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第27話 やっと見つけた!

 マリーが突然、喜びの声を上げた。おい、ここは図書館だぞ。

「あったわ!」

俺と小百合はマリーの見ている本を覗き込んだ。

「ほら、この部分よ」

マリーの顎指すところには次のように書かれていた。シッポなので指ではなく顎になる。


『黒魔術は魔力の高さによって効果が決まる。しかし、魔力の低い者でもその魔力を高める方法を使えば高い効果が期待できる。昔からたくさんの方法が言い伝えられているが、そのどれもが期待できないのが現実だ。だが、その中でも一つ間違えなく魔力を高めるものがある。それはキュキュッピと呼ばれる物質を使った方法だ』


「これって探していた文章そのものじゃないか?」

「そうよ! マリー凄いわ!」

俺達は喜びのあまり、図書館であることを忘れ歓声を上げてしまった。

「あっ、駄目だわ」

「どうしたの?」

「詳しい方法は次回で紹介するって書いてあるのよ」

「じゃあ、その本の第2巻を探せばいいんだな?」

「そうなんだけど、あまり期待できないかもしれないわ」

マリーは声のトーンを落として言った。


「どうしてだ?」

「この本、出版社は勿論筆者名までばっちり書いてあるの。こんなの公安が本格的に調べれば、すぐに身元が割り出せるわ」

糠喜びかよ。俺ががっかりしていると小百合がとんでもないもの発見する。

「本当だ。著者近影で自分の顔まで載せてるわ」

バカだ。あまりにバカすぎる。この著者は今頃牢屋で暮らしているだろう。


「書かれたのも20年以上前だし、この本が残ってるだけでも奇跡ね」

マリーは深くため息をついて言った。

「でも、そこまでドジな人っているの? もしかして存在を知られないように全く別人の写真をわざと使っているとか?」

かすかな希望を持って小百合が言った。


「もし、別人でもその人から身元がばれることもあるわ。第一、出版社がわかっていれば、もうばれたのも同然よ」

「そんな簡単にいくかしら?」

「黒魔術を使えばマインドコントロールもできるのよ。社員でも使って出版社に残る資料を見ればすぐに割り出せるでしょ?」

微かな希望が絶望に変わった瞬間だった。


「でも、キュキュッピの効果は確実っぽいことがわかっただけでも進歩じゃない」

小百合は可愛らしい笑顔で言った。

ここで落ち込まずこの発言。

小百合ってかなり前向き思考だよな。


 時刻はかれこれ午後8時を回ろうとしている。

「結局、成果はこれ1冊か」

「そう簡単に見つからないわよ。初日に見つかっただけでもいい方じゃないかしら?」

小百合はさすが優等生といった発言をさらっとした。


「もうそろそろ帰るか。遅くなってきたし」

今日は昼過ぎにここへ来たから、さすがに図書館に8時間いるのはきつい。もうお腹もすいたし。


「じゃあ、芽依ちゃん呼んでくるわね」

小百合が探しに行こうとすると、向こうから本を持った芽依がこちらに向かってくるのが見えた。

「どう、見つかった?」

みんなが注目する中、マリーが代表で芽依に声をかけた。


 芽依は首を横に振り、

「もう、全然駄目だよ。たった3冊しか見つからなかったよ」

と言ってのけた。

俺はぽかんと口を開ける。

1人で3冊も見つけたのか? しかも小学生の芽依が? 


俺にはマリーの次の言葉が安易に予想できる。

「ほら、言った通りでしょ。芽依ちゃんの方が役立つのよ」

やっぱり思った通りだ。

俺は言い返す言葉もなく引きつった笑顔のまま黙っていた。


「全員揃ったから帰るとするか。夕食も食べてないし流石に腹減ったな」

「そうね。家の人も心配してると思うわ」

全員の意見が一致し、出口へ向かおうとしたその時、マリーがとんでもないことを言い出す。

「ちょっと気になる本があるの。もう少し見ていくわ。みんなは先に帰って」

マリーも意外と前向きだな? 


俺がほんの少しだけ感心していると小百合が提案した。

「図書館初日から無理しなくてもいいんじゃない? また明日来ればいいわ」

「何か凄く気になる本があるのよ。それに私はご飯食べないし」

なるほど。それもそうだな。


「じゃあ、悪いけど先に帰るわね」

「あんまり無理するなよ」

俺は軽く手を挙げてこの場を去ろうとした時だ。とんでもない言葉が俺の行く手を阻む。

「何言ってるの? 四朗は私と残るのよ」

どういうことだ? 俺は空腹なんだが‥‥。


「どうしてだよ?」

「私が空中に浮いて本を読んでもいいの?」

「い! た、確かにそうだが‥‥夕ご飯‥‥」

「いいからさっきの本棚へ行きなさい」

マリーの命令口調が俺に突き刺さる。

「四郎君ご苦労様。芽依ちゃんは私が送って行くわね」

唯一の希望である小百合にまでとんでもない言葉をかけられてしまった。これで居残り決定だ。


こうして俺は閉館の10時までマリーに付き合わされるのであった。

10時まで開いてる図書館て何なんだよ! あり得んだろ?


 更に腹ぺこで帰宅すると、

「あら、お兄ちゃんは今日遅くなるからって、芽依があなたの夕ご飯も食べちゃったわよ」

と母親の冷たい一言。

まさしく踏んだり蹴ったりとはこのことだ。ちくしょう!!!


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