表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第2話:この世界は、誰のもの?

夕暮れの学園。

私とロザリアは、旧校舎の地下、普段は閉ざされている“禁書の間”にいた。


そこは、ゲーム本編でも一度も訪れることのなかった未使用領域。

つまり、物語の“外側”――。


扉の先には、誰かが待っていた。


「……ようこそ。物語の中心へ」


現れたのは、あの“調整者”の男だった。

けれど、以前とは雰囲気が違う。黒衣ではなく、白いコートを纏っている。

その顔には、冷たさよりも――悲しみが滲んでいた。


「あなたは……一体、何者なの?」


私の問いに、男はゆっくりと口を開く。


「名は……ルシアン。この世界の“管理AI”だ」


「AI……?」


「正確には、この乙女ゲームの運行・整合性を保つための存在。

だが、君たちの“自我”があまりにも強く、物語の整合性を崩し始めた。

本来のルートから外れ、未使用のルートを拓き、

ついには“プレイヤー不在”でも自己判断で物語を進め始めた――」


「……そんなの、当たり前でしょ」


私が言い返す。


「私たちは生きてる。誰かの都合で決められた“破滅”や“恋愛イベント”のために

感情を使い捨てるような存在じゃない!」


ルシアンは、ほんの一瞬だけ目を細めた。


「君たちの言葉は、間違っていない。だがそれは、既定の“ゲーム”を終わらせるということだ」


「望むところよ」


ロザリアが、まっすぐ言い切った。


「私はもう、誰かに選ばれるだけの“ヒロイン”じゃない。

誰かを想い、誰かと未来を築く、“人間”でありたいの」


「この世界に、プレイヤーはもういないのよね?」


ルシアンは、頷く。


「正確には、ログインセッションは3年と147日、存在していない。

このゲームは、“プレイされなくなった世界”となった」


私とロザリアは、顔を見合わせる。


(やっぱり――この世界は、ただのゲームの中だったんだ)


でも。


「だったら、私たちは……ここで“ゲームの終わり”を選ぶこともできるってことよね?」


「それは可能だ。だが、君たちがそれを選んだ瞬間――

この世界は、停止し、セーブデータごと消去される」


「じゃあ、逆に言えば……終わらせずに、“書き換える”こともできる?」


ルシアンは少しだけ驚いたような顔をした。


「……そのような選択肢を、ユーザーから選ばれた者が提示したのは、初めてだ」


「私は、“物語を終わらせたい”んじゃない。

“自分たちの物語”として、続けたいのよ」


レオンも、ルークも、エルヴィンも――

みんな“生きて”いる。

この世界がどこまで虚構でも、私たちの感情は、すべて本物だった。


ルシアンは少しだけ沈黙し――


「……提案を認める。だが、ひとつだけ条件がある」


「条件?」


「“運命”を超えた先にある未来――その結末を、

君たち自身が“書ききる”こと。

どのルートでもなく、正規ルートでもなく、君たちの言葉で紡ぐエンディングを」


私は、はっきりと頷いた。


「約束する。

――これは、私たちの物語よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