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魔法使いの姉弟と騎士

 気がついたら知らない場所にいた。近くには異世界転移魔法の時に使った本が媒体の布にくるまれていない状態であり、青髪というファンタジーぽい髪色のイケメンが話しかけてくるけど、何を言っているのか分からない。日本語はともかく英語やフランス語じゃない、全く分かりそうに無い言語なので、自分で何を言っているのか考えるのを辞める。


 そこで私はジャケットの中に入っていたハンカチを媒体にして、自分とそれから近くで寝転がっている笙太に翻訳魔法をかける。これで私達が相手の話を聞くことも、私達の言葉を相手に伝えることもできるはずだ。


「魔法を使う、となると魔女様でしょうか? そしてそちらの方は剣を持っている、まさか勇者様ですか?」


「別にそうじゃないです。ごくごく普通の一般人です」


 と答えてしまったが、現実的に考えると魔法を使える人は一般人じゃない。何か裏の組織に所属している怪しい人、と考えてからこれは夢だと気づく。


 さっきまで異世界転移する魔法に挑戦していたけど、それに失敗して眠っているのだ、私達。魔法に失敗して寝るなんて話、聞いたことはないけど、そのはず。


「いえ貴方様は魔女様です。私はギリアム・シュンレ。異世界から魔法使いを呼ぶために日々努力していました。その結果、貴方達を呼ぶことができたのです。皆さん、来て頂きありがとうございました」


「もっもしかして魔法に成功したわけ? 異世界へ来ちゃったわけ?」


 私がギリアムの話を聞いていると、笙太が復活した。


 いやいやそんなわけないって、せいぜいこれは夢だって夢。


 こんな誰も成功したことがない魔法を、いくら私が魔力の多い魔法使いだからといって、成功するなんてこと、現実的にありえない。


「そうです、勇者様。それにしても努力した甲斐がありました。魔道具を使うことはありますが、私達は魔法を使うことはできません。そこで毎日色々なことを試してみたのですが、その努力が実って幸いです」


 ギリアムは嬉しそうに私と笙太の顔を見る。


 そういえば私達がいる周りには漫画でよく見る魔法陣みたいな怪しい絵があるけど、この人はこういうので私達をよんだのかな? 魔法陣はあくまでもファンタジーでよく使われる物であって、現実では使わない。そういうわけでこれでは何もならない。


 ということは成功することのない魔法、その二つがたまたまかみ合って、私達はここへやってきたのかな? 私達が使った異世界に行く魔法、ギリアムが使った異世界から人を招く魔法、その両方が上手い感じにあって、私達はここへ来ることになってしまった。


「で魔法を使えることができないってことは、元の世界に戻る魔法は知らないよね」


「そうです。それは大変申し訳ありません。ですが魔女様、勇者様はこの世界でしっかり保護させて頂きますので、ご安心ください」


「いやいやそれは困りますって」


 だって笙太はともかく、私はこの世界で生きていきたくはない。


 笙太は異世界転移を夢見ていたけど、私はそうじゃない。そういうわけで今すぐ戻りたい。


 異世界で生活していく、だなんて漫画や小説などの創作の世界で充分だ。リアルでやりたいことじゃない。


「すみません。私達は魔法を使えないので、どうしても戻すことはできません。ただ魔王なら強大な魔法を使えますので、可能かもしれません。実は魔王に我が国の姫がさらわれていまして、魔王の元へ行きたいと私は思っていたのです。それでどうか魔王を倒すのを手伝ってください」


「お姫様が魔王にさらわれた? それは大変だ、お姫様を救いに行かなくちゃ」


 強大な魔法を使う魔王にさらわれたお姫様、そんなゲームのテンプレートにありそうな事実をリアルで知って興奮する笙太。そうだね、そういうお姫様を、魔王を倒すことで救うのが勇者の仕事だもんね、創作物では。


 とはいえ魔王が私達を戻す魔法を知っているみたいな唯一の存在なので、倒すことはまずい。ここは穏便に話し合いで済ませて、なんなら私達を元の世界に戻して欲しい。


「魔王のところへ行くのはいいよ。だけど話をしに行くだけだからね。元の世界に戻してくれそうな相手を倒すわけにはいかないよ」


「そんなおねーさま、勇者と魔女が魔王を倒してお姫様を助けるのは鉄板ネタだぜ」


「それはリアルじゃなくて、創作物の鉄板だから。警察官があんパンで張り込みしないのと同じように、リアルでは勇者と魔女が魔王を倒すことなんてしないよ」


「この世界は素敵です、きっと魔女様も気に入ります」


「この世界が元の世界より進んでいたとしても、私は元の世界の方が良いの。なんせ元の世界には高校の友達とか、色々仲良くしている人がいるんだし」


 笙太とギリアムは張り切って、私の説得をしようとしている。


 笙太は単なる現実逃避だし、ギリアムは私が元いた世界を知らない。そんな人たちの話に私が納得することなんて、あるはずがない。


「ともかく魔王の元へ行けばいいのね」


「そうです。魔王は魔法を使いますし、私達では相手になりません。そこで私は魔法が使える人をよぼうと日々努力してきました。その努力が実って嬉しいです。勇者様、魔女様、これから頑張って魔王を倒しましょう」


「頑張ろう」


「まあとりあえず魔王の元へ行くまで、よろしく」


 張り切っている笙太とギリアムののりに私はドン引きしつつも、少しだけ一応合わせる。


 果たしていつ元の世界に戻れるか、それがとても気になる。私としてはこの世界にこれっぽっちも興味が無いから、早く戻りたいよ。

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