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ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ

紅蓮の女帝の帰還〜脳筋爺ちゃんズが正座させられた日〜

作者: ふくまる

『ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ!』シリーズ第3作です。

本作だけでもお楽しみいただけますが、第1作・第2作を併せて読んでいただくと、より深くヴァーミリオン家の愉快な世界を堪能していただけます。


興味を持ってくださった方は、下記URLをコピペしてどうぞ!


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▶︎11月7日 [日間] ハイファンタジー〔ファンタジー〕ランキング - 短編 第2位

1作目:『ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ!』

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2作目:『「女王様って素敵」と呟いたら、脳筋爺ちゃんが王国を乗っ取った件』

https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2940370/noveldataid/27268881/

「あいつが、帰ってくる」


「んな!? このタイミングで」


「マズイぞ! ……何か言い訳を、上手い言い訳を考えねば」




とあるよく晴れた日。

辺境領ヴァーミリオン家の玄関には、巨大な荷物が運び込まれていた。


長さ十メートルはあろうかという、氷漬けの塊。中には触手が無数に生えた巨大クラーケンが封じられている。北の海に生息する、討伐困難な凶暴魔物だ。


荷物の札には、エレオノーラ・ヴァーミリオンの署名。


一年に渡る遠征から、本日ついに母が帰ってくる。


ヴァーミリオン辺境伯家長女リリアは、お土産の巨大クラーケンに目を輝かせた。今夜はクラーケン三昧のフルコース。母を囲んでの楽しい食事会の予定だった。


一方――サロンでは、この家の男たちが青ざめていた。


伝説のドラゴンスレイヤーにして「歩く災害」と恐れられる祖父ガルド。王国最強の名を継いだ父ガロン。辺境の武の一角を担う叔父バルト。そして脳筋な兄のレオンと弟のカイル。


普段は威風堂々としているこの国の最高戦力たちが、顔を寄せ合い、揃って震えている。


理由は明白。


ヴァーミリオン家の真の支配者、『紅蓮の女帝』エレオノーラの帰還だ。



***



その日の夕刻、栗色の長髪を優雅になびかせた背の高い女性が屋敷に到着した。


クールビューティーな容貌。一見すると華奢に見えるが、よく見ればしなやかな筋肉が美しい。ドラゴンスレイヤーに育てられただけはある、立派なマッチョレディだ。ただし一見してそうは見えない分、タチが悪い。見た目詐欺。初見だけレディ。それが、ヴァーミリオン家の女主人エレオノーラという人だった。


「お帰りなさい! お母様」


エレオノーラは嬉しそうに駆け寄ってくる娘リリアを優しく抱きしめ、再会を喜んだ。その後ろで固まっている男たちにも、にっこりと微笑んで帰還の挨拶を述べる。


その笑顔は、あまりにも美しく、そして恐ろしい。


ガルドは視線を逸らした。ガロンは震える声で「お、お帰り、エレオノーラ」と声をかけた。叔父と息子たちは大柄な二人の陰に隠れ、小さな声で「おかえりなさい」と言うのが精一杯だった。



***



夜、大広間に並べられたクラーケンのフルコース。


刺身、焼き物、スープ、唐揚げ、グラタン。リリアは目を輝かせて料理を楽しんでいる。エレオノーラも穏やかに微笑み、せがまれるままに旅先での話を語った。出会った人々のこと、珍しい食べ物、北の海の様子、そして巨大クラーケンとの死闘。


