メイドは見た そんな!?リベロン様!!
「キエ――ッ 悪霊退散!!」
バッサバッサと頭の上でハタキに似た何かを振られる。
「はい!これであなたの悪縁を断ち切りました!!」
最近なぜか殺人事件に縁があるスフィア=メルシエです。メルシエ男爵家長女で、難関の王宮メイド試験を突破し、晴れてこの春から第3王子殿下カイン様のメイドとして働いています。
まだ働いて間もないのに、殺人事件に巻き込まれること3回。他のメイドに聞いても明らかに私だけなぜか多いということが分かり、最近よく効くと噂になっている祈祷師のところにやって来ました。
そう祈祷師……。
ちょっと怪しいと思ったあなた!!
実は……ぶっちゃけ私も思っています。でも藁にも縋る気持ちで今日この場に臨んでいます。さすがにこれ以上殺人事件はお腹いっぱいです。
当たって砕けろ作戦!!いや、砕けたらダメですが……。
「先生、これで大丈夫でしょうか?」
「……そうですね。おそらく大丈夫だと思いますが念の為お守りも持っておく方が良いでしょう。あなたは見たところ厄介な者を惹きつける相が出ております」
そう言って祈祷師の先生は私にお守りをくださった。
「肌身離さず持っておくように……お代はこちらになります」
げっ!!お守り代タダじゃないの?祈祷料も高かったし今月のお小遣いが大ピンチである。
「先生持たないとどうなりますか?」
「……受難が再び起こるでしょう」
それは嫌!!
……仕方がない、買おう。
しぶしぶお金を払い、私はお守りをゲットした。
次の日仕事場にお守りをつけて行くと早速主のカイン様にお守りを見つけられた。
「スフィ、その腰のなあに?」
「これはお守りです。私を悪い者から守ってくれるそうです」
「ぼくもスフィを守る!!お守り作ってあげるね」
にっこり笑顔で宣言されます。
尊い!!!
カイン様のお守り……。プレミア価値がつきそうですね……。
「カイン様、そのような女に作る必要などありません。王妃様に作られたらどうでしょうか?」
カチン!
そのような女って何ですか。そのような女って。
相変わらず顔と言動が一致しない男ですね。
一際目を引く艶やかな金髪。どこまでも吸い込まれそうな紺碧の瞳。百人中百人が美しいと認めるその美貌。仕事に関しては一切の妥協を許さず、にこりともしないことで有名な第三王子付近衛兵筆頭リベロン様である。
「お母様に?うん、作る!!」
ああ、カイン様まんまとこの男の口車に乗せられて……。
「ところで早く片付けろ。もう夕方だぞ。早くせんと夕食は食べられないだろうな……」
リベロン様は不敵な笑みを浮かべられる。
「片付け……入りますか?」
見よ!この芸術作品を!
今日はカイン様と1日中庭で砂遊びに興じた。そこで作った超大作!!山があり川があり橋があり、細かなディティールにもこだわりました!!しかもカイン様との合作!!きっと王様や王妃様も喜んで拝見していただけると思います!
「お前、明日は何の日だ?」
「明日……明日は確か……何の日でしたっけ?」
私の言葉を聞くとリベロン様は眉間にシワを寄せられため息をつかれる。
「はぁ……お前、それでも王宮メイドか。明日は王妃様主催の花を愛でる会がある。中庭でな」
そうでした!!今朝メイド長に中庭の花をちぎらないように注意を受けたばかりでした!!
