第26話 キュキュッピを探せ
マリーを含めた俺達4人は大きな図書館に来ている。
「紙媒体がこんなにあると圧倒されるわね」
マリーは本がたくさんある図書館に来るのは初めてだそうだ。
マリーの世界では図書館は全てデータ保存になっていて、本として残されているものは貴重なため一般人は閲覧禁止になっているらしい。
「こんな高いところまで本があるなんて信じられないわ。大きな地震が来たらどうするのよ」
マリーはさっきから本より図書館の構造ばかりを見ている。
ところで、なぜ俺達が図書館に来ているかというと『キュキュッピ』という言葉を探しに来たのだ。
いきなり何を言い出すんだと思うかもしれないが、この言葉には深い意味がある。
俺達は魔力を上げる史料を徹底分析し信憑性の高い順に幾つか並べた。
『キュキュッピ』はそれらの文献に5回も出てきたかなり有効な物質だ。
ところがマリーの世界ではもう残っていない物らしく、今ではその言葉すら聞いたことがないと言う。
そこでこちらの世界で探そうということになったのだが、それがこちらの世界の何に当たるかはさっぱりわからない。
そこで図書館に来て、『キュキュッピ』という言葉が書かれた本がないか調べに来たというわけだ。
因みに文献には、
『キュキュッピ53・535グラムを火にくべ、燃え尽きる寸前に魔術を唱えれば通常の10倍の魔力が生じる』
と書かれていた。
これはドラゴンと戦うよりはかなりお手軽な方法である。
「この本が怪しいわね。ちょっと取ってくれる?」
マリーに言われ、俺は一冊の本を手にした。
題名は『360の定義』と書かれている。
「じゃあ、お願い」
俺は最初のページをマリーに見せる。
「はい」
この言葉でページをめくる。マリーは見開き2ページを5秒で読めるそうだ
。
しかし、妹の芽依でさえ怪しい本を探す作業をしているというのに、兄の俺はマリーの手の代わりをさせられている。
これはマリーと小百合が相談して決めたことだが、俺の意見は一切入っていない。
いくら適任かもしれないが俺にだってプライドというものがある。
なんで俺だけ雑用係なのだ?
「どうしたの? めくりなさいよ」
「ああ、すまん」
「もしかしてこの役目が不満なわけ?」
「そういうわけじゃないけど」
「妹が一人前の役目を与えられているのに、自分は一人前扱いされてないのが嫌なんじゃないの?」
「まあ、何というか芽依よりは俺の方が」
「どうしてこうなったかをオブラートに包んで柔らかく話すからよく理解してね?」
「わかった」
「中学3年のあなたより、小学6年の芽依ちゃんの方が使えるからよ」
「どこがオブラートに包んでるんだよ! 思いっきりストレートに言ってるじゃねぇか!」
俺の声が大き過ぎたのか、周りの人々が一斉にこちらを向く。
俺はコホンと咳払いをして本を閉じてその場を離れた。
「ちょっとどこ行くのよ?」
「あの場所は気まずい。座って作業をしよう」
「これくらいの本ならすぐ読み終えるのに」
マリーの不満を抑えて俺は読書用に備え付けられている椅子まで移動した。
暫くすると疲れた顔の小百合がこちらに向かって近付いてきる。
「あら、読書スタイルを変えたの?」
「ああ、ちょっとした事情でな」
「それにしても、この膨大な書物から一単語を探すなんて無謀な話よね?」
小百合はため息混じりに話した。
「そうとも限らんぞ。プロゴルファーを見てみろ。あの長い距離をあんな小さい球を打ってたった5回程度でカップに入れてしまうんだ。考えてみればとんでもないスポーツじゃないか?」
「四郎君て時々鋭いことを言う時あるよね?」
「それは褒めてるのか?」
この会話の最中も俺はページをめくることを忘れなかった。
一度に複数のことが同時にできるなんて今日の俺はかなり調子がいいみたいだ。




