第2話:運命を斬る、その刃の名は
――この世界は、物語の器にすぎない。
それが“調整者”たちの理屈だった。
彼らの目的はただ一つ。
「バグ」と認定された私――リヴィア・グランツを、“本来あるべき悪役令嬢の位置”へと修正すること。
つまり、断罪ルートへの強制送還。
だが――
「ふざけるな」
その前に立ち塞がったのは、私の“推し”、氷の騎士・レオン=ヴァルト。
銀髪をなびかせ、凍てついた蒼い瞳が、フードの男たちを射抜く。
「この剣は、忠義のためでも規律のためでもない。
ただ――彼女を守るために振るう」
レオンが剣を抜いたその瞬間、空気が一変した。
斬るはずの“敵”が、“世界そのもの”であっても――彼は、一歩も退かない。
その隣には、ルークが立つ。
「お前らさ、“恋路の邪魔”ってわかってる?」
短剣を構え、軽く笑うその姿は、いつもよりずっと頼もしかった。
そして、背後からエルヴィンの声が届く。
「正義とは、与えられるものではなく、選び取るものだ。私はそう信じている」
(――皆、来てくれた)
かつて“攻略対象”として登場した彼らが、
今は、“私を守る側”にいる。
「……おかしいな」
調整者のひとりが、感情のこもらない声で言う。
「こんな展開、シナリオにはなかった。
この世界のキャラたちは、“ヒロイン”以外の指示に従うはずでは――」
「だったら、教えてやる」
レオンが一歩、前に出た。
「――俺たちは、“物語の登場人物”ではなく、“リヴィア・グランツの意志”に応えた人間だ」
そして――レオンは走った。
全身を駆け、調整者の前へ。
その剣はただまっすぐに、空を裂いて振り下ろされた。
「世界がどう言おうと、俺は――お前の味方だ!」
調整者の黒いフードが、裂ける。
空間が、軋むように揺れる。
“世界の修正力”が崩れていく――。
「これで終わりではない。君たちがこのまま“道を外れ”続ければ、いずれこの世界は――」
「うるさい」
ルークの拳が、追撃のように炸裂した。
そして、残りの調整者たちも後退し、
気がつけば――森には、私たちだけが残っていた。
私は、剣を収めたレオンに駆け寄る。
「レオン様、ケガは――!」
「ない。君が無事なら、それでいい」
その声に、胸がぎゅっと締めつけられる。
(もう、推しとかじゃない。彼は、“本当に私のために戦ってくれた”)
「リヴィア」
レオンが、静かに言った。
「たとえ、この世界が物語だったとしても――
君の笑顔は、“俺にとっての真実”だ」
私はもう、涙をこらえられなかった。
世界が仕組んだシナリオを、私たちは斬り裂いた。
自分の選んだ道を、自分の意志で進んでいくために。
ー第4章:完




