七組内では人望があるようなのだが……クラスを飛び出すと、もういけない。アクの強さが悪目立ちして、変に浮いてしまう。不当な評価を、受けてしまう。ジュリはそれを払拭しようと、必死になるが、それは往々にして逆効果に終わることが多い。
何だか――ひどく報われない。
関係がないし、そもそもジュリとも親しい訳ではない。だから、共感も、同情もしない。ただ、勝手に分析をして――ほんの少しだけ、心を痛めるだけだ。これでも、情には厚いのである。クラスメイト達と比較して、という但し書きはつくが。
「……何、ボーッとしてんの?」
怪訝な顔でジュリが聞いてくる。考え込んでいたらしい。悪い、と素直に謝る。
「別にいいけど」
「――それで?」
「は?」
ヒトナリの促しに、ジュリの動きが止まる。どんぶりを抱えたまま、こちらの顔を見つめている――否、睨んでいる。彼女はただ見ているだけのつもりなのだろうけど、三白眼のため、平素の状態でも睨んでいるように見えるのである。僅かに視線を逸らしながら、ヒトナリは言葉を続ける。
「いや、申し開きするんだろう。聞くから、言ってみたらいい」
「聞いてくれるの?」
ほんの僅かに、目が輝く。
「聞くと、言っている」
じゃあ、話してあげる――。
前置きをするジュリを前に、ヒトナリは箸を置いた。
昼休みは、あと何分だったかな――と、頭の片隅で考えながら。
ジュリの話を要約すると、こうだ。
彼女が委員長を務める七組と、件の十組は、共に女神像前での出店を文化祭の出し物として考えていた。しかし、生徒会への届け出を出すのは十組の方が一足早く、しかもそれが『単独』での出店許可願いだったため、現時点での七組の出店は、事実上不可能になってしまった。七組には何の落ち度もないのに――である。何の相談もなく、マイペースに物事を進める十組の態度に、七組の面々は一様に不快感を表した。
更に、十組は未だに出店の内容を決めていない、らしい。
何をするのか決定していないのに、取り敢えず場所だけ確保した、ということらしいのだ。元々苛立っていた七組は、この事実を知り、怒り心頭に発してしまった。どういうことなのか、ジュリが代表となって十組の委員長・アオイに問い質そうとしたのだが――
今度は、そのアオイが捕まらない。
どうやらジュリを怖がって逃げ回っているらしい。この態度が、ただでさえ燃え盛っていたジュリの炎に、更なる油を注いだ。
その結果が、昨日の図書室での一件である。
「――それで、お前はその怒りを、アオイにぶつけてしまった、と」
「人の話は最後まで聞けし。私は冷静に話したよ? だけど、あっちの態度があまりにもあやふやなもんでさァ、だんだんイライラしてきて――」
「やっぱり、怒りをぶつけたんじゃないか」
噂は、事実であったらしい。
ただし、そこに至るには、至っただけの背景がある。各々に真実があり、各々に正義があり――各々に、言い分があるのだ。それを無視して、客観的事実の一部分だけを抜き出して、その部分だけが一人歩きしてしまったため、攻撃的だったジュリのみが悪者にされてしまった――と。
「こっちは話し合いがしたかっただけじゃんけッ! それなのに、ええからげんな態度ばっかされたら、ちょうきにしろって思うじゃんけッ!」
「だから」
ヒトナリはあくまで冷静に、言葉を継ぐ。ジュリの三白眼を正面から受け止め、それを真っ直ぐに見返す。
「――お前も、冷静になれと言っている」
「私は、冷静だけど……」
幾分トーンダウンしながらも、ジュリは反論する。
「そうか? 俺の目には、とてもそうは見えないけどな」
彼女の口調からも、それは明らかだ。さっきまでは分からなかったが、ジュリは興奮すると口調が崩れる傾向にあるらしい。
「話を聞く限りでは、取り敢えず、お前の方に分があるように思える。恐らく、お前の言い分は正しいんだろう」
