第3話:攻略対象その1がなぜか構ってくる
「おや、リヴィア嬢。そんなところで何をしておられるのですか?」
朝の講義前。図書室の隅で、ひっそりとノートを開いていた私のもとに、爽やかな声が降ってきた。
見上げれば、金の巻き毛に宝石のような青い瞳。
麗しき貴族の模範、生徒会長――エルヴィン・フォン・シュトラール様が立っていた。
(う、うわああ、攻略対象その1、来ちゃったあああ!!)
エルヴィンは「理想の王子様」として、ゲーム序盤から登場する最初の攻略対象。
成績優秀・礼儀正しく、完璧主義な彼は、ヒロインが「自分なんてふさわしくない」と落ち込むたびに支えてくれる、包容力MAXなイケメンである。
……ちなみに、原作ゲームの彼にとって、リヴィア(=私)は「高飛車で他人を見下す典型的なお飾り貴族」。
相性は最悪で、彼からの評価は「嫌悪」スタートだったはずなのに――
「この文献、ラテン語の訳が難しいでしょう? 私の私物に対訳資料があります。よければ貸しましょうか」
「えっ……あ、ありがとうございます……?」
にこ、と完璧な笑顔で微笑むエルヴィン。
(……え? なんでそんな優しいの?)
それだけじゃない。授業中、私が手を上げれば軽く頷いてうなずき、
昼休みに廊下ですれ違えば、「ごきげんよう、リヴィア嬢」と微笑みながら歩いていく。
(え、これ……完全に“攻略フラグ”立ってない!?)
そして極めつけは放課後。
教室で一人、書類整理をしていたとき。ふと手が滑って、資料の束を落としてしまった。
「あっ……!」
「大丈夫ですか?」
瞬間、エルヴィンがどこからともなく現れて、私より先にしゃがみ込み、書類を拾い集めてくれた。
(出たーーーーっ! お姫様抱っこ未遂からの“手が触れる”系イベント!!)
「……以前のあなたなら、こんな風に人の助けを借りることなど、許さなかったでしょうね」
「……っ」
「でも、今のあなたは……ずいぶん変わられた」
(それは、破滅エンドを回避するために必死だからです!!)
心の叫びを飲み込みつつ、私は微妙な表情で曖昧に微笑むしかなかった。
「それでは、また明日。――リヴィア嬢」
そう言い残して立ち去るエルヴィンの背中を見送った私は、ため息をついた。
(違うのよ……!私はモテたいわけでも、攻略対象と仲良くなりたいわけでもないの!
ただ――ただ、推しのレオン様と、断罪されずに平穏な未来を歩みたいだけなの!!)
なのに、なぜかどんどん周囲からの好感度が上がっていくというこの謎ルート。
しかも、次に構ってくるのはレオン様ではなく――
「ふん。最近、妙に人懐っこい顔をしてるじゃないか、グランツ嬢」
ーある人物が話しかけてきた。