朝の情景
道路の横断歩道には、信号の切り替わりを待つ群れが一斉に立ち止まり、青に変わる瞬間、洪水のように流れ出す。自転車のベルの音やタクシーのクラクションが重なり合い、無秩序でありながら一定の秩序を内包する都会のリズムを形づくっている。
通りには無数の足音が重なり、アスファルトを一定のリズムで叩き続ける。自動車のエンジン音やバスの発車を告げる低いブザーが遠くから混じり合い、街の鼓動のように響いている。
コンビニの明かりは白々しく、店先では温かい飲み物を求める列が少しだけできている。カフェの前を通り過ぎると、ほんのりと焙煎された豆の香りが漂ってくる。
日の光はもはや完全に都市を支配下に置いた。高層ビルのガラスは目も眩むほどの光を放ち、影は急速にその面積を縮めていく。そしてオフィスという名の無数の箱の中へ。人々は吸収され、巨大な都市という生命体の細胞として、今日一日の役割を開始する。これは毎日繰り返される、壮大で非人間的な儀式である。朝の都会の情景とは、個人の物語が始まる前の、巨大なシステムの始動の記録なのだ。
「こんな朝の景色を見ていると、不思議な気持ちになりませんか?みんな同じ時間に同じ場所を通っているのに、誰も互いを意識しない。それでもこうして眺めていると、街そのものがひとつの生き物のように思えてきます」
その背後から、大人の女性の落ち着いた声音が響いた。その声音は、むしろ朝の冷たい空気をやわらげる温度を帯びて、不思議と明確に青年の耳に届いた。
そう声をかけたとき、青年は驚いたような表情ではなく、むしろ納得するかのように軽く頷いた。
「・・・うぅ」
土や小石が食い込む粗末な板壁と、藁で覆われた屋根の下、ランは目を覚ました。
砂粒や小石が頬や衣の下に食い込んでくる。床板どころか敷物すらない。湿り気を帯びた土の匂いが鼻を刺し、耳を澄ませば、小屋の外では鳥の鳴き声すら聞こえ、山奥の静けさが不気味にまとわりつく。
「目が覚めたかい?」
年配の男性が小屋に入ってきた。ここは村というより集落だという。ランは川辺で倒れているところを村の子供たちに発見され、ここに運ばれたのだった。最近は魔物の目撃情報が多く、子供たちの教育のためにも、魔物の餌食にされる前に保護したのだという。
「そりゃ、迷惑をかけたな。それに見つけたのは俺1人か?」
「1人だが・・・、他に連れでもいたのか?」
「いやあ、そんなんじゃないけど。それならそれでいいや」
ランと男性が話していると、突如外で人が騒ぎだした。すると入口に立っていた男性に向けて大声をあげた。
「おい!作物付近に「ブルーフロッグ」が出た!!」
「何だと!わかった。すぐに行く!悪いが、兄ちゃん話はまた後だ。」
「あ?何だよ。そのブルーってのは」
「起きたばっかだろ、無理するな!って・・・立ち上がって平気なのか?ついて来ることは勝手だが、足手纏いにはなるなよ」
ブルーフロッグ
鳥や小動物、草木などを丸呑みする犬ほどの大きさの小型モンスターだ。生活圏に現れることは稀だが、近年その頻度が増加しており、作物や家畜に被害をもたらしている。跳躍による移動で対策が難しく、人への被害も懸念されていた。
農園には農具や木槍などを持った人が集まっている。
木の幹に、へばりついていたブルーフロッグに矛先を向けて警戒している。
飛び跳ね木々に移っては、人が後を追いかけていた。
「なんとか、被害を出さずに追い込めているようなだ」
村人の安堵した言葉に、ランは思わず「あれが?」とツッコんだ。
「あぁ我々には、どうにもならない。あくまで「追い払う」こと。農園を守りつつ、余計な血を流さぬようにする。そうすることが、これまで村を守ってきた方法だからだ。下手に危害を加えて大量発生して、家まで来られたらどうにも」
男性の話を聞き終える前に、ランは走り出し、ブルーフロッグへと直進する。ブルーフロッグが木々へと跳躍した瞬間、ランも跳躍し、拳を振りかざした。直接は殴らず、大きな間隔を空けて殴ると、その衝撃波でブルーフロッグは弾き飛ばされた。