低く冷たく、静かに落ち着いた声音で、ゆっくりと、諭すように言葉を選ぶ。
「だったらッ!」
だが――と、ヒトナリは七組委員長の言葉を遮る。
「お前のとった態度は、正しくない。自分の考えが正しいからと言って、自分の考えを押し付けるのは――正しくない」
「分かりづらい。結局、アンタは何が言いたい訳?」
「そうだな……」
思案しながら、ヒトナリは残りの蕎麦を啜る。
「そうだな、ズル、じゃないっての。そのタイミングで蕎麦を啜らないでよ」
言いながら、ジュリはジュリで自分の丼に口をつけている。
「お前だってうどん食べてるじゃないか」
「これはうどんじゃない!」
箸ではさんだカボチャで人の顔を指しながら、強い口調で返してくる。それがうどんでなければ、何だと言うのだろう。どう見てもうどんだ。別に、何でもいいのだけれど。
「ってか、何の話!? とっちらかってきたんだけどっ!」
それはお前のせいだろう――という言葉を呑み込み、ヒトナリは再び言葉を選ぶ。
「いや――ずっと気になってたんだが……七組は、どうしても女神像で出店を出さないといけないのか? 別に、教室で出し物やるのでも、よくないか?」
クラスで出し物をやる場合、教室を使うのと、出店を使うのとに二分される。後者は人通りの多い場所で行えるというメリットがあるが、それと同時に出店屋台を制作しなければならない、というデメリットも同時に負うことになる。
「七組は奥まった場所にあるから、人が来ないんだってば。それは隣のクラスのアンタらもよく分かってるでしょうが……」
それは、確かにそうだ。
この東校舎はアルファベットの『L』を鏡に写したような形をしている。そして各々の教室は、その細長い建物に沿うようにして、三列に並んでいる。ジュリが委員長を務める七組、そしてヒトナリが所属する六組などは、その真ん中の列に置かれている。つまり、窓というモノが存在しない訳だ。当然のように陽当たりが悪く、天気のいい昼間でも照明は点けっぱなし、そのくせ風通しだけはやたらいいために、冬などは滅法寒い。南側の列に位置し、陽当たりのいい十組や九組とは、環境的に雲泥の差がある訳だ。
まあ、それはいい。
……良くはないが、今は関係ない。問題になるのは、教室を店・会場にした場合の、集客力の低さである。文化祭を訪れる客達は、基本、南側か北側の廊下を順路として選ぶ。人の往来が多いのだ。だから南側廊下沿いにある九組、十組、そして女神像のあるホールなどは、何もしなくても、ある程度の集客が期待できる。しかし――真ん中ラインにある六組、七組などは、そうもいかない。何もしなければ、まず客が来ない。出し物に魅力があるない以前に、人通りが少ないのである。だからこそ、七組は集客の望める女神像ホールを利用したかった、ということらしいのだが――。
「そんなもの、工夫次第でどうにでもなるだろう」
「簡単に言わないでよ」
「簡単に言っている訳ではないよ。お前の能力をもってすれば、その位の逆境、はね除けることもできるだろうと、そう言っている」
繰り返すようだが、ヒトナリはジュリの――と言うか、七組の人間の――能力自体は買っているのだ。何事にも真面目で熱心で粘り強く、そのくせ発想も豊かで、様々なアイデアを思いつく才にも恵まれている。打算的で利に聡く狡賢い――という評は、そのまま、七組の優秀さの裏返しでもある訳だ。
「お前らなら――大丈夫だろう」
ヒトナリの言葉に対して、ジュリは何を言い返すでもなく――それどころか慌てて目を逸らして――慌てて、うどんを掻き込み始める。照れているのだろうか。あまり他人に肯定されることに、慣れていないのかもしれない。
「……でもさ」
一息ついて、ジュリは話を続ける。
