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第36話 黒魔術の才能

 マリーが空中に向かって手をかざすと幾つかの的が現れた。

「今から黒魔術の練習をするわよ。まずは小百合から。あの的を狙って」

「私の武器は刀よ。どうやってあんな遠くの的に当てるのよ?」

「刀から何かが飛び出すイメージを思い浮かべて。火でも氷でも何でもいいわ」

小百合は言われたように的に向かって立ち、そして目を閉じた。


「なるべく詳しくイメージして」

「やあー」

大きな声と共に刀を振り下ろすと風がブーメランとなり的に当たった。

的はゆらゆらと揺れている。


「最初にしては上出来よ。何をイメージしたの?」

「かまいたち。風を切り真空を的にぶつけようとしたの」

「刀の軌道から真空を作るまで、そして真空が的を切り刻むまでをもっとリアルにイメージできたら黒魔術の完成ね。基礎的な魔力は十分備わっているわ」

小百合は何かを得たのか、今のイメージの復習をするかのように素振りを始めた。


「次は芽依ね。やってみなさい」

「任せて!」

芽依は自信満々で的に向かって仁王立ちした。


「我が杖に宿りし暗黒の雷よ。邪悪なる的を射よ!」

杖を大きく振り上げ的へ向かってと振り下ろすと、杖の先から光がほとばしり電気の束が的へめがけて飛んでいった。

そして的は見事に砕け散ったのである。


「凄い!」

まさか芽依にこんな能力があろうとは。

「すごいわ。上級魔術師並みの魔力よ」

「芽依ちゃん。やったあ」

芽依と小百合は喜び合っている。


「どういうことなんだ?」

俺が思わず素直な疑問をマリーに投げかけた。

「たぶん黒魔術を使えると思い込んでいるのが良かったのね」

人の思い込みというのは時に凄いパワーを発するものだ。


 しかし、これはまずいことになったぞ。

この雰囲気の中で次は俺の番だ。

そして、この雰囲気を作ったのは実の妹である。

兄妹でレベルに差があっり過ぎたら恥ずかしいではないか。

的を破壊することはできなくてもせめて的には当てておきたい。

でないとこの先何を言われるか分かったもんじゃないぞ。


 俺はライフルを構えた。

照準がぴたりと合う。

そして引き金を引く。カチ‥‥

 何も出ない。

 あれ?

「何かイメージしたの? そのまま弾を出そうと思ったらそれをイメージしなきゃ」

何て面倒なライフルだ!


 それにしても一体全体何をイメージすればいいんだ? 

そうだ。ファイヤードラゴンと戦うわけだから水にしよう。

俺は必死でライフルから水が出るのを想像した。

しかし、想像に熱中すると照準がずれる。

照準を合わせると想像があやふやになる。

ここまで2人は的に当てている。俺だけ外すわけにはいかないんだ!


 俺は思いきって引き金を引いた。

水が出た! ライフルの銃口から水が出た。ちょろちょろと。

「それじゃ水鉄砲じゃない」

3人は笑っている。これでもかというくらい笑っている。


「たぶん雑念が入ったのね。もっと集中すればできるようになるわよ。きっと‥‥」

マリーは涙を拭いながら話した。

 くそ、予想通り恥をかいてしまった。

 確かに的を砕くパワーと水がちょろちょろでは差はあるが、そこまで笑わなくてもよかろう。

 俺たちの練習は2時間ほど続いた。

小百合と芽依はみるみる上達をしたが、俺は‥‥。


 俺たちは練習を終え、森の入り口に並んだ。

何とも言えぬ緊張感が湧き上がってくる。

俺たちは本当にファイヤードラゴンと戦おうとしているのだろうか?

自分でも今の状況は信じられない。

ここが異世界でドラゴンがいるなんて。

俺達の緊張は高まりつつあった。


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