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02 立花茉白 ①

2018年2月16日


「トウカ、明日って暇?」


仕事もひと段落ついた夕方16時頃、喫煙所でタバコを吸っていると同じく喫煙者のシュンさんがそう尋ねてきた。


俺は結構多趣味でキャンプにカラオケ、ギター、スノボー、麻雀、ダーツ、ゲームと1人で休日を満喫することも多い。

今年の冬はシュンさんやテツさんとスノボーにも行ったので、別に1人で休日を謳歌したいという訳ではない。


「特に予定ないっすね。またスノボー行きます?」


「いや……テツさんと飲みに行こうって話になったからお前もどうかなって思ってさ」


煙をゆっくりと肺に入れ、シュンさんは答えた。


シュンさんの誘いに快諾すると同時に

取引先から社用ケータイに電話が入り喫煙所を後にした。




翌日、栄のクリスタル広場に18時集合と

シュンさんからのメッセージを受け取った俺は定刻前に集合場所に到着した。

先輩、上司の垣根を超えて楽しく遊んではいるけれど

1番下っ端の俺が遅刻なんてありえない。

一応そこは社会人として一線引いている。

そんなことを考えていると前方からシュンさんとテツさんらしき人物が近づいて来るのが見えた。


あれ?

あの人たちいつもよりオシャレしてねえか?

嵌められた!?


「うーっす、おつかれーい」


「あれ、トウカどうした?全然気合い入ってないけど」


「え、テツさん…やっぱそういうことですか?」


「え?シュンから何も聞いてないの?珍しく乗り気なんだと思ってたんだけど?」


どういうことかと言うと、この人たちがオシャレをする=女の子と遊ぶということだ。

2人は俺があまり女の子と遊びに行きたがらないことを知っているが、この人たちは何故か俺に彼女を作らせたがっている。

俺に彼女できたら2人に何かメリットあんのか?

もしかして俺で金でも賭けてんのか?


「たっはー!昨日喫煙所で笑い堪えるの必死だったわ!でももう後戻りできねえからな?とりあえず女の子といる時はマスク外せよな」


俺は生まれつき鼻が良い。

匂いを嗅ぐだけで味も分かるし

目を閉じていてもそこに誰がいるのか識別可能なほどだ。

だからこそ女の子特有の甘ったるい香りが苦手である。

特にギャルが付けてる香水。あれは数メートル離れていても残り香がその場に停滞して頭が痛くなるほどだ。

普段は自衛のため、商談中や食事中などを除きTPOを弁えた上で常時マスクを着用している。

じゃないと吐いちゃうもん…


ちなみにシュンさんは元スポーツマンということもあり、さわやかな匂いがする。

テツさんは何か高級そうなブランド物の香水みたいな上品な匂いがする。

2人とも香水つけてないのにな。

そして2人の匂いは嫌いでもないし吐き気もしない。

だからこそ、俺もここまで2人に心を開いて接することができるんだろうな。



「というか今日どこで何するんですか…」


「まあ付いてこいって。着いたら分かるから」


過ぎてしまったことは仕方ない。

タイムマシンがあればなと現実逃避をしていると

どうやら予約した店に着いたらしい。

ふざけんなよシュン、くそオシャレな店じゃねえか…

オシャレSAN値高過ぎて死にそうなんだが…


「てか俺、この服装で入れますかね?」


「大丈夫だよ。ここ、ドレスコードとかないし」


今日の俺はというと

いつも会社で着ているダウンに無地のスウェット、下はジーパン。靴なんて格安スニーカーだ。


一方2人はというと

シュンさんはシングルレザーにニット、なんかオシャレな革靴を履いている。

テツさんは高身長を活かしたロングコートにシンプルなニットにオシャレな柄の入ったマフラー、ブーツも履いていて更にスタイルがよく見える。


なにこれ、公開処刑じゃーん。マジで帰りたい。

女の子とかどうでもいいから帰ってゲームでもしよう…


俺の心中を察してなのか、大事なのはトークだからと何のフォローにもなっていない言葉をシュンさんにかけられながら渋々入店する。


―――――


「初めまして、福井徹平です。亜里沙ちゃんとは大学時代からの友人で、御社とのご縁も相まって本日は素敵な出会いの場を設けていただきました。どうぞよろしくお願いします」


イケメン爽やかスマイルでいかにも紳士的な態度で挨拶を済ませているが俺は騙されない。

この人絶対に亜里沙ちゃんって人と何か関係持ってるぞ。

この福井徹平という男は陰で暗躍するタイプで

決して表立って本性を顕にしないシュンさんとは真逆のタイプだ。

3人で飲む時に定例会と称し誰々とデートしただの、なんだのとシュンさんと情報共有している。

もちろん俺は何もないからこそ、この2人から童貞扱いされているのだ。



「初めまして…んー、やっぱやめた。初対面でみんな緊張してるだろうから一発ギャグで自己紹介しますね」


段々歯が生えてくる人の自己紹介というシュンさんの鉄板自己紹介ギャグで女の子たちの笑いを掻っ攫っていく。

やっぱ頭おかしいよこの人…


「初めまして、藤本董香です。結構多趣味な人間なんで引き出し多い歩くウィキペディアです。よろしくお願いします」


結構ウケた。

この1年、シュンさんから営業たるものユーモアは大切にしろ、そしてプライベートこそが本業だと耳にタコができるほど口酸っぱく言われ続けた。

営業力を身につけるためと称し、無理矢理街コンに連れて行かれたこともあった。

だからこそ自己紹介はお手の物。

俺も着実にシュンイズムを受け継いでしまっているなあと遠い目をしていると、今度は女性サイドの自己紹介が始まろうとしていた。


「えーっとじゃあ私から…」


女性側のターンに回った途端、急にシュンさんが待ったをかける。


「待って!名前当てるから!待って!」


バカなのかこの人…


何故か白熱した名前当てクイズだったが亜里沙さん以外当たらない。当たり前だろ。



「シュンくん面白いね。こんな笑ったの久々だよ〜。改めましてテツくんと大学時代からの友達の西山亜里沙です。よろしくお願いします」


「初めまして、近藤美樹です。亜里沙とは同期で親友やってます。周りからミキティってよく呼ばれてます。よろしくお願いします」


「くっ、今日タンクトップ着てこればよかった…!」


やめなさい、色々とマズイからやめなさい。


「初めまして立花茉白です。亜里沙さんとミキティさんの後輩です。よ、よろしくお願いします」


人見知りなのか緊張しているような挨拶をする立花茉白さん。

亜里沙さんとミキティさん曰く、茉白さんは今日が人生初の合コンらしい。

無理矢理連れてかれたクチかな?

僕と一緒だね、お互い苦労するね。

そんなことを思っていると、目が合った彼女が一瞬とても驚いたような表情をしていた。


「えっと、どうかしましたか?」


「あっ、すみません。な、なんでもないです」


この日初めて茉白さんと言葉を交わしてふと気づいたことがあった。

(あれ、この人めちゃくちゃいい匂いがする…)


俺はこの日、人生で初めて好きな匂いのする女性と出会い、一瞬で心を奪われた。立花茉白。この名前と同じ、茉莉花の香りがする彼女に。


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