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or  作者: 真亭甘
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凶罪

明故城から北に位置する楼泉城には、建岱や建文、寅の足、ラン達もいた。楼泉城は尊の領国の城ではなく、尊など近隣の大国に従属する街の城であり、正式には華凰の直轄領地である。しかし、それも名ばかりで華凰中央からの支援支給もなく、市民での自足自給を余儀なくされている。そのため代表も、城主や殿ではなく長官と呼ばれる。


「建岱様、建文様両名とも、よくぞおいでくださいました。」


「暢賀殿、この度の入城、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」


建岱と建文は、楼泉城の長官暢賀と挨拶を交わした。これから西方に移動を重ねて虎牢関を超えると、華凰の皇族直轄領となる。そのうちの一つ洛陽城にて、中華を地獄の底に落とし世の中を荒らした武装集団「凶罪」の討伐記念の催事「罪の日」に向けての宿として、楼泉城へと足を運んだ。というのが表向きの建前で、明故城からこの楼泉城までは、300kmもの距離が離れており、間に同盟国や華凰の領地もあるが、賊の雅竹にしてみれば格好の的と見える状況だ。あえて自らを餌にして敵をおびき寄せる魚杢が考案した釣りの策。釣られて得をするか、かからずとも催事後に別働隊からの襲撃を与える。そのため軍も、建文の軍は明故城にて守備にあたり、寅の足は長蛇の陣を生かし、甕が建岱と共に楼泉に入城し守備に入り、魚杢と岩夫は楼泉城と同じ街城の遷城に入城した。遷城は虎牢関に一番近い城でもある。兵以は楼泉城と遷城の間50kmの中継地点で野営をしている。ラン達や傭兵は、華凰の情勢や申の悪行、雅竹襲撃に対応するために、楼泉城にいる。建岱や建文などは御殿にて長官と会食しているが、兵士ではないラン達は晩飯処を探し散策中だ。要人扱いとして洛陽城に向かっている名目上の扱いになっているが、特別扱いされても野生児そのものの行動をしているランには難しいという理由で、別行動をしている。


楼泉城は、丘陵が四方に点在し、北部に湖があり、湖畔公園には野生動物が住まうほど自然豊かな要害地である。また、都市間を結ぶ中間点でもある交易の盛んな街であった。そのため、たくさんの品が揃っていて、たくさんの美味しい店や居酒屋などがある。ルナが選んだ中華のお店へと入っていく。麺や唐揚げなどを堪能する。小籠包の汁をこぼしながら食べるランを横目に、綾は話した。


「ランやルナはともかく、なぜお前はついてくる?」


綾の目はジットに向かっているが、ジットはニット帽を深く被り、綾の目先を無視している。


「別にいいじゃないか。自由行動だし。」


「自由行動なら、別行動でも良くないですか。」


「そう冷たくするな。情報交換といこうではないか。」


「急だな。俺たちはお前に上げる情報などないぞ。」


「オレは上げる側だ。君たちからは共有してもらえればいい。」


「共有だと?」


「共有。今回の催事『罪の日』が終わるまでの行動を共にするという。」


「「罪の日」に何かあるっていうのか?」


「別に意味はないただ「罪の日」ってことだけに意味がある」


「ってことは「凶罪」ですか」


綾は少し難しい顔をしながら言ったのに対してジットは、爽やかそうに答えた。


「そう!」


「ところで「凶罪」って何なの?」


突然ルナが質問してきた。話を聞いてなさそうで聞いていたみたいだ。驚きの中でランを見たが期待通りの眼前の食材に夢中であった。


凶罪-きょうざい-魔神・邪神としても名を連ねている神話をモチーフにした武装集団。

主に華凰が建国の際に対立していた国の残党集団が反国を唱え抵抗運動をしていたが、時の王、羽林「ウリン」と各領主による討伐軍によって残党派の首領を討伐に成功した。しかし、ジットのもたらした一種の情報では、申の文圍は残党派ではないかという情報がある。


「それが何でいま関係するの?「凶罪」って過去の出来事でしょ!昔話なんかに興味ないのよ」


「ちょっとねえちゃん確かに歴史話って面白くないよね?しかし、この超大国・天下の大天下の華凰の直属の城、しかも本城3つの内の、麗しき美女の桔妃「キキ」さまの居城であるあの洛陽城に、凶罪のメンバー首領の「蚩尤(しゆう)」が封印されているって話よ」


歴史の話を聞いても面白くないと思ったルナは、呆れたように言い放ったが、ジットが笑いながら話そうとしたら、だらしなくチベットやらベトナムなどの民族衣装を身に纏い、ぼさぼさと生やした髪が特徴のいい顔立ちが勿体無い男性が席に割り込んできた。特にルナにほぼ近寄った形で。そんなのを拒絶するように身を引きランに体を寄せた。綾が一言言い放つ。


はい、承知いたしました。以下に、校正・校閲後のテキストを生成します。


「誰だい、オッサン。」


「オッサンってひどいなぁ……これでもまだ28だで?確かにアラサーに属するかもしれないけれど……。わしの名は高旗こうき。高いところに旗を掲げるって名さ!そしてその旗は華凰の一番強いところに掲げる。そうしたらよの美女をみんな集める!どうだ、ねえちゃんよ、今のうちに俺の女にならないか?そうすれば俺の財などは一つになるぞ。」