リリアはどの話にも目を輝かせ、楽しそうに耳を傾けている。


対照的に、男たちの箸は震えていた。

よく見れば、せっかくの料理もあまり喉を通っていないようだった。


食事が終わり、リリアが「おやすみなさい」と微笑んで部屋を出ていく。

バタン――扉が閉まる音が響いた瞬間、広間を静寂が包み込んだ。


コチ、コチ、コチ……。

重く張りつめた空気の中、柱時計の針が時を刻む音だけがやけに鮮明に響く。


背筋を冷たいものが走った。

男たちは思わず、エレオノーラへと視線を向ける。

――彼女もまた、静かに彼らを見つめ返していた。


先ほどまでの穏やかな微笑みは消え、冷たく鋭い眼差しがテーブルを囲む男たちを一人ずつ射抜いていく。


やがてエレオノーラが、優雅な所作でテーブルに手をついた。


「――さて。」


その瞬間、シュパッ。

男たちの身体が同時に動き、全員が床に正座していた。


この国の最高戦力が、一列に並び、ぎゅっと握った手を膝に置いて、揃って床に座っている。大きな身体を極限まで縮こまらせ、震え上がる様はまさに蛇に睨まれた蛙の集団だ。


エレオノーラは嫣然と微笑んだ。



「さて、父上。それから旦那様。あなた達も。申し開きがあるなら、聞いてあげるわよ」



優秀な密偵ネットワークを持つ彼女は、すべてを把握している。


リリアの婚約破棄騒動。王太子に一方的に婚約を破棄されたリリアのため、ガルドが単独で王宮に乗り込み、結界を破壊し騎士を気絶させ玉座の間まで制圧した、あの事件。


クラウン強奪事件。リリアが「女王様って素敵」と呟いたのを聞いて、男どもが揃ってドラゴンに乗り夜襲をかけ、宝物庫を破壊し国宝を持ち去った、あの事件。


その他、領内での筋肉自慢大会強制開催、リリアに求婚しようとした男たちへの威嚇、魔猪討伐での森林破壊。


細々とした不始末が山ほどある。


エレオノーラは控えていた侍従から書類の束を受け取り、一つ一つ読み上げ始めた。



***



ガルドは視線を宙に彷徨わせた。ガロンは額の汗を拭った。バルトは膝の上で握った拳を一心不乱に見つめている。レオンとカイルは、ただただ小さくなって俯いていた。


エレオノーラは穏やかに、しかし淡々と事実確認をし、その一つ一つについて問題点を指摘していく。


王宮制圧について。力任せすぎる。もっとスマートにやるべきだった。


クラウン強奪について。完全に犯罪。返却手続きと称号辞退の交渉がどれだけ大変だったか。


その他の不始末について。私がいない間に、好き勝手やりすぎ。


リリアのための行動を否定されるのであれば、反論もある。

だが、そうではない。

彼女は「やったこと」ではなく、「やり方」について淡々と意見を述べていく。

その指摘はあまりにも的確で、返す言葉は誰からも上がらなかった。



一通りの事実確認が終わると、エレオノーラがゆっくりと立ち上がった。

その気配に、つられるように視線を上げると、その瞳に紅い炎が灯っているのが見えた。


「ヤバイ!」


誰もが思った。本能が警鐘を告げる。

錯覚ではない。本当に、紅蓮の炎が宿っている。


『紅蓮の女帝』の異名は、伊達ではない。

言いようのない恐怖が、場を支配した。


実は表向き「王国最強」を夫に譲った形のエレオノーラだが、本当の実力はガロンを遥かに上回る。火と風の魔法を操り高火力魔法をバカバカ撃ち、おまけに肉弾戦もお手の物。ひとたび怒らせたら誰も手をつけられない。


ガルドですら、若い頃ならいざ知らず、今となっては実の娘には勝てるかどうか自信がない。


「逆らってはダメだ!」


本能がそう告げる。


ヴァーミリオン家で最恐なのは、間違いなく彼女だった。



***



視線を落とし、黙ったまま床の石材を見つめる男たち。


美しい大理石の床。何代か前の当主夫人が審美眼の高い方で、わざわざ南方から取り寄せた特注品だという。白地に灰色の繊維状の模様が入り、磨き上げられた表面は鏡のように滑らかだ。


ガルドは石目の流れを目で追った。ガロンは大理石の継ぎ目を数え始めた。バルトは自分の膝の影の形を観察している。レオンとカイルは、床に映る自分の顔をじっと見つめていた。


現実逃避だった。


エレオノーラは深く溜息をつき、静かに語った。


あなた達は強すぎる。だから力で何でも解決できると思っている。でもリリアが本当に必要としているのは、力じゃなくて優しさと知恵なのだと。


リリアはあなた達に守られて幸せだと思う。でも同時に、暴走に困っている。


だからこれからは、少し考えてから行動しなさい。


一人一人の顔を見ながら告げるエレオノーラに、男たちは素直に頷くしかなかった。



「では、この反省を筋肉に刻むため、罰を与えます」



明日から一週間、リリアの護衛はエレオノーラが担当する。男たちは領内の復興作業に専念すること。森の修復、農地の整備、道路の補修。自分たちが壊したものを、全部直す。


もちろん、魔法も武器も使用禁止。素手と道具だけで。



「わかりましたか?」



一見穏やかなその問いかけと同時に、エレオノーラの手には紅い炎が灯る。男たちは慌てて「喜んで復興作業に励みます」と答えるしかなかった。



***



その夜、エレオノーラはリリアの部屋を訪れた。


ベッドに座る娘の隣に腰を下ろし、優しく語りかける。大変だったわね、と。


リリアは少し考えてから、でも嬉しかったと微笑んだ。お爺様たちが自分のことをそんなに大切に思ってくれているんだって、実感できたから。暴走しすぎて困るけれど、愛されているのは幸せだと。


