税の主
突如現れた老将と先程まで残虐な戦いを見せた青年「リョウ」の関係に、村の人や俺は困惑している。しかし、困惑や戸惑いの顔をしているのは俺だけで、村人たちはすぐに安堵の表情に変わった。自分の村がどの国に所属しているか、そしてその国の兵士の甲冑や将校たちの名を知っているのが安堵の理由だが、賊に荒らされ連行されたり、もうすでに手が入った人々もいる。その人々を思ってか一部が怒りをぶつけていく。八つ当たりにも近い行いだが、この兵士という人は顔色一つ変えずにただ黙っていた。そうした状況をよそに、リョウは俺に近づいてきた。
「やぁ、おまえ面白いな!意識でできたのか?」
近寄ってはいきなり話しかけてきたことは、先ほどの縄から解放したことを聞いてきたからだ。しかし、どのようにやったのかわからない。あたふたした素振りにリョウが話しかけようとした瞬間に、兵士将軍が近寄って村人たちのためにも、城への移動をするゆえに同行していくことになった。
遊女との戯れを終えた御仁は、豪華な羽織を身に纏い二つほど扉を超えると、和服の成人男性と、ランが着ていたような破れ服を着た少年が椅子に座っていた。
「相変わらず、性が出ますね」
「ふん、性は出るものではなく、出すものよ!商いと同じようなものだ、だから。抱かぬのか?」
「そうですね……このような各人との接待には、そういう付き合いや場が設けられますから……うんざりしますよ。目の前でやられたり、一緒にとか……」
「ははははは!結構、結構。なら今度ご一緒に」
「文圍殿、ご冗談を」
大笑いしながら席に座り誘うも、和服の人は小さく首を振る。またも御仁は大笑いする。突然少年も大笑いにはしゃぎ出す。
「サルがウッキキキ」
文圍。十二神獣の「申」を授かる者。
征政権。ゲームでも絶大な権力を持つ組織。変異後もその立場を保ち世界を管理している。国管理協会。その中の4機関の一つに、十二神獣がある。
十二神獣。「十二支」と表現する人もいる。征政権から公認を得た特別な12人を表す。この選ばれた12人は、権力を持つ者としてあらゆる許可を許され、その行いは征政権の代行と言われる。この称号は征政権の地、コルマト島の島民以外が唯一なれる征政権の職である。別名「出世頭の頂」とも呼ばれる。
そんな最高職をけなされ、先ほどまでの大笑いの顔は一変して冷え切っていた。
「桜花よ。なんだね、この品の無い少年は」
「申し訳ありません。こちらはラエル。コアの新しい結合者です。が、まだ学習途中のため発達途中ですので、少々欠落が……」
和服の男性、桜花の話を聞いた文圍は、すぐに笑みを浮かべ顎ひげを撫でた。
「国商売のにおいがするな。そう言えば、この前加わった雅竹という傷物!尊の近隣にて我が品の同盟国『税』へと送ったら、すぐさま利益を得たわ。賊を使って国を取り、『税』を使って尊をもいただく。そうすると、よりたくさん買えるぞ!」
「ええ……」
税の国。尊の西側に位置する小国。安徽省辺りに位置する小国。文圍の十二神獣加入前は、湖北省・湖南省・安徽省・江西省を合わせて湖という大国に統一していたが、品との戦争「品湖の戦い」に敗れ、いくつかの国に分解した。品と友好的な関係の領主は統合や同盟を結び、反対派は独立して敵対した。この功績により、十二神獣となった。文圍の輝かしい功績の地は桜花への投資から併合が容易になる。そして、同じ十二神獣の建岱と落籍となる。文圍のこの上ない利益投資先だ。そして税より南に位置する江西省・武功山の周辺の険しい山に湯月城という雅竹の隠れ屋敷がある。天然の要害であり、それを囲むように大群がいた。
熱泉水を分留するなどして、熱水近くまで薄めた浴槽に雅竹真司は浸かっていた。薄めたとはいえ、覗き場から離れていても40℃近い暑さがあった。そこから華やかな着物女性が叫んだ。
「真司さま。城のまわりを敵が囲んでいます」
