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第46話 天使の芽依と悪魔の芽依

 俺がこの世にお別れを告げようとした時、芽依が小百合の前に両手を広げて立ちふさがった。

「これ以上やったらだめだよ小百合さん。ここは芽依に任せて。夜マリーさんがお兄ちゃんに手を出さないよう、今日から芽依がお兄ちゃんの横で寝るよ。だから安心して」

小百合は何も言わずゆっくりと木刀をおろした。

芽依、大活躍だができることならお兄ちゃんがやられる前にそれをしてくれ。

 小百合は疲れ切った顔でぺたんと座り込んだ。

沈着冷静パーフェクトな小百合様はどこへ行ったのやら。


暫く放心状態だった小百合は、突然我に返ったように大声を挙げた。

「もう、これじゃいつまで経っても進まないじゃない! せっかくファイヤードラゴンの髭を持ってきたのに、一刻も早く行動しないとクラスメイトが死んじゃうのよ!」

『誰のせいじゃ~』とツッコミたいところだがちょっと怖いのでやめておく。

何か短い期間で俺と小百合の立場が変わってしまった気がする。

このままでは俺は一生小百合に逆らえないだろう。


「もう、仕方ないわね。小百合、ファイヤードラゴンの髭を貸して」

大きかった髭はこちらの世界に来たとたん五分の一以下の大きさになってしまった。

マリーは初めから分かっていたかのようにそれを受け取ると、

「じゃあ、早速ファイヤードラゴンの髭を煎じるわね。黒魔術を使えば一時間くらいで粉末状態にできるから待ってて。臭いが凄いから外で作ることにするわ。ママ、心の準備しておいてね」

と言い残し、部屋の外へと出て行った。


「いよいよこのプロジェクトも終わりね」

小百合は安堵の表情と不安の表情を浮かべながら囁いた。

「でも失敗したらまた戦いに行くんだよね!?」

芽依は目を輝かせ、とんでもないことを言い出す。

もうファイヤードラゴンと戦いうのはこりごりだ。


「成功しても失敗してもこれで終わりな感じがするわ」

「あの3人そんなに悪いのか?」

「ええ、そうらしいの」

俺たちは会話を失う。

静かな部屋を見回すと空中に浮かんだ2号が目に入ってくる。

「大丈夫。きっとうまくいくさ」

「でも、その後が問題なのよね」

小百合は小さな声で言うと後ろを向いた。

俺は謎の言葉を理解できず軽くスルーしていると芽依が思い出したように元気良く言った。

「お兄ちゃん、誰を恋人にするか発表するんだよね?」

そうだ。俺にはものすごい試練が待っているのだった。

今までは断然小百合だと思っていたが、マリーの一途な姿を見てしまった今となっては少し心が揺らぐ。やはり俺は優柔不断なのだろうか。


「ところで芽依。誰をって言ったが、小百合とマリーのどちらかだろ?」

「ええ、どうして芽依は入ってないの?」

「実の妹が入るわけないだろ!」

「じゃあ、杉山さんとかも選ばれないわけ?」

「誰だよそれ? 全然知らんぞ」

「ねえ、杉山さんて誰?」

小百合の声は低く目は真剣だ。

「ほ、本当に知らん!」

「杉山さんはね。お兄ちゃんの幼馴染で毎日遊んでいたの。夏休みは毎晩この部屋に泊まってたんだよ。もちろんお風呂も一緒に入ってたし、会わない日はないくらい仲が良かったんだから」

「こら! でたらめ言うな!」

「でも親の仕事の都合で10年前に突然引っ越していったの。そして『10年後また会いましょう。その時お互いの気持ちが変わってなかったら、私と結婚して』って約束したの。その日が今月の十三日。もうすぐね」

何なんだそのラノベ要素満載の設定は!


 小百合が超真剣モードで俺を睨んでいる。

「私そんなこと全然知らなかったわ。どうして話してくれなかったの!?」

「これは嘘だ。そんな人物はいない! 信じてくれ!」

「問答無用!」

俺が小百合に木刀でぼこぼこにされるのを見届けると、

「お兄ちゃん、大丈夫?」

と芽依が俺を覗き込んだ。

「何でいい加減なことを言うんだ!!」

「これくらいのエピソードがあった方が面白いじゃない。芽依の想像力ってラノベ作家になれるレベルだよね?」

とかわいらしく首を傾げた。

「お兄ちゃん、死にかけたぞ!」

「芽依を候補から外すからだよ」

何て恐ろしい妹なんだ。今まで見抜けなかった芽依の一面を見た気がした俺なのであった。


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