小笠原の災難
「ということで部活動見学に行きまーす」
放課後にほのかを呼び出してんが叫ぶ
「え…」
突然のことでほのかもわけがわからない、そばにいるひかるの顔を見る
ひかるもほのかの視線を感じ不安げにうつむく
「自分の居場所を作るために部活はあるんだから!さ、行こうー」
てんがほのかの背中を押し出発
(大丈夫かなぁ?)
とひかるも後に続く
グラウンドに到着、野球部が練習をしている
「オホエー!!!」
「とれるよ!とれるよ!」
「オホエー!!!」
「よっしゃこーい!!」
「オホエー!!」
野球部独特の意味不明な掛け声が響き渡る
「…あの…てか、なんで野球部?」
ひかるがてんにたずねる、てんは腕組みをして真剣なまなざしで練習を
みつめている、その横でほのかがぼうぜんと立っている、やがて…
「こらー!今のは捕れただろうがー!腰が高いんだ!腰がー!」
突然のてんのさけびに二人が驚く
「ちょ…ちょっと、てん、まずいよ、怒られるって、ほら、みんなこっち
見てるし…」
たしかに野球部全員がこっちを見ている
「だーいじょーぶ、あたし、あそこでノックやってる先生と親しいから」
「え?監督と?」
「そうだよ、ねー小笠原先生!」
ノック中の小笠原、必死にてんを無視していたがその声に肩がピクリと
反応した
(あいつ…なにしに来た…)
てんとは以前、競馬場で出会ったことがある、当たり馬券をもらったことがあっ た
「こらーよそみすんな!次、外野行くぞー」
全力でてんを無視する、ノックを続けようとする、そこへまたてんが叫ぶ
「センセー、またあそこで一緒にデートしようねー!」
小笠原のバットが空を切る
「お…おまえ…へんなこと言うな、誤解されんだろうが!」
無視しきれなくなりてんにむかって叫ぶ、そしてノックを続けようと
グランドに目をうつす
野球部員の冷たい視線が小笠原に突き刺さってくる、小笠原の首筋に
冷たい汗が流れる
「オッス、すいません!」
突然話しかけられ驚く、一人の野球部員が帽子をとって直立で立っている
「今の話はほんとのことでありますか?」
「い…いや、ちがう…誤解だ!」
「しかし、はっきりデートって…」
「あ…いや…だから…」
ほかの部員たちも集まる、一斉に小笠原を攻撃する
「監督の不祥事だけは勘弁してください!」
「試合、できなくなります!」
「甲子園、行けなくなるじゃないですか!…もともとそんな力ないけど…」
「ちょ…ちょっと待て、誤解だ、誤解だって、あいつに聞いてもらえば
わかるって…あいつ、的場くんに…」
「…でも、もういなくなりました」
「え?」
小笠原がふりむく、てんたちの姿は見えない
「あー!」
「ねえ…いいの? なんかすごい騒ぎになってるけど」
グランドをふりかえりながらひかるがてんにたずねる
「いいの、いいの、時間ないし、次行かなきゃ」
てんたちがいなくなった後も延々騒ぎは続いた