「尊がここに来るには、まだ早い。すると差し詰め、百渡の政敵である民鬼くらいのものだろう。ここはかの大戦で治政もままならない状態だからな。さすがの尊でもここには来ない。さすがのお猿さんも税へ密書を送ってくるからな」
「一ちゃん、出すのが遅かった」
「いや、十分だ」
熱水から上がり身支度を整えると、女性が持っていた刀を受け取り、帯に刺した。
「俺様が直々に相手をしてやる。彗!終わったら、おまえをいただく」
「はい」
雅竹に告げられ、彗は顔を赤らめながら見送った。
伝令兵が青宇将軍に「左右の陣形が整いました」と報告した。
肌黒く角張った顔が特徴の男に、伝令兵が状況を報告した。
青宇将軍は、税の国の将軍である。政務執行の重役である大臣を務める民鬼の傘下筆頭将軍である。分裂前の湖の国の将軍でもあり、民鬼とは湖の時代からの長い関係を持っていた。
湖の時代、正太守として湖畔王と8人の子供たちがいたが、国益を巡る競争から品の戦争へと発展し、没落した。その時、王子を助けて税を建国し、豊かな国造りを理想として二人は助け合ってきた。しかし、外部の人間によって荒らされようとしている。
「今、我々の税の国は、品というエイリアンに卵を産み付けられ、受肉体へと化している。我々軍隊は、外部からの敵を防衛するだけでなく、内部からの腐敗や侵入者に対する抗体でもあるのだ!今この瞬間にも、国は侵されている。軍隊の力で害虫を駆除しようではないか!」
「おーーーーーー!」
「突撃開始!」
青宇将軍の号令に従い、湯月城を包囲していた軍が突撃を開始した。騎馬隊や歩兵などの大群が一気に攻め寄せてきた。城門の櫓で見ていた雅竹には、焦りもなく待ち構えていた。
「青宇将軍は、品湖の戦いにも参陣した将軍だ。というだけの武勇のパラメーターが平均よりも上のところ。知識に乏しく、政務官である民鬼との関係で動くため、特に策はない。迎撃してもいいが、矢弾がもったいない。」
雅竹は櫓から飛び降り、攻め寄せてくる騎馬に向かって走り抜けた。持ち合わせていた刀で、すれ違う騎馬の兵士を斬り、馬を奪い、そこから青宇将軍へ向けて走らせた。
雅竹が単騎で向かってくるという報告を受けた青宇将軍は、すぐさま近隣の部族長に討伐を命じ、さらに雅竹を討って戦を終わらせる号令をかけた。聞きつけ駆け寄る部族長などが名乗りを上げるが、名乗っている最中に斬られたり、一騎打ちや挟撃を仕掛けるもすべてを粉砕し、青宇将軍の前に姿を現した。
雅竹の華麗な羽織は、赤色の素材でできているのかと思わせるほど、数多の兵士の返り血で染め上がっていた。恐ろしい笑みを浮かべて向かってくる姿にもかかわらず、青宇将軍は退かず、弓部隊に馬を狙わせ、雅竹を落馬させた。「いまだ!かかれぇ!」士気を取り戻し、歩兵師団に当たらせるも、炎が一瞬で辺りを包み込み、歩兵師団を焼き払った。
「いい夢は見られたか、青宇将軍殿?」
「野蛮人が!!うぅおおおおおお!炎で焼き払われようと、騎乗は有利なり!」
騎乗状態から剣を振り下ろすと、風を切る音と同時に青宇将軍は倒れた。
「あとは百渡が他を黙らせれば、完全掌握だな。」
視界が霞んで見えない部屋の中で、女性の白く綺麗な肌がうねうねと微動しながら、高い声を鳴らす。
「あ……熱い、熱い……はぁ、はぁ……もうダメ……焼け死ぬ。呼吸もできない」
「……ならなぜそうしない。初めからイってればいいのに……」
男性の細身の白い肌と、はっきりと隆起した二の腕、胸筋、腹筋、下半身が、女性の体を抑えつけている。逃れられない女性の抵抗は、足を上下に振るわせるだけだった。
「彗……なぜおまえは……?」
男は激しく怒鳴り、彗の豊満な胸を一気に掴み取った。
「ぎゃああああああ!」
その叫び声が響く中、男の手はあまりにも強く胸を握りしめ、まるでリンゴを砕くかのような音を立てた。しかし、胸から漏れるのは違う音だ。それはまるで焼き石の上に乗せられたステーキ肉が焼かれるときのような、じりじりとした音が、耳をつんざく。
