第4話:親友ヒロイン、まさかの応援ポジションになる。
「リヴィア様って、最近本当に変わられましたよね」
そう言って微笑んだのは、乙女ゲームの“正ヒロイン”であるはずの少女――ロザリア・ミルステル。
柔らかい栗色の髪に、大きく澄んだ瞳。
平民出身ながらも、礼儀正しく、心優しい“王道ヒロイン”そのものの彼女は、本来なら私――悪役令嬢リヴィアの宿敵のはずだった。
(なのに今、なんで……こんなに仲良くなってるの!?)
中庭で紅茶を飲みながら談笑していた私たちを見て、すれ違う生徒たちが驚きの目を向けてくるのも無理はない。
「貴族の世界には、まだまだ不慣れですけど……リヴィア様がいると、安心します」
「い、いや、そんな……むしろ私は、あなたに教えてもらうことのほうが多いですわ」
(※なお、ゲーム内でこの2人がこんなに平和に紅茶飲んでるイベントは一切存在しない)
むしろ原作では、ロザリアをいびる悪役令嬢ポジションとして私が立ち回っていたのに、今や完全に**“仲良し枠”**に収まってしまっている。
さらに、彼女の口から出た言葉は――私の理解を超えていた。
「それに、最近のリヴィア様……とても綺麗です」
「え?」
「皆様が注目されるのも、当然だと思います」
「ち、違っ……誤解ですのよ。レオン様とも、エルヴィン様とも、ルーク様とも……!」
「あ、ルーク様ともですか?」
(しまった、墓穴!!!)
ロザリアはくすくすと笑ったあと、小さく首を振った。
「でも……私は、素敵だと思います。リヴィア様が誰かと恋をして、その誰かがリヴィア様を想ってくれるなら」
「……っ」
「私は応援します。リヴィア様の幸せを」
(ロザリアァァァ……天使か貴女は……!!)
本来なら敵対していたはずの彼女が、今や私の**恋を応援してくれる“親友ポジション”**に回ってくれるなんて。
「……でも、私は“恋”をしているわけではありませんわ。ただ、少し気になるだけで……」
「ふふ。それはたぶん、“恋”ですよ?」
ロザリアの笑顔が、あまりにもまぶしすぎて、私は何も言い返せなかった。
そのとき――中庭の奥から、長身の影が現れる。
「ロザリア嬢、グランツ嬢。こんな場所にいらっしゃいましたか」
(……きた……!!)
風になびく銀髪、真っ直ぐな蒼い瞳。
私の“推し”、レオン=ヴァルト様の登場である。
「訓練場に行く前に、お二人にご挨拶をと思いまして」
「レオン様……」
その眼差しが私をとらえる。
「――グランツ嬢、今度の日曜。少し、お時間をいただけますか」
「え……?」
「あなたにお見せしたい場所が、あるのです」
ロザリアが、くすっと笑う。
「日曜……いいですね。きっと、素敵な一日になりますよ」
私は顔を真っ赤にして、俯いた。
(ちょっ、まっ……ロザリア!? あなた完全に、**私を“恋する乙女”として扱ってない!?)
「じゃあ、決まりですね」
レオンの口元に、静かな笑みが浮かぶ。
推しとの距離が、確実に縮まっている。
本来ならヒロインが歩むはずだったルートに、いつのまにか私が入り込んでしまっている。
「……ねえ、リヴィア様」
ロザリアが、そっとささやいた。
「貴女はもう、“悪役令嬢”なんかじゃないですよ」
その言葉に――私は、なぜか胸がじんと熱くなるのを感じていた。
―第2章:完