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ツッパリ生徒会長危機一髪  作者: ヒデヨシ
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第十一話

僕らは今、銀のアパートが有る駅前のケンタッキーの二階に居る。午後の六時だ。ここからだと、駅を出入りする人間が一目で見渡せるのだ。おまけに、駅のホームの一部さえ、見ることが出来る。

僕らが、注文したチキンやパンで腹ごしらえをし、お代わり自由のコーヒーを飲みながら見ていると、午後八時近くになって、銀とのっぽが姿を現した。

僕らは、二人が駅の中に姿を消し、ホームに現れ、電車に乗るところまでをしっかりと見届けた。

それから、レジを済ませ、僕らは銀のアパートに向かって、一路、道を急いだ。銀が帰ってくる気遣いは当分無いはずだが、面倒な仕事は出来るだけ早く終った方がいいに決まっている。

覚悟はしていたものの、やっぱり胸がドキドキする。今まで、酒ぐらいは飲んだことがあるけど、明白な法律違反なんて、全くせずに過ごしてきた。万引一つやったことがないのに、今これから、とんでもないことをやろうとしている。そう思うと、自然に胸が高鳴るのだった。

かなり、早足で歩いたので、十分とちょっとで目指す銀のアパートに着いた。いよいよ階段を昇るだんになると、自然に呼吸が早くなり、自分が随分と緊張してきているのが分かる。

しかし、傍らの享にしろ、原田にしろ、一見平静を保っているように見える。原田に到っては、如何にも楽しそうなにたにた笑いが、顔からこぼれんばかりになっている。やっぱり、こいつはきっと人間じゃない。何かの妖怪なんだ。

銀の部屋の前に立つと、原田が鍵の前にかがみこんだ。僕と享で、道の方から原田の姿が見えないようにガードする。さすがに、今日は享も鍵をぶっこわして入ろうとは言い出さなかった。

原田は、二~三分針金で鍵をガチャガチャいわせていたが、やがてカチンと音を立てて鍵が外れた。

さあ、いよいよ他人の家に無断で入り込むのだ。相手がどんな悪人にしろ、これは立派な不法家宅侵入罪だ。ちょっと手足が震えるが、享は平気な顔でさっさと中に入って行った。原田も、平然と後に続く。僕も、このまま外に居るわけにはいかないので、しょうがないから中に入った。

さて、銀の部屋に入ってみると、そこには荒廃しきった光景が展開していた。

部屋に入ってすぐが、ちょっとしたガス水道のついた小さなキッチンで、そこには床一面に酒の空き瓶が数十本並んでいた。流しの中には、汚れた食器の類が、溢れるように積み重ねられていて、何やら生臭いような腐敗臭が漂ってくる。キッチンの反対側には、ひどく狭いトイレが有った。

そのキッチンと引戸で隔てられて、四畳半の部屋が続いている。その部屋には、押入れが付いている。居間として使っているらしく、テーブルがわりに炬燵が真ん中に置いてある。周りには、様々な食べ物、インスタントラーメンやカップヌードル、色んなお菓子や果物のからや食いかけが所構わず散乱しているんだ。

そこを通って奥に行くと、六畳間が続いている。汚いくせに、部屋数だけは多い。家賃はそこそこするのだろう。こっちには、押入れはない。そして、万年床が敷いてあり、この汚い部屋には不相応な立派なオーディオ装置が置いてある。しかし、CDやなんかの類は、ほとんど無い。iPOD一つで済ましているみたいだ。何となく、ガラン、とした雰囲気で、そのオーディオ装置だけが、虚しく置いてある。銀が、音楽をまだ完全には捨て切れないでいる心の、その哀れさを表しているみたいだ。

いや、その他に一つ、万年床の枕元に、立派なギターが立てかけてあった。それも、なんとなく寂しそうな表情をしていた。この部屋の持ち主の、音楽を、半分捨ててしまった後の荒廃した精神を象徴しているみたいだった。

どうも、奥の六畳には、何かを隠しておくスペースは無さそうだ。それでも、ギターの中とか、オーディオ装置の裏に、なんか隠してあるかとちょっと覗いてみたが、まあ何にも無さそうだ。

やはり、何か僕達の探しているもの、銀と、麻薬とか、どこかの暴力団との関係を表すもの、は四畳半の部屋の方に有りそうだ。僕らは、三人で手分けしてそっちの方を調べ始めた。

