表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

魔法使いの姉弟とこの世界のルール

 ギリアムはお姫様に仕える騎士で、私達と同じく十七歳らしい。そこら辺は親近感がわくけど、お姫様を助けるために魔王を倒すことは理解できない。そりゃあ創作物のルールだと鉄板ネタかもしれないけど、リアルでは話し合いの方が先だ。


 と笙太とギリアム、私に意見が違うけど、魔王の元へ行くという考えだけは一致して、私達はこちらの世界に来た次の日にさっそく魔王のいるところへ旅に出かけることにした。


 そのために私と笙太はお城に一泊することになった。このため結果的に異世界で一日過ごすことになる、あーあ早く戻りたいな。


「魔女様、こちらが服でございます」


 朝起こしてきたお世話係のメイドさんが、服を見せてくれた。


 私は異世界に来る際笙太とは違って何も持っていないので、このお城で色々な物を借りている。今着ている寝間着みたいなワンピースだって、その借り物の一つだ。


 そこで旅へ出かけるための服も貸してくれるみたいだけど、私はこの服のことがかなり気に入らない。


「これから旅でかなり動くのにワンピースですか? ズボンとかじゃないんですか?」


「それは駄目です。ズボンは殿方だけが履くものです。もし私達おなごが履けば死刑ですよ、死刑」


「えっ死刑ですか? 死刑」


 その服は膝よりも長い丈のワンピースで、腰から下がフワッとしている上に、淡いピンク色だったり裾にレースがついていたりと、とても可愛らしい。


 こういう服動くには不向きだし、何よりも私はかわいい系よりもかっこいい系の服が好きで、スカートなんて制服と昨日着ていた黒いワンピース以外は持っていないのに。 


 そうなのに女はスカートを履け、そうじゃなければ死刑だなんて、それはひどすぎる。いくら異世界で常識が違うとはいえ、もう少し柔軟な価値観を持って欲しい。


「いいですか、これは魔王と戦う旅です。遊びに行くわけじゃないんです。それなのにこんなお茶会に行くようなワンピースなんて動きづらい格好をすれば、負けちゃいますよ」


「いえおなごが殿方みたいな格好をするなんていけません。どんな理由がありましても、おなごはスカート、殿方がズボンです。これは神が決められた決まりですから」


「私が元々いた世界では、普通に女の子がズボンを履いていましたよ」


「この世界では無理です。魔女様が元いた世界がどうかは存じ上げませんが、この世界では無理です」


 お世話係の人は、この様子だと意見を変えそうにない気がする。


 神の決まり、だなんて私が元いた世界でもそういう人は意見を変えない。そこでこの人が私の意見を納得して、ズボンを用意してくれることなんて無さそうな気がした。


 どんどん性別関係なくどんな服装をしてもいいということになってきているのに、そういう価値観はこの世界には無いらしい。


「それじゃあ昨日着ていた服をお願いします」


「あの服はこの世界では使われていない素材なので、目立ちますが?」


「大丈夫です。異世界の人だってばれでも気にしませんので」


「いえ駄目です。魔女様は特別なお方ですが、他の人にそれがばれたら、旅がしづらくなります。そこで絶対この服でお願いします」


 このままじゃあ旅に出かけるなんて無理そうな程、お世話係の人がワンピースを推してくる。この人を説得できそうにないので、私は渋々用意された服を着た。


 そして元々持っていた服など持ち物は魔法で小さくして、この世界で用意してもらった鞄の中に入れる。これで準備が終わったので、私は食事をしてから、お城の裏口へと向かう。そこにはすでに翔太がいた。


「おねーさま、いいな。可愛い服じゃん」


「こんな服好きじゃないけど、この世界じゃあ女子が男っぽい格好をすると死刑なんだって」


 羨ましそうな顔をする笙太に対して、私は素っ気なく答える。


 笙太は可愛い物が好きで、女装趣味もある。そこで実はこういう格好をしたいんだろうな。ちなみに今笙太はこの世界風の素材を使った、動きやすそうな格好をしている。私もそういう格好がしたかった。


「そうそう。この世界じゃあ異性装は死刑なんだってさ。なんでもつい最近ワンピースを着たという理由だけで死刑になりかけた人が魔王に連れ去られたんだって。そんな女装する大罪人を連れて行くなんて、神様と王様に対する反抗だってお世話係は言ってた」


「みんなたいして考えずに、神や法律だからって理由で、洗脳されてるんだ。怖い」


 そりゃあ服装の自由だの、更に言うならLGBT保護だの、これらは割合現代的な考え方だ。そこでこのどっちかというと中世っぽい世界には合わないことは理解できる。


 でもそれですぐに死刑っていうのは頭が堅い気がする。普通は理解できないことは避けるだけなのに、神が決められた決まりだなんて理由で排除だなんて、そんなの普通はありえない。


「魔女様、勇者様おはようございます。私達人間は神により性別が決められているのです。その神聖な決まりを破ってはいけませんよ」


 私達の話を聞いていたのか、やってきたギリアムがそう断言する。


 神により性別が決められているから、異性の格好は駄目。いやいやそれはおかしいだろうと突っ込みたいけど、こういう世界観だと性別は科学的なあれこれで決まっているのだと説明でき無さそうだし、何よりも私自身なぜ性別が決まるか分からないから、反論できない。


「じゃあさ同性同士の恋愛はどうなわけ? 男と男、女と女が恋愛すること」


 笙太がいきなり同性愛の話を振る。異世界的価値観からすると異性の格好をすることと同性愛は離れているから唐突な印象があるけど、こちら側からするとLGBTといえば恋愛と性別の話なのでそこまで唐突な印象が無い、そんなわけあるか。私からしてもかなりいきなり同性愛の話を出した気がする。


「それも死刑です。そもそも普通は男と女が愛し合って子供を作るのが、神に決められた決まりです。それ以外のことは認められません」


 笙太の質問に対して疑問に思うことをせず、当然のことのように答えるギリアム。


 これは立派なLGBTに対する差別だけど、それがギリアムに通用するわけが無い。


 結構話題になってあちこちでとりあげられている現代でも理解してくれない人はいるのに、神の決まりとか言って納得してくれそうにない人に説明するのは無理だ。


「それじゃあ行こうか。早く行ってお姫様を助けよう」


「そうですね。早く行きましょう」


 このあからさまなLGBTに対する差別がある世界に対して嫌気が差したのか、昨日とはうってかわってやる気がなくなっている笙太。


 よっしゃ、これだと戻ること優先で行動できる。お姫様を助けることが第一のギリアムには申し訳ないけど、私はお姫様のことなんてどうでもいいし。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