同期1
〈同期1、水樹マリ〉
お久しぶりです、刑事さん。
昨日もお話を聞きに来られましたね。その後の捜査は順調ですか?私に協力できることであれば何でもしますから、遠慮なく言ってください。
――ええ、大丈夫です。恭子さんがいなくなって、正直まだ心の整理がついていませんが、恭子さんの仕事の後始末に追われながら、何とかうまくやっています。色々考えてしまうとつらいので、仕事に追われている方がむしろ気が楽かもしれません。
――え?ああ、お気遣いありがとうございます。刑事さん、お優しいですね。
恭子さんには本当に仲良くしてもらいましたから、あんなことになってしまって、本当に残念です。できる限り協力しますから、一刻も早く犯人を捕まえてください。このままでは恭子さんが可哀想です。
――社員のみんなの雰囲気はどうかって?
それが、なんだかよくないんです。もちろんあんな事件が起こったせいで、会社全体で面倒なことを背負い込む羽目になってしましましたから、空気がピリピリしているのは事実です。でもそれだけではなくて、なんだか嫌な空気が社員の間に流れている気がします。
一言でいうと犯人捜しです。恭子さんはああ見えて実は、誰かに恨まれていたんじゃないか、とか、そういう類の噂が流れているみたいです。恭子さんは、誰から見ても印象のいい人だっただけに、そういう根も葉もない話が社内で囁かれているようです。
しかし犯人捜しといっても、肝心の誰が犯人なのかということに関しては、誰もはっきり議論しようとしないようです。多分、噂話に参加することで得られる何か一体感のようなものが欲しいだけで、そのことで誰かに恨まれたり、ましてや警察に証言を求められたりなどといったことは御免なのでしょう。
みんな、怖がっているのです。
犯人は恭子さんと顔見知りである可能性が高いということがわかって、なにかの間違いで自分が容疑者にされてしまうのではないか、もしくはそういう誤解を受けることで、自分が不利益を被るのではないかと怯えているように見えます。
特に事件の晩、彼女と一緒に飲み会に参加していた私も含めた6人は、何か事件に関係しているのではないかと、陰で色々と言われているようです。もちろん誰もはっきりとそれを口に出したりしません。しかし面と向かって言われずとも、簡単にそれを感じ取ることができます。
――私も噂の標的にされて塞ぎ込んではいないか、って?
いえ、大丈夫です。刑事さんは本当にお優しい方ですね。
私なら何を言われても大丈夫です。もともと他人の言うことをあまり気にしない性格ですし、同期の何人かは私を気遣ってくれますから。
あの、私の事よりも静香さんは大丈夫でしょうか。
恭子さんがあんなことになって、静香さんはすごくショックを受けていました。その上なんだかんだ言って、みんな静香さんを疑っています。飲み会の場にいなかった人でも、色んな人から断片的な話だけを聞いて、彼女の陰口を言っているようです。
彼女は少し気弱で、一人で抱え込むようなところがありますから、最近本当に心の余裕がなくなっているみたいで、少し心配なんです。もしよければ、刑事さんの方からフォローを入れておいてもらえませんか。警察の人に言われたら少しは安心できると思いますから。
――静香さんと恭子さんの関係はどんな感じだったか、ですか?
もしかして、静香さんを疑っているのですか。あくまで正確な捜査のため?本当ですか?
恭子さんは基本的に、誰とでも仲良くなってしまいますが、静香さんの方も彼女を慕っていたと思いますよ。むしろ恭子さんと話している時が一番落ち着いていて、会話を楽しんでいるようでした。
静香さんはあまり他人と深く関わるタイプではないようでしたが、恭子さんとはとても仲が良かったと思います。口にこそ出しませんが、会社の人の中では、恭子さんが一番好きだったのではないでしょうか。
二人の関係に何か溝があったようには見えませんでした。ましてや殺してしまう程の理由があったようには思えません。静香さんは、気が小さくて少し頼りないところもありますが、真面目で思いやりのある子です。人殺しなんてしませんよ。
――事件当日の行動についてですか?昨日も聞かれましたが、確認ということですね?
昨日お話した通りで、間違いありません。午後8時にみんなと一緒に飲み会に参加して、午後10時過ぎまで飲んでいました。もちろんその間、一度も飲み会を抜け出したりはしていません。
一次会が終わった後は、静香さんと恭子さんを見送った後、店の前で澪さんと別れました。その後の行動については、証人はいません。家までずっと一人でした。
私からお話しできることは以上です。
また何かわかりましたら、捜査に影響がない程度で構いませんから、教えてください。




