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魔王城へ向かう途中の、非現実的な戦い

 魔王がいるところ、通常魔王城は私達が今までいたお城から馬車で三時間と徒歩で十六分程度という、案外近いところにあるらしい。


 とはいってもその馬車は元の世界であった車とか電車とかよりも乗り心地が悪いし、何よりも道の状態もあまり良くないのでよく揺れる。はっきり言って私が魔法を使えなければ、一時間もしないうちに酔って気分がかなり悪くなっていたはずだ。


 笙太も異世界に夢を見ていたはずだけど、具体的にどんな世界かは考えていなかったらしく、現実を知った今はかなり元の世界へ帰りたいみたいだ。やっぱり魔法を使えることを隠さないといけない等の色々な問題はあるけど、元の世界が私や笙太には合っているから、早く戻りたい。


「それにしても魔物とか襲ってこないんだ」


「そうですね。でも魔王城の近くには、魔物がいっぱいいますよ」


「まじで、魔物と遭遇せずに魔王城につきたい」


 馬車から降りてギリアムは元気そうに、笙太はややうんざりとした感じで会話をしている。私は周りを警戒しながら見るけど、今のところ怪しそうなところがないので安心する。これで後はこの森を十六分程度歩けばつくはずだ。このまま何事もないと良いけど。


 それにしても今までだったら笙太はギリアムよりも生き生きと魔王城へ向かっていたはずだけど、やっぱりこの世界がLGBTに対して差別をすること知って、嫌になってしまったのかもしれない。


 笙太はLGBTについて詳しいし、それ関係の差別を解消することを目的とする団体に入っていたはずだから、仕方ないけど。


「あっ魔物だ」


「そうです。あのねばねばとした生き物は、剣や武具を溶かしてしまいます。そこで勇者様、魔女様、気をつけてください」


 茂みから現れた生き物はねばねばとしていて水色をしていて、とてもじゃないけど元いた世界にはいない生き物だ。それでもこういう生き物は漫画やアニメなどに登場していたから、私は知っている。


 スライムだ、この世界ではああいう現実的ではない生き物が普通にいるのだ、驚きつつも私は即座に魔法を使う。こんな生き物とは戦ったことなんてないけど、ああいうのは強力な酸で溶けるはず。


「とりゃー。こちとらRPG大好きな現代人だ。スライムごときには負けないんだぜ」


 スライムという非現実的な生き物に興奮したのか少し元気が戻ってきた笙太は、魔法でガードしていると思わしく日本刀でどんどん切っていく。なぜだろうこれで笙太が侍っぽく見えないは。それはもしかして笙太が安っぽくて、強くて本物の侍のイメージとはかけ離れているからか。


「素晴らしいです。私達騎士が倒せなかったこの生き物を倒すなんて。この世界には本来このような生き物はいませんから、我々は倒せないのです。そこで本当に魔女様や勇者様は素晴らしいです」


 とギリアムが感心している。


 えっと、この世界にもスライムは本来いないのだ。それではなぜ今ここにいるのだろうか? 気にはなったけど、今はこれを倒すほか手段はない。そこで私と笙太はひたすらスライムを倒していく。


「魔王様に何か用か?」


 スライムがいなくなったと途端、不思議なぬいぐるみが宙に浮かび始めた。


 そのぬいぐるみはドラゴンっぽいデザインで、とても可愛らしい。少なくともスライムとは違って、このぬいぐるみには攻撃したいとは思わない。


「お姫様を救いに来た。魔王、覚悟しろ」


「そこっ思いっきり喧嘩を売らない」


「この怪しげなやつは魔王の手先です。情けは無用です」


 ギリアムはその可愛いぬいぐるみに向かって宣戦布告したあげく、剣で切る。


 そのぬいぐるみは切られた途端、爆発した。そしてすぐにたくさんの魔法使いをイメージするような黒いローブと黒いヴェールで顔や体を隠した人たちがやってくる。なるほどぬいぐるみは敵が来たことを知らせるための、道具だったみたいだ。


「ちょっとギリアム、宣戦布告しないで。こっそり行けば、こんなにもたくさんの人と戦わなくて済んだ可能性があるよ」


「こんな魔王についた人達は敵ですから殺してしまうべきです。それに魔女様、勇者様がいらっしゃれば負けません。もちろん私も援護します」


「頑張るぞ。まっ殺したくないから、殺さない程度にね」


 私の愚痴をスルーして、盛り上がるギリアムと笙太。


 いやいや勝つか負けるかじゃなくて、これだけ大勢の相手をするのが面倒くさいのだけど。でもそんなことをギリアムや笙太は聞いてくれそうにない。


「私は魔王様に用事があるだけです、そこで通してください」


「魔王様は私達の愛を認めてくれた唯一の人です」


「魔王様だけが私達の気持ちを理解してくれました」


「だから魔王様を守ります。魔王様とは会わせない」


 黒いローブの人たちは、私達に向かって魔法を放ってくる。水、火、電気、種類だけは様々だ。


 それにしてもこの人たちは一体何を魔法の媒体にしているのかな? 私は布、笙太はオニキスといった風に魔法を使う時は人によって違う媒体を使う。それがこの人たちは分からない。よく見たら不思議な道具みたいなのを持っているし、あれが媒体なのかな?


