祭囃子の前の静けさに
「晴洋兄様、見てくださいませ。美しい花です。」
「……」
5歳くらいの女の子が、庭にあった無数の花をたくさん束ねて15の若君に渡していた。若君は少女に振り返るも、中高年の男性らに呼び止められ、何も言わずにその場を後にする。
晴洋が立ち去った後、廊下の方で従者が子供相手に大声を出して後を追っていると、庭でお花を束ねていた女の子のもとへと歩み寄った。
「桔妃よ、何をやっているんだい?」
男の子は庭で花を束ねていた桔妃という女の子に話しかけた。桔妃も嬉しそうに花束を渡した。男の子も笑顔を見せて受け取るのかと思いきや、蹴り飛ばした。男の子に蹴られた花束は無残にも散り、何度も踏みつけられ、そして、桔妃をも蹴りつけた。
「雷誠様、おやめください。」
男の子の従者が間に入って止めに入り、なだめながらその場を立ち去らせる。それでも雷誠は桔妃にきつい暴言を浴びせつけた。
「このクソが、花束なんかで遊んでんじゃねえよ。いいよな、可愛がられるように媚びて、脱いで体出して……」
まだ幼い子供の桔妃にはこの暴言の意味を理解することはできない。ただせっかくの花束を無残に蹴り飛ばされ、大勢の人に踏みつけられた挙句に、誰も慰めるどころか、雷誠の言葉を再現する従者たちの冷たい目は、彼女の心に感じ取らせた。
「……さい。……ください。」
大きく泣き崩れていた桔梗妃に、誰かが囁く声がした。それでも桔梗妃の号泣は収まらない。
「桔妃様、泣かないでください。」
それでも囁く声は何度も何度も、囁き続けた。
泣き崩れた顔を上げる。しかし、そこに囁く声の主はいなかった。
「どこ?だれ?」
あたりや周囲をキョロキョロと探して首を振るが、誰もいない。その辛さからまた顔が大きく歪み、原形がわからないほど皺を寄せ泣き崩れる。すると囁く声がした。
「桔妃様、こちらですよ。」
囁きに振り向くと、無数の花、さらに中心に大樹だけ。
「お花さん?」
「申し訳ございません、桔妃様。この大樹の意志です。」
「樹の意志?」
「精霊って感じです。」
「精霊さん?すごい、こんにちは精霊さん。」
さっきまで泣いていた女の子は、おとぎ話の精霊と話せているのが羨ましいのか、ここ一番の大きな大きな綺麗で可愛い笑顔を見せてくれた。
10年後
「……様、桔妃様。」
洛陽城の第3層最深部、宮。奥の間にピンクのベールで囲まれたお姫様ベッドから起き上がったスレンダーな女性は、掛け布団が流れ落ち裸をあらわにした。幼き頃、花束で遊んでいた女の子は、男だけでなく女性も虜にする胸やお尻に大きく丸みを帯びた身体をし、黒く長い髪が美しい大人の女性に代わっていた。