「でも花はちぎっていませんよ?」
私は学習したのである。
先日カイン様とともに中庭の花を摘みどの蜜が甘いか食べ比べをしたところ花の中にたいそう珍しい花が含まれていたためにメイド長から大目玉を食らったのだ。私は失敗は繰り返さない女である。
「この景色の中、花を愛でられると思うか?」
いや、確かに砂の作品の主張が強い気もしますが、カイン様作と聞けばいける気が……
「ワンチャンいける気がします!」
「いけません!!すぐに片付けなさい!!」
ドーンという効果音(空耳)とともにメイド長が現れる。
「カイン様、間もなく夕食のお時間ですよ。お着替えをなさらないと……こちらにどうぞ」
「でも、片付けしないと……スフィ1人だと大変だよ?」
ああ、なんて賢く優しくお育ちなんでしょう。
「大丈夫です。きっとこの作品作りをお止めしなかったリベロン様が一緒に片付けてくださいます。リベロン様は力持ちですから、片付けもきっとすぐ終わりますわ」
「リベロンが一緒ならすぐだね!じゃあスフィ、リベロン、先に部屋に入ってるね」
カイン様は私とリベロン様に手を振られるとメイド長とともに室内へと入っていく。もちろん護衛としてリベロン様の部下も一緒にだ。
中庭には私とリベロン様が残された。
……気まずい。
だが、早くしなければ夕食を本当に食べ損ねてしまう。
「……おい、不本意だがカイン様に頼まれたら仕方がない。さっさと終わらせるぞ」
リベロン様は不機嫌そうに呟かれますが、手にはスコップを握りやる気満々です。よし、私も取り掛かりましょう。
10分程で中庭は元の平たい地面へと戻りました。
「さすがリベロン様!!手際が良い!!」
本当に!!私がする何倍ものスピードで片付けてくださったのであっという間だった。
「ふん。早くカイン様の元に戻るぞ……お前、なんだその汚れは?」
リベロン様に言われて自分の服を見るとメイド服が泥だらけである。いや、砂遊びもしたし、片付けもしたから仕方がないのだが、一方のリベロン様は全く汚れていない。……解せぬ。
「着替えて来い。俺は先に行く」
「……分かりました。私もすぐに着替えて合流します」
これはリベロン様が正しい。早く着替えないと夕食が!!とりあえ入る前に泥をはたくと、プチっという音とともにお守りが切れて下に落ちた。
「あっ……」
「どうした?」
先に進んでいたリベロン様が私の呟きに反応し、振り返る。
高かったのに……もう壊れるなんて。お守りを拾おうとかがみかけたその時、リベロン様に思い切り抱きしめられそのまま引き寄せられた。
えっ……これはどういう状況?
リベロン様といえど男性。しかも結構胸板がある。男性とお付き合いはおろか、手も握ったこともないのに……。ドクドクと心臓の音が聞こえてくるのを感じながら私の脳内はプチパニックになる。
「……あの、リベロン様……私は……あの……急に抱きしめられても心の準備が……もっと、前の段階から……」
ドン
その直後大きな音が目の前に響く。
なんだなんだ?何の音?
リベロン様はペイっと私を乱暴に横に下ろすと、立ち上がった。
「お前……本当に祈祷に行ったのか?」
「もちろんです。お守りももらって……切れてしまいましたが……」
「その祈祷師インチキだな。見ろ」
いや、もう既に見えています。
さっきまで私がいたところに血を流しうつ伏せで倒れる男性が。
「……死んでますか?」
「おそらくな。さっき塔の上に人影が見えた。確認に行くぞ」
「いえ、私は今回無関係なので着替えに行きますね。助けていただきありがとうございました」
ホホホと言いながら、その場を立ち去ろうとする。
「……痴女」
「えっ!!」
「さっき俺の胸板を触っただろ?」
「いえ、それは……」
目の前に良い胸板があったら、触りたくなるでしょう?えっ、なりませんか?
「……不可抗力です」
「いや、あれはどう見ても故意に触っていた。そんな評判が立ったらどうなるかな」
リベロン様はにやりと不敵な笑みを浮かべられます。
「……行きます」
「よし!行くぞ。……意外とお前は使えるからな」
意外とは余計です。
「誰か!!」
リベロン様の一声で近衛兵が集まってくる。
「死体の確認を」
「了解しました」
「俺達は行くぞ」
「……はい」
とほほ。
中庭の塔は何代か前の王が自分が治める国を見渡せるように建てられたもので、5階建てである。今は自由に開放されており、夕焼けや朝焼けの街を一望できることから密かなデートスポットとしても知られていた。
塔の三階くらいにさしかかった時、青ざめた表情で上から下りてくる女性と遭遇した。
「あの!!今彼が足を踏み外してしまって!」
泣きそうな表情で訴えてくる。
「……残念ですが……」
「そんな……ミケイド……」
その場に崩れ落ち、泣き始めてしまった。
「お嬢さん、とりあえず現場を確認したいので一緒に来ていただけますか?」
リベロン様が優しく手を差し伸べ、女性の腰をそっと立たせる。
「……分かりました」
リベロンマジック!!
お嬢さんは泣き止み、ほんのり顔を赤くしている。
一緒に最上階まで登ると開けた空間が広がっていた。中央にはピクニックシートが敷かれ、美味しそうな料理と飲み物が並んでいる。
カップルで夕日を見に来たんだろうな……。
それがこんな結末になるなんて……。
そういえば彼女まだ暑さも厳しいのになぜ長袖?