 とはいえそれらは全て弱いので、そこまで気にする必要はなさそうだ。なんせ私じゃなくて笙太が日本刀で受け止めることができる程度だから、たいしたことは無い。


 笙太が魔法を防御して、私が魔法で気絶させて拘束させる。流石に殺人する気満々のギリアムに手伝わせるわけにはいかないので何もさせないでおこう、ということでほっとく。きっと魔法と戦ったことのないギリアムは、私達が何もしなければやられるだけで、相手を倒すことができないから大丈夫なはず。


「お姫様を助けるために、私は負けません」


 そうなのに気がつけばギリアムはそんな格好いいことを言って、黒いローブの人たちと勇敢に戦っている。


 魔法のことを全くもって理解しなさそうなギリアムは、魔法での攻撃を受けつつ剣で必死に戦っている。ダメージは確実に受けているはずなのに、全くギリアムは諦めようとしない。


「黙れ、お前らが、お姫様でいることの苦しみを知らないお前らが、あの方のことを語るな」


「お前ごときが、あの方の苦しみを知ることはできない」


「黙りなさい。私はお姫様に何年も仕えてきました。あなた達よりはお姫様のことは理解しています」


 ギリアムは黒いローブの人たちを思いきって煽っている。それで黒いローブの人たちは私や笙太じゃなくて、ギリアムに集中攻撃を始めた。


 火や水といったよくありそうな魔法から、よく分からない物が飛ぶといった不思議な魔法まで。別にそこまで強くは無いけど、それらは少しずつギリアムを傷つけていく。


 笙太は始めから無理だから期待すらしていないけど、私もたくさんの黒いローブの人たちの相手をしないといけないから、ギリアムを助けることは出来ない。というよりもこのワンピース動きにくい。


 絶対この膝丈よりも長く裾がめくれないように気をつけないといけないワンピースじゃなければ、もう少し動くことが出来て、素早く移動してギリアムを援護できたかもしれないのに。こうなったらさっき馬車から降りるときに、元の世界から着てきたワンピースに着替えるのだった。いやあっちもスカート丈は長いから、結局動き回ることが出来なくて、一緒だ。


 そもそも私はこういう風に魔法で戦うことなんて想定していなかったのに、なんでこうなるのだ? 早く元の世界に戻って、こういう戦いから逃れたい。


「とりあえず魔王様と会わしてください。私と笙太は異世界から来た魔法使いです。異世界転移してきたんです。そこで元の世界に戻るために魔王様にお願いがあるんです」


 このままだとらちが明かないし、ギリアムが死んじゃいそうだ。そう悟った私は大きな声で叫ぶ。


 素性の分からない相手を部下にだけさせるはずがない、そこでこの戦いの様子を魔王は必ず見ているはずだ。


 しかもギリアムの様子からはこの世界にはスライムもドラゴンもいなさそうだし、そもそもこの世界の人は魔法を使えないのに魔王は魔法が使える。


 ここで戦っている人たちは魔法を使い慣れていないから弱くて、その使い慣れていない理由はこの魔法を使わない世界で、つい最近魔王から習うことにより魔法を使えるようになったから。


 となると魔王は私達同様この世界以外で魔法を習った可能性がある、そうじゃないとこの魔法を習うことが出来ない世界で、ギリアムが知っていたくらいの強大な魔法が使えるわけが無い。それにスライムやドラゴンなどは魔王が知っていたからこそ、今回使っていたかもしれない。


 そうならば魔王は私達と同じ世界の出身である可能性は高いから、私の言葉にも反応するはずだ。


「皆さん、攻撃を止めてください。それじゃあこの騎士の方は少々今からする話についていけませんので、拘束させて頂きます。では勇者様に魔女様はついてきてください」


 その言葉がいきなり聞こえたと共に、ギリアムが気絶したあげくにロープで縛られる。そして黒いローブの人たちは一瞬でほぼ全員消えて、その場に一人だけ残っていた。


「私が魔王です。勇者様と魔女様、よろしくお願いします。ではこれから魔王城へ向かいましょう」

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