第1話:断罪イベント、回避成功……と思ったら?
「――リヴィア・グランツ嬢。あなたは、王立アカデミーにおける数々の悪行の責任を問われ……」
荘厳な大広間に、冷たく響く王子の声。
ヒロインのロザリアは涙を浮かべ、取り巻きたちは勝ち誇った顔で私を睨んでいる。
……そう、これがゲーム『ロザリアと恋する六人の騎士』の最終章・断罪イベント。
そして今まさに、私は――悪役令嬢リヴィア・グランツとして、断罪されようとしていた。
(……え、ちょっと待って。早くない!?)
記憶が戻ったのは、つい昨日。目覚めた瞬間、「この世界ってまさか……乙女ゲームの中!?」と気づいたのだ。
しかもよりにもよって私が転生したのは、ヒロインを虐げた末に断罪&爵位剥奪&国外追放ルート一直線の悪役令嬢。
(でも、まだ間に合う……はず!)
私は王子の前に一歩進み出て、深く頭を下げた。
「――陛下、そして王太子殿下。皆の前で、心からお詫び申し上げます」
大広間にざわめきが走る。
「私が、ロザリア嬢に対して不適切な態度を取っていたことは、認めます。けれどそれは、彼女に嫉妬していたからです。私は……ただ、皆に愛されたかっただけなのです」
(よし、ここで“反省ムーブ”!これはバッドエンド回避の鉄板ルート!)
「ロザリア嬢。どうか……どうか私を、許してくださらなくていい。ただ、あなたに傷を残してしまったことだけは、悔いております」
ヒロイン・ロザリアは、ぽかんとした表情で私を見つめていたが――やがて、そっと微笑んだ。
「……リヴィア様。そのお言葉だけで、私は救われました」
ざわ……ざわざわ。
周囲の空気が、一気に変わる。あれ?これ、なんか……流れ来てる!?
「そ、それならこの件は、不問とすべきでは?」
「いや、彼女の潔さは見事だ……まさかここまで悔い改めるとはな」
攻略対象キャラたちが、ざわざわと私の肩を持ち始める。
中でも、私の“推し”である氷の騎士――レオン=ヴァルトが、静かに口を開いた。
「……人は変われる。彼女はそれを、証明した」
えっ、まって……推しが……!
目が合った。……氷のように冷たかった視線が、今は……すこし、温かい?
「――リヴィア嬢。貴女の誠意、確かに受け取った」
その瞬間、私の心臓は危うく爆発するかと思った。
(うそ、まって……好感度、上がってない?これ、完全に断罪回避じゃない!?)
……こうして私は、断罪を回避することに成功した。
――だが、それは地獄の始まりでもあった。
攻略キャラたちの態度が、なぜかどんどん変わっていく。
距離が近い。目が合うたび微笑む。やたら構ってくる。なにこの逆ハーレム的状況……!?
特にレオン様、あなた――推しなのに、私にときめいてません!?
断罪を避けたと思ったら、
今度は溺愛ルートに突入するなんて、誰が予想できたでしょうか……!?