表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

第1話:推しの過去と仮面の正体

日曜の午後、アカデミーの裏手に広がる小さな森。


そこにある古びたガゼボ(東屋)で、私はレオン=ヴァルト様と向かい合っていた。


「……こんな場所に、こんなものがあるなんて」


「かつて、王家直属の近衛騎士たちが休息に使っていたと聞いています。

私の家も、その一員でしたから」


(そういえば、レオン様の実家って、代々近衛に仕える由緒正しき家系だったな……)


私が黙っていると、レオンはふっと目を細め、ガゼボの柱に手を当てた。


「ここに来るのは、子どもの頃以来です。

母が亡くなった日、父に連れられて、この場所で空を見上げました。

……“泣くな、レオン。騎士は涙を見せぬものだ”と、言われたのです」


「……」


私は、言葉を失っていた。


ゲームの中で、レオンの過去はほとんど描かれていなかった。

ただ「感情を閉ざした男」という設定だけがあって、プレイヤーが彼の心を開いていく――という“お約束”だったはず。


けれど、今。彼の方から、自ら語ってくれている。


「貴女は変わりました。……誰よりも早く、私に気づいてくれた。

無理をして、誰にも見せない顔をしていることを、見抜いたのは――貴女が初めてです」


「……私、そんな大層なこと……!」


「いえ。貴女の前では、私は“ただの男”になれる。

騎士でもなく、規律でもない、“レオン”として……」


(まって、まって……今のセリフ、プロポーズ5秒前じゃない!?)


私は顔を真っ赤にして、思わず手を握りしめた。


(なにこれ、完全に……推しからの恋愛ルート突入宣言では!?)


レオンが、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「私は、“仮面”のまま生きていくつもりでした。

誰かに理解されることなどないと、諦めていた。けれど――」


その蒼い瞳が、私の目を捉える。


「……貴女が、私を変えてしまったのです」


「……っ」


心臓が、爆発しそうだった。


推しが、私に、想いを伝えてくれている――


そんな奇跡が、本当に起きているなんて。


「……レオン様」


震える声でそう呼ぶと、彼はそっと手を伸ばした。


そして――私の頬に触れようとした、まさにその時。


「レオン=ヴァルト!!」


鋭い声が、森の静寂を裂いた。


振り返るとそこには――冷たい目をした一人の男。

この世界では見たことのない、“ゲームには存在しないはずの人物”が、レオンを睨みつけていた。


「……あなたは」


レオンの声が低くなる。


その男が放った次の一言が、私の思考を凍らせた。


「“お前の記憶”、まだ戻っていないようだな。

この世界が“書き換えられたこと”にも、気づいていないとは――」


(……え?)


「さあ、“記憶の修正”は終わりにしよう。

レオン・ヴァルト、そして“元ヒロイン”リヴィア・グランツ」


(……元、ヒロイン……?)


世界が、音を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