椅子に片足を載せて高らかに語ると、ルナに顔を寄せ自分の妄想話を吹き込みナンパを仕掛けてきたが、現実味のない話にルナも聞く耳を持たず軽蔑するようにあしらう。高旗はよっぽどの女癖が悪いのか、左手はルナのお尻に忍び寄り蛇のように絡みつく。ぬめりぬめりと蠢くような動きが自分の体に纏わるのに身構えるルナを平然と、妄想話の続きを語り、空いている右手が欲するように蠢き、そして高旗の語りと一緒にルナの胸を鷲掴みした。綾やジットが席を倒し、荒々しく立ち上がり高旗に襲い掛かる。しかし、その動きよりも先にルナは高旗を投げ飛ばした。


「え……うわぁ。」


「なに気軽に私の体を触ってんじゃないよ!」


国や動物も人も変われば、力の弱い女性でも子供でも老人でも人を突き飛ばす力をつけることができる。しかし、全員ができるわけではないのも当然のことに甘く考えていた高旗は、案の定、隣の机に身体を打ち付けてひっくり返っていた。ほかの客や店員たちが突然の出来事に騒然となるが、一番驚いたのは綾である。


「驚きました。世界が変わってから現在まで生き残っているのだから。」


「そうよ。ちゃんと私もアニマは使えますから。」


――アニマ(anima)はラテン語で、生命や魂を指す語である。――

世界が変わった転換点、アニマ。「DREAM」という体感型ゲーム内での能力表現として使われていた。このアニマを使いこなすことで肉体は飛躍的に向上し、従来の人間の身体パフォーマンスとは比較にならない。さらにこの力を極めることで、前回ランが廃墟の島で戦った「シーシング」のように身体から水を出すこともできる。


「じゃさじゃさ、君はアニマ使えるんかい?」


ドヤ顔で返事をするルナに、ワクワクと身を乗り出してジットがランに振り返った。しかし、ランはどこ吹く風とばかりに、ただひたすらに食べていた。それを見たジットは脱力した顔をした。そんな中、投げ飛ばされていた高旗が身体を起こすと、ぼさぼさの髪に顔の輪郭に沿った髭と小太りが特徴の大男が高旗に近寄り、「アニキ、アニキ!」と叫んだ。それに高旗も応えようとするが、男は椅子を持ち上げてこちらのテーブルの中心に振り下ろした。テーブルは大破し、食材や皿は無残にも飛び散った。ルナの髪を鷲掴みにして高旗のもとへと引きずり込む。綾やジットが男を抑えたり、手を出しても男は振り払われる。ルナは倒され地面に引きずられると、男は肩を引かれ振り向き、顔に拳をもらった。


「メシを!」


話を全然気にしていなかったランが、メシを吹き飛ばされたことに怒り、男へと殴りかかったのである。だが男は倒れたり飛ばされることはなく、こらえきれずルナから手を放しランへと殴り返した。男とは正反対にランは弾き飛ばされたが、平然と起き上がり男へと立ち向かう。


「なんだ、あのガキ。あの酎畝ちゅうぼうとやりやがる。」


高旗や店員やほかの客たちがまた驚いていた。町の中で力自慢と言ったら酎畝ちゅうぼうが出てくるほどの人物だ。口上手で女癖の悪い高旗と癇癪持ちで怪力自慢の問題児2人はこの桜泉城では有名だ。そんな酎畝と戦っているランの姿に町の人は目が離せなかった。そして、誰一人として2人の喧嘩を止める者はいなかった。というより、どちらが勝つのかに興味を抱いていたからだ。喧嘩も終盤に差し掛かると、両者とも疲労と痣とうっ血で顔が酷いことになっていた。両者拳をぶつけようとすると……一人の男が大声を上げて制止を図る。


その人物はこの町の長官、暢賀だった。暢賀は店に詫びを入れ、衛兵に二人を連行させてその場を後にした。殴る相手が立ち去るのを許せずに、後ろから殴りかかるランの拳を綾が両手で受け止めた。


「もういい。もう終わったんだ。止まれ。」


「そうよ、もう終わりだよ。あんたが怒ったのはご飯のことかもしれないけど、一応ありがとうね。」


「さあ、これ以上はほかの人の迷惑だから、僕らも宿舎に帰ろうぜ。」


ランは腕を下げてルナに付き添いながら、宿舎へと歩き出す。綾も椅子に掛けていた刀を掴もうとするが、滑って倒れる。ジットが綾の手を気にして刀を持って歩き出す。喧嘩騒ぎを起こし役人から叱責されて、暢賀の部屋へと廊下を歩いていると、前方から和装の侍と華やかな着物を着て傘で顔を隠している花魁が歩いてきた。問題児の高旗も道を譲るが、通りすがりの花魁の姿に目を引かれた。それは着物からはみ出るほどの大きな胸の谷間が溢れて、少しあらわになっていたからである。それまで疲れ果てていた高旗の足は、踊るように舞いながら暢賀の部屋へと駆けていった。


「真司様、あのお方、何か楽しそうなことありましたかな?」


「彗よ。誘っておいて人を弄るとは、随分と言い草だな。」


笑い合いながら、2人は屋敷の奥へと進み、部屋の扉を開ける。扉を開けると、そこには4人の男がいた。

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