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第7話 マリー対小百合

 ある日の放課後、俺は小百合に誘われてファーストフード店「ボク・ドナルド」に来ていた。

「どうしたんだ急に。受験が済むまで会わないんじゃなかったのか?」

俺は少し嫌みを込めて言ってみる。

「ちょっと気なることがあるの」

さすが小百合。俺の嫌みなど全く通じていない。


「気になることって何だ?」

「太田君達のことなんだけど」

「噂の不良3人組か。奴らのことが気になるのか?」

「太田君のことが気になるんじゃなくて、つまり、その‥‥」

小百合は言いにくそうにしている。


 小百合の似合わない態度に俺は少し苛立って言った。

「はっきり言えよ。小百合らしくないぞ」

俺はあえて強い口調で言う。

「うん、そうね。太田君が肺癌になったという噂なんだけど、どうやら本当らしいの」

俺はどきっとして思わず仰け反った。

本当だとわかってはいても心の片隅では『嘘の噂であってほしい』という気持ちがあったのかもしれない。


「でも、中学生が肺癌だなんて不自然じゃない? しかも3人とも一斉に発病したのよ」

「た、確かに変だよね」

俺は動揺しながら返答する。

まさか俺がマリーに頼んだことが切っ掛けだなんて言えるわけがない。


「それでね。もしかしたらこの事件に四郎君が‥‥関わって‥‥」

「ど、ど、どうしてだよ?」

声が完全に震えていた。

何で小百合が俺を疑うのだ? マリーの父親に懲らしめてくれと頼んだことは誰も知らないはずだぞ。


「そ、そうよね。変な噂を耳にしたものだから」

「変な噂って?」

「いいの。私が悪かったわ。四郎君を信じられないなんて駄目だよね?」

俺の心臓は通常の2倍以上の速さで脈打っていた。

一体どんな噂が流れているというのだ?

「教えてくれ。なんて噂なんだ?」

「ごめんなさい。四郎君があんなことするわけないものね。この話は忘れて」

忘れろったって気になるものは気になる。『あんなこと』っていったい何なんだ?


「別の話をしましょ」

「いや、できたらどんな噂か聞きたいんだけど」

俺の話など聞いてないように小百合はマイペースで続ける。

「四郎君、志望校決まった?」

「いや、まだだけど・・・・。その噂ってどんな・・・・」

「そっか~。やっぱり伊勢山田高校は無理かな?」

「あんなレベルの高い高校、俺なんか1日25時間勉強しても合格しないって」

俺は諦めてこう答えた。


「じゃあ、第2志望の宮川女子」

「それはもっと無理! 俺に性転換させるつもりか?」

「だったら別々の高校になっちゃうかもしれないね?」

「まあ、そうだな・・・・」

「嫌だけど仕方ないよね?」

俺はどう答えたらベストか一生懸命考えた。勿論一緒の高校に行きたいが、小百合は校内で5本の指に入る秀才だ。ここで下手なことを言って別れ話に発展されては大変なことになる。


 すると、その時思わぬ声が沈黙を破った。

「とても恋人同士の会話とは思えないわね?」

「「その声は!」」

俺と小百合は同時に声を上げる。


「いつも一緒にいたいという気持ちがなくなったら、もうおしまいよね?」

マリーは鞄のポケットをよじ登るとテーブルの上にぴょんとジャンプした。

俺は慌ててマリーを隠そうとしたが小百合の声の方が一瞬早かった。

「尻尾アクセサリーに愛だの恋だの言われたくないわ!」

「何を偉そうに言ってるの? どうせ恋に恋する時代が終わって、相手が誰だって良くなりかけてるんじゃないの?」

「勝手な想像しないでよね!」

小百合は両手でテーブルを叩いた。辺りに大きな音が響く。


「へえー、恋に恋する時代を卒業してるのなら、恋人が近くにいたって害にはならないと思うけど? 受験だからって距離を置こうって発想が出ること自体おかしいのよ」

「な、何よ。尻尾アクセサリーの分際でわかったようなこと言って。そこまで言うんだったら、あなたも恋愛経験があるんでしょうね? まさか知識を積み重ねた机上の空論なんかじゃないわよね?」