「私らが教室での出し物決めたら、自動的に十組が女神像使うの、決定しちゃうじゃんね」
それって――何か、癪。
何処か遠い所を見つめながら、ジュリはぽつりとこぼす。
「女神像は、七組のモノじゃないだろう」
あれは学校の所有物だ。
「そうだよ。だけど、十組の連中はそう思ってない。誰も口に出しては言わないけど、女神像は自分たちのモノだと思ってる。私ら七組には渡さないって――心の中で、そう思ってる。そういうのが透けて見えるから、納得できない」
釈然としないのよ――と、ジュリは独りごちる。
「ちょっと待ってくれ。十組は出し物を決めていない。それなのに見切り発車で勝手に届け出を出してしまった――お前らは、それで怒ってたんじゃなかったのか?」
「それもある。今言った、女神像に対する意識のことも、ある。だけど――きっと、根はもっと深いところにあンだよねえ……。今回のことは単なるきっかけに過ぎないって言うか……」
「元々、反りが合わないってことか?」
「そう」
結局は、そういうことなのだろう。
七組は、熱心で粘り強い一方で、打算的で利に聡く、負けず嫌いで執念深く、自己主張が強い。気が強く、我が強く、アクが強い。そのために余所のクラスと一緒になると、敬遠されてしまうことも少なからずある。しかしクラス内の団結力は群を抜くモノがあり、集団だと時に物凄い力を発揮することがある。
一方の十組は、基本、おっとりのんびりマイペースで、ガツガツしたことをあまり好まない。好奇心が強く新し物好きで、温厚な性格で人懐っこいが、その反面、飽きっぽく、あまり集中力が続かないと言われる。協調性が高く、誰とでもそこそこ上手くやっていけるが、団結力はさほどでもない――。
上手く、やっていける訳がないのだ。
良い悪い、正しい間違っているという次元ではなく――根本的に、合わないのである。
「ま、合わないなら合わないで、どこかで妥協点を見つけるのが、委員長の仕事なんだろうけどネ――」
スープだけになった丼に視線を落とし、ジュリは溜息を吐く。
「でも、向こうがあんな態度じゃ、話し合いも何もないっての。全く――何かあるとすぐ人を悪者にしてさ……」
完璧に愚痴モードに入っている。六組の一生徒にすぎないヒトナリにそんなことをこぼしたところで、どうにもならないのは重々承知なのだろう。愚痴とはそういうものだ。だから、ヒトナリは意見も反論もせず、相槌を打つのさえ遠慮して、黙って聞いていたのである。
だけど――次の一言だけは、聞き逃す訳にはいかなかった。
「全員して、あんな風にしちゃってさ……。同情引こうってのが、見え見えなん――」
「ジュリ」
自分でも、驚くほど低い声が出た。
「それは、駄目だ」
空気が、緊張する。
ジュリがどういう立場で、自分がどういう人間であるとか、そんなものは関係ない。言っていいことと、言ってはいけないこと、というのは確実にある。
今のは、完璧に後者だ。
「……ゴメン。失言だった」
「お前は七組の代表なんだろう。発言には気を付けろ」
「――忘れて」
「もう忘れたよ」
言って、蕎麦を啜る。失言と自覚しているのなら、もはや言うことなどない。
「それで、お前は結局、どうするつもりなんだ?」
僅かに気まずくなった空気を払拭するように、ヒトナリは殊更明るい口調で、話題を元に戻す。
「どうする、って?」
「だから、女神像での出店にこだわるのか、教室での出し物に主旨替えするのか、ってことだ。この期に及んで女神像に執着したって、話は先に進まないと思うが?」
「……アンタは、教室でやった方がいいって思う訳?」
「その方が合理的かつ建設的なんじゃないかという、俺個人の見解だ。決めるのはお前だけどな」
そうねェ――と、ジュリは天を仰ぐ。
「私の一存じゃ決められんよ……。みんなで、話し合わなきゃいかんし……」