「なぜだ、言え。言わなければ、このままお前は女として生きていけぬ地獄のような日々を送ることになるぞ。」
男はさらに力を込めて、胸を押し付ける。だが、その時、彗は必死に男の顔を掴み、静かな声で告げる。
「し……んじ……様、申し訳ございません。ですが、私はあのようにはなりたくありません。私は、真司様に殺されるつもりはありません。」
その言葉が響く中、周囲では炎が踊る。複数の台の上に、(細長い腕や足を持つ、猿に似た存在)が焼かれている。
その光景に目を凝らすと、炎の中で焼かれる女性の姿が見えた。
「確かに、あの女たちもこんな形で火葬されることを望んではいなかっただろう。だが、彗、お前が招いたことだ。それに、最初に俺に抱かれ、食べられていれば、あの者たちも……」
男の手が再び振り上げられ、その瞬間、台座の炎がさらに強く燃え上がった。
「私の命は、真司様のものです。あの時、私は女として命を失いかけました。それでも、私は真司様と共に生きたいのです。そして、あなた様の熱い炎が私の中で燃え続ける限り。」
「……ふん、彗。お前が選んだ道も、死を願うような生き地獄かもしれんな。」
「それでも、私は、あなた様との幸せな道を選びます。」
彗はその言葉を口にし、真司の体を両腕で強く引き寄せた。
そして、宮殿と離れ小屋を繋ぐ長い桟橋を、彗は歩いた。足取りはよろけながらも、真司は後ろから叫んだ。
「彗を部屋へ、そして医師による治療を手配しろ!」
その声が響く中、真司は離れ小屋へと戻った。そして、突如として炎が一気に燃え上がり、小屋を包み込んだ。
別時刻別の場所で、ランたちは兵似将軍との同行により尊の前国主が治める明故城へと入城した。北側を大河という天然の防衛線に守られ、城内最大の宮殿は、南西から北東へと流れる小川によって守られていた。まさに自然の要塞である。
明故城の城内に入った瞬間に馬車のカーテンが開き、一人ずつ降り始めた。高い城壁内に囲まれた城下町。奥の広場には無数のテントが広がり、たくさんの市が開かれ、食べ物の微かな匂いが空腹の腹を刺激し、思わず腰を下ろして飛び上がろうとした。一気に町を見下ろす高さまで風景が変わるにもかかわらず、腰を下ろしたまま動けなかった。後ろを振り返るとリョウが肩に手を当てて、体が上がらないよう押さえつけられていた。
「勝手にうろうろするな。まだ入城申請が終わってない」
村人であれば村長などが自動的に名簿を兵士に渡して済むが、村人ではない者は兵士に名前や所持品などが記録される。それは侵入者や違法操業、密輸、犯罪などを取り締まるためだ。
「名前と滞在目的、所持品を出せ」
「リョウ、傭兵として山賊討伐報酬として将軍らと同行、所持品はこの刀のみ。この少年は」
「小僧、名前は」
「ラン」
「目的は」
「……」
「この者ら二人は私と共に宮中へ行く。責任は私が請け負う。取り締まる必要はない。」
「将軍、わかりました」
将軍のおかげで入城できたものの、これで本当に良かったのかわからない。ランの素性を何も知らないし、俺の目的には必要ないはずなのに、なぜかこのまま別れるのは惜しいと思った。そうだ。定食屋でもそうだ。いつもなら関わらず、記憶にも残らずに過ぎ去るはずなのに、なぜか引き留めてしまった。こいつを放っておけないのか?……確かに、あの頃も俺は、自由に動き回るあいつらの後を追いかけていた。そして、あいつとはいつも戦っていたな。ほら……隣にいたランが、飛び去ってしまった。三度の鐘が鳴り、将軍に宮殿へ向かうように言われたのに……。俺は意外と面倒見がいいのかもしれない(笑)。
「俺も少しくぅ……!!!!」
リョウの少し後ろに、破れ布を纏い、ロン毛の白髪で頬に赤い紋様のある人物がいるのを感じ取ったリョウは、過去の出来事が走馬灯のように一瞬で脳裏をよぎった。思考が駆け巡り、腰に収めた刀に手をかけ、振り返りざまに刀を抜いた。