第1話:ヒロインと悪役令嬢、ふたりで世界を壊す
舞踏会の夜が明けた頃、
私はロザリアに呼び出されていた。
向かったのは、アカデミーの裏庭にある、古びた温室。
咲き乱れる薔薇の香りのなか、
ロザリアは白いケープを羽織って、静かに私を待っていた。
「来てくれてありがとう、リヴィア様」
「こちらこそ。こんな早朝に……何かあったの?」
「ええ、話したいことがあるの。私たち二人にしか、話せないこと」
そう言って彼女は、ふうっと息を吐いた。
「――リヴィア様。私、決めたんです。
“ヒロイン”を、やめるって」
「……え?」
「あなたはもう、立派な“主人公”です。
私は“本来のヒロイン”としてここにいたけれど……
もう、シナリオに縛られて生きていたくないの」
(ロザリア……)
「最初はね、すごく戸惑ったの。
あなたが“断罪”を回避したとき、“フラグが壊れた”って、心のどこかでわかってた。
でも、見てるうちに、だんだん……羨ましくなったの」
「羨ましい……?」
「うん。だってあなたは、“誰かに愛される役”じゃなくて、
“自分の意思で愛すること”を選んでたから」
私は、しばらく何も言えなかった。
だって、私も同じだったから。
この世界で、ずっと“設定”に縛られていた。
“悪役令嬢”というレッテルのなかで、何も選べなかった。
でも今――私たちは変わった。
「ロザリア。……じゃあ、一緒に壊そうよ」
「え?」
「この物語そのものを、私たちで終わらせよう。
運命とかルートとか、断罪イベントとか――そんな“誰かの都合で作られた世界”を」
「……ふふっ、まさか“悪役令嬢と元ヒロイン”が、世界に反逆するなんてね」
ロザリアが笑う。
その笑顔は、もう誰かに“選ばれる”のを待っている顔じゃなかった。
「――決まりね。私たちで、エンディングを書き換えましょう」
私たちは、手を取り合った。
悪役令嬢とヒロイン。
かつて相反する立場だったふたりが、今、同じ目標に向かって歩き出す。
それは、“この物語の外側”への第一歩。
もう、シナリオ通りには終わらせない。
私たちが主役の、誰のものでもない結末を迎えるために――