独りごちるジュリ。だけどそれは先程までの愚痴などとは違い、どこか決意表明じみている。
「ま、やるとなったらキッチリやるけどね。私、A型だし」
「ん? A型、ってのは、血液型のことを言っているのか?」
「他に何がある?」
「お前は、血液型性格診断なんて信じているのか?」
「悪い?」
そして――冒頭へと続く。
長口上のヒトナリに対し、それを全く聞いていない相手、という構図は、どこかで見覚えがある。
それはきっと、既視感ではなく、ただの既視なのだろうけれども。
「もう昼休み終わっちゃうから、長い話とかやめてよね」
携帯をいじりながらため息を吐くジュリ。
あまりと言えばあんまりな発言だ。少なくとも、さっきのジュリの話よりはよっぽど短いと思うのだが。勿論、ヒトナリは、そんな言葉は呑み込む。ジュリが復活できたのなら、それでよしとしよう。
特に親しくもない相手にここまでする程、ヒトナリという男は親切ではない筈なのだけど――昨日、アオイと話してから、どうもペースを乱されがちだ。
そう言えば。
「……十組は、結局どうなるんだ? 今のままか?」
「うん、基本的には、今のまま。何だかんだ言っても、届け出出されちゃったら、今更ギャアギャア言っても仕方ないし」
ギャアギャア言ったから、今の状況があるのではないだろうか。
多分、怪訝な顔をしていたのだろう。「まあ、騒いだから今こうしてアンタと話してンだけどね」と、苦笑するジュリ。完璧に見透かされてしまう。こういう所は、本当に鋭い。
「ただ、出し物未定で女神像確保、ってのだけはどうしても許せないから、女神像使うなら、取りあえず今日中に出し物決めなさいって、そう言っておいた。それが、引き下がる条件」
「今日中――つまり、今日のうち、ってことか?」
我ながら馬鹿みたいな台詞である。
「他にどんな今日があるってのよ」
「昨日の今日で、決められるものか?」
「決めてもらわなきゃ。ってか、他のクラスは、もうほとんど決めてンだから。私らのとこだって、とっくに何やるか決めてるんだし?」
それは――そうなのかもしれないけど。
のんびりしすぎている十組が、悪いのかもしれないけれど。
だからと言って、今まで決められずにいたものが、たった一日ですんなり決められるものだろうか。他人事と言えば完全に他人事なのだけど、ヒトナリは少し心配になる。人の気持ちを知ってか知らずか、ジュリはさっさと自分の膳を整理し、席を立とうとしている。ヒトナリとの話はこれで終わり、ということなのだろう。昼休みも残り僅かだ。先程から携帯をいじっているのも、暇潰しなどではなく、本当に多忙なのだろう。ヒトナリには知る由もないが。
「そう言えば、さ――」
腰を浮かせながら、ついでのように、ジュリが尋ねる。
「アンタ、最近アオイと仲いいの?」
「うん? 何でそんなことを聞く?」
奴とは、あくまでただの知り合いにすぎない。時々言葉を交わすだけで、お互いに友人だという認識は全くない、筈なのだが。
「だって、昨日、私が図書室行った時、何か話してたじゃんけ。後で連絡するとか、何とか」
「ああ、それか――」
今の今まで忘れていた。そう言えば、そんな約束をしていたんだっけか。
「大した話じゃない。『裏山の魔術師』って都市伝説があるだろう。アイツはそれに興味があるらしくって、俺も気になったから、今度一緒に調べてみようって、それだけの話だ」
ハッ――と、鼻から盛大に息を吹き出し、膳を持ったジュリは背中を向ける。
「馬ッ鹿みたい。アンタはともかく、アイツはそんな暇なんてない筈なんだけどな」
それは確かにその通り。返す言葉もない。
しかし。
その後の言葉に――ヒトナリは、硬直してしまったのだった。
「だいたい、あんなの、ただのペテン師じゃんけ……」




