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ツッパリ生徒会長危機一髪  作者: ヒデヨシ
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第一話

最初は、それはほんの冗談から始まったことだった。神聖な生徒会長選挙を、ちょっとおちょくってみよう、という出来心から全ては始まったのだ。

最初に、自己紹介をしておいた方がいいだろう。僕達の高校生活の最後を締めくくった一連の事件の記録者として、誰が相応しいかを神聖なジャンケンで決めたところ、運良くこの僕が記録者として神から選ばれたのだから。

僕の名前は篠崎亘、Y県立至道館高校の三年生だ。もっとも、今は二月で、早々と私立大学に進路を決めてしまったものにとっては、自分がどこに帰属しているのか、どうも良く分からない、という時期ではある。

もっとも、それだからこそ、こんな風にもう過去になった事件の記録、なんて悠長なことをやっていられる訳だけど。

さて、もう一度言おう。全ては、ほんの冗談から始まったことだった。それが、あんな大事件に発展していくなんて、最初は誰一人予想していなかったのだ。当たり前だけど。

まず、全ての発端は、あの二年生のときの、秋の夕日が差し始めた放課後の自分達の教室で、何時ものように何となく気の合う連中が四人集まって、ぼんやりとだべっていたときの、鈴井美香の無責任な一言にあったのだ。

「ねえ、今度の生徒会長選挙でさあ、享を会長候補に出すっていうのはどう。あたしが、副会長候補になるからさあ、執行委員長候補には、亘ちゃんがなればいいし、議長の候補は、恵子って柄じゃないけど、それだってなんとかうまく見つかると思うんだ。どう、乗ってみない」

このとき、一緒にいたのは、僕と、美香と渡辺享と、星野恵子の四人だった。

僕のことはさておいて、美香は、美人だけどちょっと飛んだ女の子で、屁理屈に強く、うちの学校では一番の論客である。恵子は、大人しいけど、芯の強い子で、なかなか楚々とした美人でもある。ついでに、その信じられないような記憶力の良さで全校に名を知られている。それは、まるでカメラみたいな記憶力で、歴史の年号や、英語、古文なんかの単語テストには滅法強い。その凄さは、半ば伝説化していて、やれ、化学の教科書の何頁の何行目に、どんな化学式が書いてあるかを全部記憶している、なんていう噂が、まことしやかに囁かれているくらいだ。

さて、他の三人についてはともかく、享については、ちょっと詳しく説明しておかなければならないだろう。

僕らが通っている至道館高校は、一応県内では名の通った進学校だ。だから、生徒の大部分は、一応真面目で、先生の言うことは良く聞くし、まずほとんど百パーセントのものが大学進学を目指している。当然、ツッパリだの、不良だのといった輩は、全校中を虫眼鏡で探してみても見当たらない。

こういう高校では、享は異色の生徒だった。第一、格好がまず変わっている。男子の生徒のほとんどが、リクルートカットにしてもおかしくないような真っ当な髪型をしている中で、享は髪の毛を逆立て、赤く脱色した、ようするにパンクルックで学校に来ているのだ。耳には、学校にこそしてこないけど、ピアスを付ける穴も開けてある。しかも、他の生徒と違って、享には大学に行こうという気持ちがそもそも無い。享は、高校だけは親のたっての願いで卒業するが、卒業したらミュージシャンとして生計を立てていこうというはっきりした目標を持っているのだ。

そんな訳で、享にとっては、現在のところ格好だけでなく、実生活でもパンクが生活の基本になっている。

享は、今ルシファーというアマチュアバンドに属している。このルシファーというのは、現在でこそまだアマチュアだが、いずれはプロとしてデビューしようとして本気で頑張っているバンドなのだ。

そこで享はドラムを叩いている。腕は、ひいき目に見なくても、プロで十分食って行ける可能性を持っていると思う。

と、まあこんな風だから、享は、うちの学校の先生達からは白眼視されている存在だった。つまり、全校生徒の中で、およそ生徒会長という要職とはこれほど不釣り合いな人間は他に居ない、という人物なわけだ。だからこそ、享を生徒会長の候補として立候補させる、というのは、洒落としては最高だとそのとき僕らは思ったのだ。

「ねえ、享、いいでしょう」

美香が享の顔を覗き込むと、享はあんまり気の無さそうな顔で、それでも一応頷いて言った。

「ああ、いいよ、どうせ受かりっこないしな、高校生活の思い出の洒落としては悪くねえもんな」

こうして、この無責任なカップルの、無責任な発言が、飛んでもない大騒動の引金になるわけだ。(ちなみに、美香は享の彼女ということになっている。ただし、僕と恵子は今のところ何でもない。僕の方には、多少その気がないわけではないけどね)

