大蛇
ランが村を脅かしていた。
ブルーフロッグを撃退したにもかかわらず、村人たちの間に安堵の空気はなかった。むしろ、沈鬱で険悪な雰囲気が漂っている。目を細めた老人が、厳しい口調でランに詰め寄った。
「勝手なことをしてくれたな。俺たちにとって、何よりも重要なのは明日を迎えることなのだ !」
「ケッ。コソコソと、怯えながら暮らさなければならないっていうのかよ!?」
「お前の見立ては、間違ってはいない。だが、それは一時的な話だ。ここ最近になって、野生の動物やモンスターの目撃が多発している。その理由を教えよう。西の山の方に、大きな大蛇が現れたのだ。すべてはその大蛇が棲みつくようになってから始まったことなのだ」
ランは苛立ちを隠さず、食ってかかる。
老人の言葉に激しく反発するラン。しかし、その口論に割って入った一人の男性が、老人の言葉を制止した。
ランの目に鋭い光が宿る。
「なら話は早いってもんだ!その大蛇をぶっ倒せば良いんだろう!?」
「まぁ、そうできたら、それに越したことはないのだが……」
「そんなの簡単だ!俺が行って片付けてやるよ!」
男性は苦渋の表情を浮かべる。
ランは自信に満ちた笑みを浮かべ、胸を張る。
男性はランをまじまじと見つめ、思わず問い返す。
「ほんとうか?」
その翌日、太陽が地平線から顔を出すと同時に、ランは西の山へと足を踏み出した。彼の心には、村を覆う暗雲を振り払うという純粋な意志が宿っている。
深く、奥へと進む。踏みしめる土の感触が、徐々に険しい岩肌へと変わっていく。ランは荒々しい急斜面を一気に駆け下りた。彼の足音は、脆い土塊が崩れ落ちる音と、砕けた小石が軽快に転がる音を伴っている。足元を伝うのは、鋭利に割れた岩塊から来る肌を刺すような冷たさだ。
その次の瞬間、ランの視界の脇から、一筋の黒い鞭が炸裂した。風を断ち切るような唸りを上げながら、それは大蛇の尾による一撃だった。
ランは反射的に力を込め、助走なしで数十メートルもの高さの上空へと跳躍した。眼下に展開したのは、彼の体を狙ったはずの尾の一撃が、傍らの巨岩を木端微塵に砕き散らす轟音と衝撃だ。
宙を舞うランは、すぐに体勢を立て直した。その下では、狙いを外し無様に体勢を崩した大蛇の巨大な頭部がある 。ランは、落下する自身の勢いそのままに、全体重を乗せた拳を大蛇の頭部に叩き込んだ 。
鈍い衝撃音が森にこだまする 。
拳がめり込んだ箇所からは、硬い鱗が砕け、厚い肉がえぐれる感触がランの手に伝わった 。しかし、その巨体は微動だにしない。
怒りに身をよじる大蛇は、血を帯びた大きな口を大きく広げ、ランを呑み込もうと再び襲いかかった。
ランは、迫り来る巨顎の影を前に、己の生死を当然のものとして受け入れる純粋な眼差しを宿している。
彼はその場で腰を落とし、大地を踏みしめた。
次の一撃で決着をつけるという確固たる意志が、その体から溢れ出る。
大蛇の恐ろしい牙がまさに目前に迫ったその時、ランは自身の内に秘めた無垢なる信念を、全身全霊を込めて拳に注ぎ込み、放った。