小百合は只者ではないと思っていたが、この状況で何の疑問も感じず尻尾アクセサリーと口喧嘩をしている。小百合、大丈夫か? 尻尾アクセサリーが喋ってるんだぞ。


「どうなの? 恋愛経験はあるの? そんな格好じゃ誰も相手にしてくれないか?」

「れ、恋愛くらいしてるわよ。それにこちらの世界だからこんな格好だけど、元の世界に行けばちゃんとした美しい人間の姿に戻るわ!」

「へえ、どんな姿なの? 教えてよ」

「そ、それは、禁則事項よ。言えないわ。でも、普通の人間であることだけは言っておくわ」

「人間? へえ、人間が尻尾アクセサリーになるなんてお伽話でも聞いたことがないわ」

確かにお伽話には尻尾アクセサリーは出てこないだろうな。

「うるさいわね。何も知らないくせに」

2人の会話に圧倒されていた俺は正気に戻り仲裁に入ることにした。

これ以上やらせていたら何を言い出すかわからない。


「まあまあ2人とも喧嘩はこれぐらいにして」

「あなたがこんなのと付き合ってるから口出しせざるを得ないんじゃない!」

「まあ、マリー落ち着いて」

俺の言葉を聞くと小百合はニヤッと笑った。

「へー、この子マリーって言うの?」

「ああ、マリーアントワネット。略してマリーだそうだ」

「あんた、四郎君にマリーって呼ばせてるの?」

そして小百合は大声で笑い出した。


「なんて呼ばれようと関係ないでしょ!」

マリーの声が大きくなる。

「あなたの名前はクロじゃなくて? マリーアントワネットを名乗るなんておこがましいわ」

「それはあんたが勝手に付けた名前でしょ!? 私にはちゃんとした名前があるのよ!」

ん? なんだこの会話は?


「あら、そうだったかしら? 何て名前なの?」

「そ、それは‥‥」

「言えないじゃない」

「い、言えるわよ」

「じゃあ、言えば?」

「ピピプル・クレタ・ビチャ・ウン○‥‥ 向こうの世界では美しい言葉でも日本語にすると変な発音の言葉もあるのよ!」


 白熱する2人の会話に俺はそっと口を挟んだ。

「ちょっといいかな?」

「あなたは黙ってて!」

2人同時に言われてしまった。これでこの場における俺の発言権はなくなったわけだ。


「大した愛情もないのに四郎に思わせぶりな態度を見せるからいけないのよ」

おいおい、俺は四郎なんて呼ばれたことないぞ。

「あなた四郎君のこと四郎って呼んでるの?」

小百合の声はかなり震えている。


「当たり前じゃない同じ屋根の下に住んでるのよ」

「何が同じ屋根の下よ。尻尾の分際で」

「愛は形じゃないわ。心から生まれるものよ」

「人間同士の愛情と人間が動物をかわいがるのと一緒にしないで」

「誰が動物なのよ!」

「あ、尻尾アクセサリーは動物ですらないか?」


徐々に2人の声が大きくなってきている。ふと周りを見ると他の客はほぼ全員こっちを向いてひそひそ話をしている。

『男? 女?』という声が小さく聞こえてくる。

どうやら俺のことを言っているらしい。確かに女性同士の口喧嘩なのに見えているのは男女なのである。

どこの世界に女子中学生が尻尾アクセサリーと口喧嘩していると思う人がいるだろうか、いやいない。まあ当然こう言われるわな。


「何よ、この性悪女!」

「あんたの方が性格最悪女でしょ!」

「心も冷たい雪女!」

「長さ15センチの海鼠女!」

だんだん小学生の喧嘩になってきている。


2人は暫く睨み合っていたが、突然小百合がマリーを叩き潰した。

「痛いわね!」

と叫ぶとマリーの小百合を睨んだ目が光り始めた。俺はマリーが黒魔術を使おうとしていることを察すると慌ててマリーに言った。

「いいのか? ここで黒魔術を使うと暫く小百合の家に泊まり込むことになるんだろ?」

マリーはふと我に返り黒魔術を使うのを止めた。


 その後2人は店員から退出を命じられるまで罵りあうのであった。これで2度とこの店には来られなくなってしまったな。


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