末広とてんの祖父
…イテッ
右腕に痛みを感じ末広が目をさます
ベッドに寝かされている、そのわきに白衣の男がいて腕の傷を手当している
そのそばにいるのは制服の女の子、末広の腕を保持して介助している
…あれはたしか、この間学校であった子?
「あっ、見ろ!おまえの介助が雑だから患者が目をさましたじゃねぇか」
てんの祖父、ひとしが末広の腕にゼリー状の薬を塗りたくる
「いいじゃん、目をさまして、よかったじゃん、ねー」
てんが同意を求めるように末広をうかがう
「あの…ここは、どこですか?」
まだ意識がぼんやりしている末広がうつろな目で二人を見つめる
「どこって、病院に決まってんだろ」
「あなたはだれですか?」
「あ? このかっこうを見りゃわかんだろ、バレリーナに見えるか? 医者だ医者!」
「ま、性格には医者のようなもの…だけどねっ」
てんがいじわるっぽく口をはさんでくる
「なんだそれ? 変な言い方すんな、おれはれっきとした医者だ」
「だって患者さんこないじゃん」
「患者がこなくても医者なの!」
「…親子、仲がいいんですね」
ようやく意識がはっきりし始めた末広が二人を見つめる
「違う!」
てんとひとしが同時にきっぱり否定する
「私の父はちゃんといるから、この人はおじいちゃんだから」
「父親ねぇ…」
ひとしが手当に使った道具をかたずけながらつぶやく
「なに?ちゃんといるでしょ、私のお父さん!」
てんがむきになってひとしに言い寄る
「わかった、わかった…それよりおまえ、なんでこんな目にあった?治療代タダにしてやっから言ってみろ」
末広がベッドから体を起こす、しばらくうつむいていたが、ゆっくりいきさつを話し始めた
先輩にいんねんをつけられたこと、お金を要求されたこと、謝っても暴力をふるわれたこと…
「ひでぇことするなーそいつら」
ひとしがそばにあった検尿コップに焼酎を注ぎ飲み始める
「で、なんで言わねぇんだ?」
「え?」
「え? じゃねぇよ、親とか先生になんで相談しねぇんだって聞いてんだよ」
「…」
末広がなにも言わずうつむく
「いつも一生懸命がんばってる父親に心配かけたくないってか?…」
てんが余った包帯をくるくる巻きながらぽつりとつぶやく、末広が驚いた顔でてんを見つめる
「なるほど、そういうことか…」
ひとしがちびりと焼酎をすする
「あの!…お願いがあります!」
突然、末広がベッドに正座して叫ぶ
「こんなこと…初めて会った人に言うことじゃないのはわかっています…でも、10万円、貸してください」
「……」
ひとしは無言、てんもなにも言わない、そして…
「ない!」
きっぱりひとしが答える
「あーやっぱり、うちって貧乏なんだぁー、やっぱ、患者さんがこないから?」
てんがのけぞり天井を見上げて叫ぶ
「ばーろー、そういう意味じゃねぇよ、そんなくだらないやつにやるお金はねぇってこと!」
末広がうなだれる
「なあおい、そうだろ、そんなやつらに金渡して、それでいいわけねぇだろ、な、よく考えろ」
末広がうなだれたまま身動きせず、ひとしのことばを聞いていた




