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第2話:彼に“好き”を伝えるその日まで

「……あなたは、誰かを本当に好きになったこと、ある?」


放課後の音楽室、ぽつりと私がそう尋ねると、ピアノの前で楽譜を見ていたロザリアは一瞬だけ驚いたような顔をした。


「リヴィア様が、それを聞くなんて」


「私……いえ、私はずっと、“誰かを好きになる”って、ただの設定だと思ってたの」


“恋愛フラグ”“好感度”“イベント進行”――

すべては乙女ゲームの中に組み込まれた、ロジックだった。

恋愛は、イベントを進めれば自然に訪れるもの。

そう、思い込んでいた。


でも違った。


「今の私は、“推しだから好き”じゃない。

“好きになったから好き”なのよ」


あの蒼い瞳に見つめられた時。

何度も名前を呼ばれて、守られて、励まされて。

彼の不器用な優しさに触れるたび、心の奥があたたかくなった。


「それって、立派な恋ですね」


ロザリアが優しく笑う。


「でも、怖いの。

この気持ちを伝えて、もし――何かが壊れてしまったらって」


「壊れるかどうかなんて、やってみなきゃわからないわ」


彼女の言葉に、私は目を見開いた。


「それでも、あなたは変わった。

“断罪を避けたい”だけだったあなたが、

“好きな人に想いを伝えたい”って、そう言えるようになった」


(……そうか。私は、変われたんだ)



そして迎えた、週末の湖畔。

静かな水面に夕陽が反射し、オレンジと金色が揺れている。


そこに彼はいた。

いつもの制服ではなく、騎士としての礼装を身にまとい、背筋を伸ばして私を待っていた。


「リヴィア。来てくれて、ありがとう」


「こちらこそ……レオン様。少しだけ、お時間をいただけますか?」


私は彼の前に立ち、深呼吸を一つ。


「私、あなたに言いたいことがあるの」


「……ああ」


「私は、ずっと逃げてた。

誰かに選ばれることが、怖くて。

自分から誰かを選ぶ勇気も、なかった」


でも、今は違う。


「レオン様――私は、あなたが好きです」


風が、やさしく吹いた。

水面が静かに揺れ、彼の銀髪がさらりとなびく。


「あなたのことが、推しとしてじゃなくて、

一人の“男の人”として、好きになりました」


その言葉に、レオンの瞳が大きく見開かれた。


「……リヴィア」


「正直、怖いです。

でも、もし……あなたが、少しでも私のことを……」


「好きだよ」


彼の手が、私の頬に触れた。


「リヴィア。何度でも言う。

私は、君が好きだ。

どんな物語より、君と生きる現実の方が、ずっと尊い」


そして――


彼の唇が、そっと私の額に触れた。


「ありがとう、俺を選んでくれて」


(……やっと、言えた)


この瞬間に至るまで、ずっと足が震えていた。

でも、伝えられてよかった。

この気持ちが本物だったって、自分自身に証明できたから。


私の“物語”は、もう他人のシナリオなんかじゃない。


これは、私が選んだ恋。

私が選んだ未来。



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