さて、話が決まったところで、早速作戦会議となった。土台、生徒会長、なんていうのは、至道館のような進学校では、あまり有り難がられる役職ではない。近頃でこそ、推薦入学に有利だから、という理由で立候補する奴も居るけど、ちょっと前までは、受験勉強の邪魔だ、というので、なり手が全くいない時期もあったのだそうだ。

そんな訳で、今回の生徒会長選挙も、一年のときから内申点を稼ぐために生徒会の執行委員をしていた、浜口健一という男一人が立候補する、無風選挙になるだろうという大方の予想だった。

それに、はみ出しグループが(そうは言っても、享以外は、そんなに先生達に目を付けられているわけではない。ただ、先生達に目を付けられている享と、平気で付き合っているところが、普通じゃないだけだ)ちょっかいを出そうというわけだ。

「とにかくまずね、教室回りをやって、女性票をかき集めるのよ。享は、ルックスだけはいいから、大丈夫、黙って立っていて、にっこり微笑めば、結構女の子の票が集まると思うのよ」

美香が、とても享の彼女が言うこととは思えない辛辣なことを言った。(しかし、それが真実をついていることも、残念ながら認めざるを得ない。はっきり言って、享は、音楽以外のことに関しては、ほとんどパーなのだ)

「そうね、それに…あの、ポスターっていう手も有ると思うの。あの、それなら享君が話す必要無いでしょう」

恵子が、大人しそうな顔をして、消え入りそうな声で追い打ちをかけた。さすがに、享は恵子にまで話をしない方がいいと言われて、憮然とした表情をした。

「うん、とにかく、浜口陣営は、どうせ無風選挙だと思って何の準備もしていないみたいだから、先手必勝というところかも知れないね」

と、僕が締めた。

さて、そうと決まったら、早速行動開始だ。まずは、内密のうちに、ポスターをバンバン作ることにした。立候補の表明をする前に、出来る準備は早めにしてしまおうというわけだ。

幸いなことに、うちの学校での享の知名度は、圧倒的なものが有る。なにしろ、至道館祭が、つい二週間前に終ったばかりだ。

享は、その後夜祭でのロックバンドフェスティバルで、出場した団体八つのうちの三つにドラマーとして登場し、八面六臂の大活躍をしたのだ。しかも、この出場団体八つの中で、とにかく何とか聞ける腕を持っていたのは、享の出場した三団体だけだったのだ。 そんな訳で、享の格好だけで何となく享を避けていた他の女生徒達も、その格好を、単なるミュージシャンのシンボルぐらいにしか見なくなっていて、けっこうファンも付いたらしいのだ。

こういう背景が有るから、ポスターなんかの準備さえしっかりやっておけば、後は相手の油断をついて電撃的に立候補し、相手が慌てている隙に、どんどん教室回りをやって宣伝してしまえばなんとかなるのではないか、というわけだ。

早速、僕と享は大判用紙とポスターカラーを買いに、学校前の文房具屋に出掛けた。

「それにしても、お前ってつくづく分かんないやつだよな。あんな美香の言うことなんか、俺には関係ねえよって白っぱくれるかと思ったのに、案外あっさり乗って来るんだもんな、ほんと、何考えてんだか分かんねえやつ」

僕が言うと、享は平気な顔をして言った。

「そんなこと言ったってよ、折角お祭りが終った後に、もう一つ祭りをぶち上げようって言うのに、反対すんのも大人気ねえだろう。まあ、あいつも、高校生活最後の思い出に、馬鹿騒ぎをしてえんだろうしよ」

享が、以外にシャイなムードで、照れくさそうに言った。なるほど、美香は、ちゃんと大学を受験するんだから、高校生活を純粋にエンジョイできるのは、もう少しの期間しかないわけで、そこで享と一緒に騒いだ思い出を作ろうというわけか。そんな美香の気持ちを、享も察しているわけだ。ふーん、何だかんだ言って、けっこう享も美香に気を使っているんだなあ、と、妙に感心したのだ。

さて、お目当ての品物を買い込み、ちゃんと抜け目無く生徒会当てになっている領収書も貰って教室に帰ると、美香と恵子が美術選択の連中から借りてきた絵筆などを用意して待っていた。

「大丈夫、郷土研究部の部室、暫く貸してくれることになったわ。そしたら、郷研の部長の原田光男が、自分を議長候補にしろって。もちろん、二つ返事でOK出しといたわ。あそこなら、目立たないで仕事やれるわよ」

