第2話 変わりつつある日常
尻尾アクセサリーがしゃべり出してから、俺の周りでは変な現象が起き始めた。
やたらと運の良い日と悪い日が繰り返されるのだ。
なぜこのようなことが起きるのか分析してみると、前日に尻尾アクセサリーのおしゃべりに付き合ったかどうかで決まるような気がする。
で、今日はというと、昨夜‥‥。
「ところでお前、何て名前なんだ?」
「もう! 言ったじゃない。聞いてなかったの? というより今更名前を聞くなんて信じられないわ。私が話し始めて5日が経ってるのよ! どれだけ私の話を適当に聞いてきたの? もう一回だけ言うけどこれが最後だからね。ちゃんと覚えてよ。マリーアントワネット。マリーと呼んでくれればいいわ」
とマリーを怒らせてしまったのだ。
当然、今日は運が悪い日になる。
今は朝の登校中、一日で一番眠くてだるい時間帯だ。
しかし、今日の俺は眠気など全く感じない。それもそのはず、朝から何度か死にかけているのだ。
まず玄関を出てすぐ中華鍋が上空から俺の後頭部めがけて降ってきた。
命中はしなかったから良かったものの当たれば即死しそうな重さだ。
更に大通りではすぐ後ろで大型トラックが事故を起こした。
危機一髪で難を逃れた俺は『やれやれ』と額の汗を拭っていると、トラックからはずれた大きなタイヤがまっすぐ俺に向かって来るではないか。
俺はとっさに逃げたが結局タイヤに轢かれてしまった。
というわけで現在ぼろぼろの状態で学校の正門に到着している。
「おっはよう!」
こんな俺に明るく声をかけてくるのは一応彼女の林郷小百合である。
背中まで伸びた長い黒髪は綺麗なストレートヘア。
顔はやや面長の美人タイプと言える。
性格は細かなことは気にしないさばさばした性格で、おそらく俺が今ここで倒れでもしない限り、手足の怪我や制服のほつれには気付かないだろう。
「私、志望校決まったわよ」
「そうか。で、どこなんだ?」
「第一志望が伊勢山田高校よ。で、第二志望が宮川女子。四郎君も志望校合わせてね」
「おい!」
小百合は言いたいことだけ言うと校内に消えていった。
伊勢山田高校というとこの地域で一番の進学校だ。
学年成績120位のこの俺がどれだけ勉強しても合格などできそうにない。
しかし、この世の中には奇跡というものが存在する。
1日25時間勉強して、万が一奇跡が起きれば合格できる確率が全くないとは限らないだろう。
だが、第二志望の宮川女子はどうあがいても無理だろう。
俺が男である限り願書を提出した段階でアウトだ。
てか、高校に合格するまで距離を置くんじゃなかったのか? 志望校を合わせるってことは別れる気はないのだろうか?
本当にわけのわからん日だと痛感していると、校内がなにやら騒がしくなってきた。
「野良犬だ! 気をつけろ!」
突然、大きな声がしたかと思うと、校内から一匹の大きな犬が飛び出してきた。
他の生徒達はみんな身構えたが俺はすぐに走り出した。
例え生徒が100人いようが200人いようが追いかけられるのは俺に決まっている。今日の俺はそういう運命なのだ。
案の定、犬はまっしぐらに俺の方に向かって走り出した。
俺が学校に戻って来られたのはそれから2時間後のことだった。
やっと平凡な学園生活に戻れた俺を更なる不幸が追い打ちをかける。
「誰かクラスのために働いてくれんか?」
俺の所属する3年1組の担任である中井先生だ。
「かなり重い荷物を持たなければならないので、少しだけ大変な仕事だが」
クラス全員が先生から視線を逸らす。重い荷物を持たされるとわかって、この仕事に立候補する奴などいるわけがない。
「何だ? 立候補者はいないのか。じゃあこちらから指名するぞ」
先生が教室中を見回している。
当然のごとく、俺は下を向き軽く目を閉じた。
教室中が緊張感に包まれる。先生の目にとまったらかなり重い荷物を運ばされるのだ。
『ここで動いたら負けだ』俺はそう自分に言い聞かせできる限り気配を消した。。
だが、先生の視線を感じる。
先生が俺を見ている気がする。
先生が俺を見ている気がする。
先生が俺を見ている気がする。
「はい、わかりました。俺がします」
緊張感に耐えられず俺は自爆した。今日の俺はそういう運命なのだ。