享と原田が押入れの中を調べ、僕が部屋の中を調べる。出来れば、僕達が忍び込んだ痕跡は残したくないから、どうしても作業は慎重にならざるを得ない。

「うわあ、何だこの押入れは、汗臭くて、おまけに黴臭えんでやんの」

押入れを開けた享が、音を上げた。

「ここに、首突っ込んで調べるのかよ。助けてくれよ」

ぶつぶつ言いながら、作業に取り掛かる。原田はと言えば、そんな薄汚い押入れでも、一向に平気のようで、喜々として中をかき回している。

「いやいや、こういう、男の一人暮しの、哀愁に満ちた部屋の有様も、それなりになかなか風情が有っていいもんですねえ。むふふふふ」

ウーム、やっぱり、こいつの精神構造は、我々まっとうな地球人類のそれとは、隔絶しているらしい。

それにしても、押入れの中も、相当に乱雑になっているみたいなので、享達もけっこう悪戦苦闘しているようだ。

僕の方はと言えば、悪戦苦闘なんてもんじゃなかった。押入れの中なら、普段あんまり気にして見ないだろうから、多少置き場所なんかが乱れてもいいが、この部屋の中となると、そういうわけにはいかない。動かしたものは、きちんと元の場所に戻さなければならない。

最初に、暴力団関係を探ってみようと思って、電話帳を見てみたが、そもそも電話帳なんて最近は使っていないらしい。まあ、必要なところは、携帯に登録しておくだろうから、当たり前か。名刺みたいなものでもないかと思って、炬燵の上を探してみたけど、なかなかそんなものは見つからない。まさか、食べ物のカスの下に埋もれているんじゃないか、と思って、そんなのの下まで見たけど、何にも見つからない。

こんなことをしているうちに、二時間近い時間が経ってしまった。

押入れを探している二人の方も、何の成果もないみたいだ。こっちは、主に麻薬そのものが、どっかに隠していないかを調べている。

だんだん、僕の胸に焦りの気持ちが生じてきた。声には出さないけど、押入れに頭を突っ込んでいる二人も同じ気持ちだろう。

頭を抱えて考え込んでいると、ふと、僕の頭に閃くものが有った。

もし、銀に、暴力団との繋がりが有るのなら、連絡は頻繁にするだろう。そういうとき、一々電話番号を全部押すだろうか。短縮番号にしているんじゃないだろうか。

そう思った僕は、電話機の底を探ってみた。携帯は、万一落としたりしたときに厄介だ。そういう大事な情報は、固定電話にしてあるんじゃないかと想ったのだ。

 予感は当たった。そこには、備忘用の短縮番号の一覧が、プラスチックのケースにおさまっていたのだ。その一番上、短縮の0番のところに、「極東会事務所」、というのが有った。

極東会……、僕でさえ名前を知っている、関西系の広域暴力団だ。最近、関東にも進出しているらしくて、東京に事務所を構えた、というのが、一時大きなニュースになったことが有る。

僕は、震える指で、持参のメモ帳に極東会、という名前をメモした。

そして、ふっと、溜息を一つついて、肩を落したときだ、視線の高さの関係で、電話の横に置いてあるメモ帳の上に、何かの跡が付いているのが光線の具合で分かった。

手に取って良く見てみると、どうやら最近受けた電話のときのメモの跡らしい。目の前で、透かしてみると、「十一月八日、八時半、事務所へ」、と書いてあるように見える。今日は、十一月七日だ。これは、銀が明日の八時半に、極東会の事務所に行くという意味だろう。そこで何が起こるのか分からないが、これは重要な手がかりになりそうだ。僕は、震える手で、慎重にその一枚をメモ用紙の束から切り離した。そして、鉛筆で丁寧になぞってから、二人を呼んだ。

「おい、ちょっとこれを見ろよ」

僕が呼ぶと、二人も手を休めて寄ってきた。

「おやおや、これはもしかすると、大当たりかも知れませんね。ぐふふふふ」

何時もの口調ながら、原田も興奮している様子だ。享の目も、ギラギラと野性味を帯びて光っている。

「ようし、これが見つかったら、長居は無用ですね。もう、かれこれ捜索を初めてから三時間ぐらい経っています。もし、明日に大事な用が有るなら、銀が今日は早く帰ってくる可能性だって有りますからね」

原田が、この男にしては珍しく、ちょっと上擦った口調で言うのに、僕も享も賛成した。

大急ぎで押入れの中も、部屋の様子も、出来るだけ元の状態に復元してから、僕らは部屋を出、原田がもう一度鍵をかけた。

さて、階段を足早に降り、暗い路地を抜けて駅前の繁華街に出たときだ、向こうの方から一人でやって来る銀の姿を見つけた。

危ないところだった。まさに間一髪、というところだ。これはまさにラッキーと言うしかないだろう。どうやら、僕達の方に幸運の女神が微笑んでくれそうで、幸先がいいな、と思った。


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