エレオノーラは優しく娘の頭を撫でた。本当に優しい子ね、と。そして困った時は私に言いなさい、ちゃんと叱っておくから、と。


「ありがとう、お母様。それから、お帰りなさい」


母娘は静かに抱き合った。



***



翌朝、ヴァーミリオン家の男たちは揃って領内に出発した。


素手で木を植え、道路を直し、農地を整える。魔法が使えない辛さを、身をもって知る日々。


数日後、ボロボロになって帰ってきた男たちを、エレオノーラは優雅に出迎えた。


反省した?と尋ねると、全員が素直に「はい」と答えた。


「それじゃあ、頑張ったあなたたちのために、今夜はそれぞれの好物を作ってあげる」


そう言って、エレオノーラがにっこり微笑むと、男たちの顔がパッと明るくなった。


「ちゃんと反省したご褒美よ」



***



その夜、大広間には再び賑やかな食事会が開かれた。


テーブルに並ぶのは、男たちそれぞれの好物。


ガルドのために、肉厚の赤熊(レッドベア)ステーキ。魔の森の特産品の一つで、最も脂の乗った部位を、エレオノーラが完璧に焼き上げたもの。表面はカリッと香ばしく、中は柔らかくジューシー。


ガロンのために、魔猪(ワイルドボア)の角煮。柔らかく煮込まれた肉は箸で切れるほどで、甘辛いタレが食欲をそそる。エレオノーラに一目惚れした際の討伐で、初めて共に食べた思い出の一品でもある。


バルトのために、グリフォンの胸肉のロースト。希少な食材を、エレオノーラが香草とともに丁寧に調理した逸品。数が少ないので滅多に口にすることができないレア中のレアだ。


レオンとカイルのためには、巨大蟹の爪を使った豪快な蒸し物。ボリューム満点で、兄弟の食欲を満たすには十分すぎる量。今回のお土産の一つでもあり、そのまま食べても、甘酢をつけても美味しい。


そして、リリアのためには色とりどりの野菜のテリーヌと、海鮮料理。今回エレオノーラが新鮮な魚貝類を豊富に持ち帰ってくれたおかげで、普段の肉料理中心の食卓では並ばない、北の海の恵みをふんだんに取り入れた品々を用意することができた。


男たちは幸せそうに食事を楽しんでいる。リリアも嬉しそうに微笑んでいる。


エレオノーラは、その様子を眺めながら静かに微笑んだ。


この家族と領民を守ること。それが紅蓮の女帝たる私の務め。


そしてリリアの日々の安寧と幸せを守ること。それが母としての務め。


男たちは思った。


やっぱりこの家で最強(恐)なのは、紅蓮の女帝エレオノーラだと。


そして同時に、一番愛が深いのも彼女なのだと。


辺境伯ヴァーミリオン家は、今日もやっぱり平和だった。



(完)



――あとがき的なもの――


こうして、紅蓮の女帝エレオノーラの帰還により、ヴァーミリオン家の男たちは反省を余儀なくされた。


なお、この一件の後、男たちは以前よりも慎重に行動するようになったとか。


ただし「慎重」の基準がヴァーミリオン家基準なので、一般的にはまだまだ暴走気味である。


エレオノーラは今日も、家族の暴走を優雅に制御しているそうで、リリアは「お母様がいてくれて良かった」と心から思っているらしい。


めでたし、めでたし。

ガロンはエレオノーラに一目惚れして婿入りし、結婚後、彼女に鍛え直されました(今のガロンの強さは彼女のおかげ)。


★お読みいただき、ありがとうございます★

楽しんでいただけたでしょうか?


ブクマ・評価・リアクション・感想も大歓迎!

目指せ★三作同時TOP10入り!!╰(*´︶`*)╯♡

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― 新着の感想 ―
そうか…じいちゃんより上のヤバい人がまだ居たのか(;・∀・)
笑いました!孫娘の護衛騎士とのラブ?試練?も是非。
爺ちゃんシリーズ大好きです。また続編読みたいです( *´艸`)
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