僕達が教室に入ると、直ぐに美香が一気にまくしたてた。そこで、僕達は、両手一杯に荷物を抱え、揃って郷土研究部の部室に向かった。

郷土研究部の部室は、全体にボロなうちの学校でも、特にボロな芸術関係の教室が集まっている芸術棟の二階の隅にある。普通の教室や、職員室なんかが有る棟からは、一番離れた、まさに至道館の孤島、といった感じのところだ。

やっとの思いでたどり着くと、元は物置だったのを改造した、というその部室は、さすがに数有る部の中でも、最弱小団体に属する部が押し込められているところだけあって、薄暗く、ほこりっぽかった。

そこに、変な土器のかけらや、埴輪の模型などが雑然と置いてあるので、妙にどこかの廃墟じみた荒廃した雰囲気が有った。

もう、みんな帰った後らしく、誰もいそうにない部室に僕らが入っていくと、急に暗いすみっこから、何やら骸骨じみたものが立ち上がった。

「きゃー」恵子が、悲鳴を上げて僕にしがみついてきた。僕も、思わず恵子を庇う態勢になりながら、逃げ出す準備をした。

「これこれ、きゃーとはなんですか、きゃーとは。自分のクラスメートに対して失礼な。折角、部室を貸して上げようという、僕の好意を踏みにじる行為だと思いますねえ。それは」

何だか、変に間延びのした、のんびりした口調の声が聞こえた。本当に、骸骨のように見える痩せた顔に、でっかい黒縁の丸い眼鏡をかけた原田の顔が、そこにはあった。原田は、その眼鏡をかけ直しながら、続けた。

「ま、女性の大部分は、人間をその本質で捕らえることが出来ませんからね、無理もありませんが。でも、やっぱり、人の顔を見るなり、きゃー、とは、失礼な話だと僕は思いますよ」

こんなことを、まるで自分とは関係のない、他人ごとのように話しながら、原田は、何やらにこにこと微笑んでいる。何とも、不気味な奴ではある。

こんな奴だから、今までクラスが同じと言っても、あんまり付き合いは無かったが、これからは嫌でも友人付き合いをしなければならないだろう。難とも憂鬱な話だ。

「ま、しかし、なんですね、何とも面白みのない、近頃の学校生活の中で、享君を生徒会長にしようというシュールな試みは、それなりに面白そうですからね、僕も、全面的に協力しましょう。ほっほっほ」

うーん、こんな不気味なしろもんを、仲間に引き入れて、果たしていいものだろうか。ちょっと疑問になったが、些細なこととして無視することにした。

この原田という奴は、一応我々のクラスメートだけれど、あんまり変わった男なんで、クラスでも普段は一人超然とし、あんまり人付き合いをしないやつだ。オカルトみたいなものに凝っていて、ちょっと不気味な雰囲気を持っている。おまけに、ガリガリに痩せている癖に、少林寺拳法をやっているとかで、けっこう喧嘩も強い、という訳の分からない奴だ。

もっとも、かく言う僕も、お爺ちゃんが、合気道の師範をやっている関係で、小さい頃から文武両道とか言われて鍛えられている。だから、外見がお坊っちゃん風な割りには、中学の頃は番長グループにも一目置かれていた。一対一の喧嘩なら、大抵の奴には負けない自信が有る。

享にいたっては、外見が外見だから、町の中でもけっこうチンピラに絡まれることが多く、おまけに、自分も血の気が多いから、喧嘩沙汰が絶えない。だから、享は、実戦で鍛えられていて、マジなストリートファイトになったら、おそらく三人のうちで一番強いだろう。

さて、思わぬ原田の出現で少し時間を食ったが、早速僕らは部室の真ん中に、デンと置かれている大きなテーブルの上のガラクタを片付け、大判用紙を広げると、適当な大きさに切り、ポスターの製作に取り掛かった。

とは言っても、男二人は、ほとんど美術的センスを持たないから、最初は女の子二人が下書きをしていくのを指をくわえて見ているしかない。下書きが出来てから、その枠のとおりに塗っていくことぐらいしか僕らには出来ないのだ。

しかし、意外にも原田が、その不気味な外見と、不気味な話し方にも関わらず、妙に美術的なセンスがあることを証明して見せた。

この思いがけない事態のせいで、ポスターの製作は思いの外はかどった。無責任な計画の第一日目にして、色の塗り上がったポスターが一枚完成し、他にも下書きが仕上がったポスターが三枚出来たのだ。初日にしては、上出来の首尾と言うべきだった。

帰りに、いつも別れる十字路で、僕は思わず言った。

「案外、本当に、享が受かっちゃったりしてな」

享も、美香も、恵子も、そして原田でさえも、一笑に付した。まさか、その僕の発言が実現する羽目になるとは、誰一人予想していなかった。


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