第2話:悪役令嬢、平民と仲良くしてしまう
「ロザリア嬢、よろしければご一緒しませんか?」
昼休みの中庭、ベンチで読書していたヒロイン・ロザリアに、私は声をかけた。
彼女は驚いたように目を瞬かせる。無理もない。
本来のリヴィアなら、ロザリアを見るたびに意地悪な言葉を浴びせかけていたはずなのだから。
(でも私は、推しに断罪されないために生き延びたい……!そのためには、ヒロインとの関係改善は最優先事項!)
そう、これはゲームのセオリーを覆す「ヒロイン懐柔ルート」だ!
「そ、その……私、あなたの本の趣味が気になっていたのです。よろしければ、お話し相手になってもらえませんか?」
勇気を振り絞った私の問いかけに、ロザリアは戸惑いながらも頷いてくれた。
「……はい、私でよければ」
(きたっ!友好イベント発生!)
それからしばらくの間、ロザリアと私は静かに本の話をしたり、庭に咲く花の名前を言い合ったりと、穏やかな時間を過ごした。
彼女は平民出身だけれど、控えめで優しくて、話してみると意外としっかりしている。
――うん、これは普通に友達になりたい。
「リヴィア様って……その、もっと怖い方だと思っていました」
「……誤解されていたのは、私の態度が悪かったせいですわ。あなたが悪いのではありませんのよ」
すると、ロザリアの頬がわずかに染まった。
「ありがとうございます……!」
(よし、これでロザリアとの好感度も上がって、ライバル関係も無効化!断罪ルートはますます遠のいたはず!)
……と、そこへ――
「おや、珍しい取り合わせですね。まさか、リヴィア嬢が平民と親しくしているとは」
低く落ち着いた声が、私の背後から届いた。
(ひっ……この声……!)
ゆっくり振り返ると、そこに立っていたのは――
氷の騎士、私の推しキャラ、レオン=ヴァルト。
冷静沈着で有名なこの騎士は、本来なら“平民と付き合うことに否定的”という設定だったはず。
だからこそロザリアとの恋路は困難で、プレイヤーが苦労して好感度を稼ぐキャラだったのに――
レオン様は、私たちの様子を見て、ふっと微笑んだ。
「ふむ。あなたにも、そういう一面があったのですね。……誤解していたようです」
え、なんで笑ってるの!?
私、ただ平民と喋っただけなんだけど!?
むしろゲームだと“平民を見下す悪役令嬢”だったのが、今回たまたま話してただけで――
「……それでは、また後ほど。お二人とも、良い昼下がりを」
レオンは去り際、私にだけ目線を残して、優しく微笑んだ。
(な、なんか、今の……ときめきイベントっぽくなかった!?)
私は一人、心の中で頭を抱える。
断罪回避はできた。
でもその代償が、攻略対象たちの“好感度爆上がり”って、どういうことなの……?
こうして、私の予想外の溺愛ルートは、まだまだ静かに進行していくのであった。