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同席者  作者: 群青
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後輩2

〈後輩2、菅野静香〉


また会社のみんなに話を聞いて回っているようですが、何か事件の進展があったんですか?最近、私の良くない噂が会社に出回っているみたいで、なんだか居心地が悪いんです。刑事さん、何か知りませんか?


やっぱり私が一番疑われているってことなんでしょうか。あの日、最後に恭子さんと一緒にいたのは私だから、ってことですか。

でも、親切で恭子さんを部屋まで送ったことが、逆に疑われる原因になってしまうなんて、ひどい話じゃないですか。あの時、車で来ていたのは私だけだったし、恭子さんのアパートは私のアパートまでの途中にありましたから、どうしたって私が送る流れになります。別に、私が自分からその役を買って出たわけでもありません。あの時は単純に、そういう空気だったんです。


私は恭子さんを殺したりなんかしていません。そんなことをしても、私には何の得もありません。私と井内さんの一件が事件の引き金になったんじゃないか、なんて無責任な憶測を平気で口にする人もいるみたいですが、酷い話だと思いませんか。

ああいう人たちは、噂話に参加して仲間内で盛り上がりたいだけで、噂の真偽なんてどうでも良いんです。そんな人の言うことを真に受けないでくださいよ。

――ごめんなさい、少し興奮してしまいました。最近参ってきているみたいで、ダメなんです。


私はもともと無愛想で、そんなに喋る方ではありませんから、入社した当初は社内でもすごく浮いていたんです。少しずつ溶け込めるようになってきたとはいえ、今でもやっぱり一部の人との間には、少し壁があるのは否めないと思います。


そんな私にも、恭子さんは分け隔てなく接してくれました。優しく丁寧に仕事を教えてくれて、ミスをして上司に酷く怒られたときも、恭子さんだけはフォローしてくれました。

私の趣味のペーパークラフトの話をしたときも興味を持ってくれて、静香さんって手先が器用なのね。面白そうだから今度教えて、なんて言ってくれたりして。恭子さんのおかげで少しずつ会社のみんなとも仲良くできるようになりましたし、本当に素敵な会社の先輩だったんです。それなのにあんなことになってしまって……。

刑事さん、信じてください。私は恭子さんを殺したりなんかしていません。


――井内さんとの関係ですか?

ええ、付き合っていたわけではありません。ですが、私は井内さんのことが好きでした。ええ、認めます。ですが、井内さんも同じ気持ちだったとは思っていません。


入社して半年ぐらいですか、まだ全然会社に溶け込めてなくて、つまらなそうな顔をして会社に通っていたと思います。

井内さんの最初の印象は、ちょっと怖い人だなって感じだったんです。見た目と違ってすごく浮ついてる、なんて噂を何度か聞いてましたから。


噂好きの澪さんの言うことですから、今の私なら軽く聞き流すところですが、当時の私は、彼女のそんな一面を知りませんでした。根も葉もないことに妙に説得力を持たせて話をしてくる澪さんの口車に、私はまんまと乗せられてしまいました。


それに私は高校も大学も女子校だったものですから、あまり男性に慣れてないことが多くて、そういう話を聞くだけで、井内さんがちょっと怖くなったんです。

でも実際に話してみるとそんなことは全然なくて、むしろ優しい人なんだと思いました。なんていうのかな、井内さんは冷たいようでいて、実はちゃんと話を聞いてくれているし、そうした上で私を輪の中に引き入れてくれるんです。


二つ先輩の営業の長山さんが、徹夜で会社に出勤してきたことがありました。仕事柄、いつもはシュッとした顔つきで、髪型もきっちり整えてから出社してくる人だったんですが、その日の長山さんったらすごく疲れ切ってて。

髪もボサボサだし、いつもの先輩からは想像もつかないくらいの間抜け面で、なんとも言えない悲壮感が面白くて、みんな笑っていました。おまけに携帯を取り出そうとした彼の鞄から、テレビのリモコンが出てきたときは、みんな大爆笑でした。


でも、その中で私一人だけが笑ってなかったんです。確かに間抜けな光景だけど、そんなに笑うことじゃないでしょ、って。今ならわかりますが、この時に私が笑えなかったのは単純に、心に余裕がなかったからです。みんなの輪に溶け込めてるって自信がどうしても持てなくて、一歩引いて考えてしまったからです。


でも井内さんは、「ほら、菅野さん。見てよ。リモコンだって!何に使うんだよ」って私も笑いの輪に入れてくれたんです。だんだん私も可笑しくなってきちゃって、それからちょっとずつ、会社で話せる人も増えてきたように思います。


本当に取りとめのない話題でも、私はみんなの輪の中で笑っていられる自分に、少しずつ自信を取り戻していきました。恭子さんと井内さんのおかげで、何とか私は職場に居場所を見つけられました。


そんなことがあってから、私は井内さんに好意を持つようになりました。でも、私は男性と付き合ったこともないし、井内さんはライバルが多そうだから、自分からは特に何もするつもりはありませんでした。


そんな矢先、井内さんに食事に誘われました。男の人と二人で出かけるなんて初めての経験だったので、すごく緊張しました。どうしても、いつもみたいに話せなくて、なんだかぎこちない感じでしたけど、それでも井内さんは優しくリードしてくれて、とても楽しい時間を過ごしました。


その後、彼の部屋に誘われて、その日はそこに泊まりました。井内さんはきっと、私と関係を持ったとしても、私と付き合うことは望んでないだろうな、とは薄々気づいていましたが、正直なところ、少しは期待せずにはいられませんでした。

私は、井内さんが好きでした。彼にその気がなくても、少しぐらいは特別扱いしてほしい気持ちもあって、少しちょっかいをかけたりもしました。

今思えば、情けない話です。もともと付き合えるとは思っていなかったのだし、さっさと諦めて、別の人を好きになってしまえばよかったのです。でも、その時の私にそんなことはできませんでした。


私は気持ちを抱え込みながらも、井内さんを諦めていました。ですから井内さんと恭子さんの関係が噂されたときも、そこまでひどく落ち込むこともありませんでした。むしろ、素敵な人同士、お似合いではないかとも思いました。


井内さんとの関係のことで、今回の事件に関してどんな風に言われているかなんて、簡単に想像がつきます。ですが、それは甚だ見当違いな話です。


――事件当日の夜についてですか?

わかりました。お話しします。一次会にみんなと参加した後、先程も言いました通り、恭子さんの体調が優れないということで、恭子さんを私の車に乗せて、彼女の部屋に向かいました。その時に車の時計を見ましたが、恭子さんの家に着いたのが、多分10時45分頃だと思います。


それから恭子さんを部屋まで送って、介抱した方がいいですかと聞きましたが、少し休んだら良くなったから大丈夫だと仰ったので、恭子さんが部屋の中から鍵をかけたのを確認して、すぐに私も自分の部屋に戻りました。


恭子さんの部屋を出たのが11時過ぎだったと思います。自分の部屋についたのは11時半過ぎだと思います。時計を見たわけではありませんが、恭子さんの家から私の家まで、車で30分程度ですから、大体その時間になります。


――え?他に何か重要な証言はないか、って?

……ありません。思い出したらまたご連絡します。

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