「あの、暑くないですか?」
「ああ、この服装ですか?夜までいるつもりだったので冷えるかと……」
確かに夜は急に寒くなる。
「落ちた状況を教えていただけますか?」
「はい。私とミケイドは共に王宮で務めていまして、お付き合いをしていたんです。この塔から見える夕日が美しいと彼から聞き、2人とも非番の今日ご飯の用意をして登って食事をしていたんです。少し高いワインも用意して一緒に飲んでいたのですが、急に彼がふらついて止める間もなくそのまま……」
ぽろりと涙を流す彼女につられてこちらも泣きそうである。
「結婚の話も出ていたのに……」
可哀想で見ていられない。
ぐー
と思っていましたが、私のお腹は限界のようです。目の前のピクニックシートには美味しそうな料理がまだまだ並んでいます。
「あの……この料理少しいただいても良いですか?」
「駄目です!!」
急に大きな声で彼女に怒鳴られる。
「いや……あの、すみません」
彼のために作っただろうから、デリカシーが無かったな。でも、お腹がすきました。
「そういえば、彼は酔いやすい方でしたか?」
「いえ、友人たちの間ではザルと言われていました。日ごろは全く酔わないので。だから今日も彼がワインを持って来て飲んでも何も思わなかったんです。疲れが出たのかも……」
「そうですか。飲み物は彼が……。食べ物は貴方が持って来られたんですか?」
「はい。料理が得意で……今日も早起きして作ったのに……」
「確かに……美味しそうですね。私も一ついただいてもよろしいですか?」
「はい。でしたらこれを召し上がってください」
彼女は食べさしではなく新しい物を取り出した。
「いえ、こちらの食べさしで大丈夫ですよ」
リベロン様はにっこりと微笑み、料理に手を伸ばす。
「駄目です!!」
またも、彼女に止められた。
「あの……食べさしは貴方には食べさせれません。どうぞこちらを」
そういって彼女は新しい物を差し出す。
「リベロン様、くださると言っているのだから文句を言わずに召し上がったらどうですか?」
「……そうだな。ところでお嬢さんもご一緒にどうですか?スフィア、お前も。お前は食べさしでも気にせんだろう?」
「はい!もちろん気になりません」
お腹の中に入れば一緒ですから。そういって私も料理に手を伸ばします。
「駄目!!」
彼女の強い力で料理を叩き落とされます。そして彼女はボロボロと泣き始めました。
「……ごめんなさい。ごめんなさい」
「貴方が犯人ですね?」
彼女はこくりと頷いた。
え――!!
リベロン様なんで分かったんだろう。
「どうしてこんなことを?」
「結婚の話が出る前までは本当に優しい人だったんです。それが結婚が決まってから急に本性を見せるようになって…。気に入らないことがあると殴られて、怖くて怖くて、いつか殺される前に一緒に死のうと思いました」
「その服もアザを隠すためですね」
「……はい」
袖をめくると無数のアザが見えた。……ひどい。
「殺してしまったことは取り返しがつきませんが、あなたはきっとやり直せます。だって私たちが食べるのを止めてくれたでしょう」
「それは……関係の無い方を巻き込んではいけないので……」
「話を聞けば情状酌量の余地はかなりあります。死ぬことなど考えず、また一からやり直されてはどうでしょう?」
彼女はリベロン様の言葉に小さく頷かれました。
一件落着。
ぐー
再びお腹が鳴ります。
でも、この料理本当に美味しそう。
「……食べるなよ」
そう言い残すとリベロン様は彼女を連れて階段を下りていった。そして私が1人取り残されます。
って言うか、私がいる意味って……。
「リベロン様の馬鹿――!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
リベロンとその部下の会話
「筆頭、何でスフィア様と一緒に現場に行かれたんですか?」
「うん?あいつの突拍子もない行動や言動で犯人がいるならボロをだしてくれるからな」
「なるほど。あと、お弁当には何が入っていたんですか?」
「多量の睡眠薬だ。おそらくふらついてそのまま落ちたんだろうな」
「……彼女可哀想ですよね。一緒に死ぬことを考えるくらい追い詰められて……」
「いや、どうだろう。一緒に死ぬ気なら既に睡眠薬入りの料理を食べていると思うぞ。彼女が口を開きやすくするために同情した風を装ったが、あれはかなりしたたかなんじゃないかな。ま、暴力男は許せんから彼女の罪がどうなろうと興味はないが……」
「そういや筆頭、スフィア様を抱いて助けられたと伺いましたが」
「そりゃあ、近衛兵なら当たり前だろう」
「スフィア様が無事で良かったですね」
リベロン心の声
( 目の前で死なれたら寝覚めが悪いからな )
部下心の声
( 筆頭。ついに一歩を踏み出されたんですね。これからも2人を応援します!!次のラッキースケベを何とかして演出しないと…… )
祈祷師心の声
( この間の客は大丈夫だろうか。気休めのお守りを渡したが、金髪に紺碧の瞳の厄介な男の姿が見えたが……。ま、駄目ならまた来るだろう )




