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第23話 芽依の黒魔術

 数分後、芽依はセーターを着て部屋に帰ってきた。

「まさか指先がぱちんとかじゃないだろうな」

「どうしてわかったの!?」

素直に驚く芽依。どうやら不安は的中したようだ。

 まさか芽依がここまで残念な子だとは思わなかったぞ。


「それは電気ビームじゃなくて静電気と言うんだ」

「芽依はまだ魔力が足りないけど、そのうち近くにいる人なら倒せるようになると思うよ」

「倒せるか!」

俺は思いっ切りツッコんだが、芽依は本気で言っているようだ。


 芽依は不満そうにしていたが、

「わかった。じゃあ、とっておきのを見せるね」

と言い残し、再び部屋から出て行った。


 戻ってきた芽依は黒い服に黒いマント、そして黒い帽子をかぶり、手には30センチ程の黒い杖を持っている。

 これは魔法使いのコスプレか?

いつこんな衣装を手に入れたんだ?


更に電気コンロを持ち込んだかと思うと黒い土鍋まで運んできた。

その土鍋には得体の知れない液体が入っている。

色は濃い紫色で何やら気持ちの悪い臭いが鼻をつく。

これ絶対に毒だよな?


「さあ、これで準備オーケーだよ」

「このおぞましい液体は何だ?」

「黒魔術に使う材料だよ」

芽依は一輪の花が刺さっている空の牛乳瓶を出して言った。

「今からこの花を一瞬で枯らしてみせるね。勿論、手品じゃなくて黒魔術を使ってだよ」

「花を枯らしてみせるったって、その花は造花だぞ」

「この本に書いてあった通りにやるから大丈夫」

「いや、そういう問題じゃなくて‥‥」

芽依は俺の言葉など無視して『黒魔術入門』と書かれた一冊の本を見せた。


「この本、出版社も筆者名も書かれてないぞ。あからさまに怪しいじゃないか」

「芽依はそんな細かいことは気にしないんだよ」

そう言うと電気コンロの上に例の土鍋を置きスイッチを入れた。


 この毒っぽい液体を煮るのか?

「バカ、止めろ!」

俺が止めるのも聞かず、芽依は変な呪文を唱え出す。


やがて土鍋の液体が沸騰し始めると部屋は異臭に包まれ、目を開けることも息をすることも困難になってきた。予想通りでどうするんだよ!

 俺と小百合は慌てて部屋の窓を開ける。

 こんなことで死にたくはない。


「おい、この煙やばいぞ。芽依! 変なことは止めろ」

「芽依ちゃん。そんな鍋の近くにいて大丈夫なの?」

心配する俺達を背に芽依は、

「黒魔術に危険はつきもの。今度こそ芽依の威力を見せる時が来たのだよ」

この惨状の中、尻尾アクセサリー達は平気な顔で芽依を見つめている。

こいつら息をしてないのか? 

いやマリーが毎夜寝息を立てて寝ているのを考えるとそうでもないだろう。

では、この悪臭に耐えられるってことか? 


俺はあまりの臭いにしゃがみ込んで考えた。

部屋の下方はまだ異臭に侵されていない感じだ。

「いくよ!」

芽依はそう叫ぶと、造花を牛乳瓶から抜き土鍋の上に持って行った。


 するとみるみるうちに造花がしおれていくではないか。

本物の花だったのかと思うくらい見事に枯れてしまったのだ。

「やったよ。お兄ちゃん!」

「そんなバカな」

俺と小百合はお互い顔を見合わせた。

マリーはじっとこの様子を伺っている。


  その間にも土鍋から出る殺人的な悪臭はとどまることを知らず俺達を襲い続けた。

「もうわかったから電気コンロのスイッチを切ってもいいんじゃないか」

芽依は俺の言葉に反応しない。

「芽依、聞いてるのか?」

すると突然芽依が倒れた。あまりの悪臭に気を失ったらしい。


「大丈夫か?」

俺たちは心配して芽依のところに集まった。

幸い部屋の下層部は綺麗な空気が保たれていたため、芽依はすぐに目を開けた。

「もう大丈夫ね。でも、本当に造花が枯れるとは思わなかったわ」

小百合は必死で土鍋に蓋をしながら言った。

「偶然じゃないのか?」

「偶然で造花が枯れるなんてことあるの?」

「偶然なんかじゃないわ。この本に載っている材料や呪文は全て本物よ。ただ、この子では魔力がないから花を枯らすことはできないはずだけど‥‥」

マリーが俺達に説明を加えた。


「でも、花は本当に枯れたわ」

「これを枯らしたのは恐らくパパね」

「きゅぴぴー」

3号は慌ててベッドの下に潜った。

「問題はこの本よ」

「ん? どういうことだ?」

「この本は私達裏の世界から来た人が書いたものよ。勿論違法で。たぶんお金に困ったか何かでしょうね。こんな本を出版したなんてことがばれたら即強制連行で刑務所行きだから、筆者名も出版社も書けなかったのよ」 

意外な事実が判明したぞ。


「そんな人がいるんだ」

「ごくたまにね。そしてその人物は表の世界の住人のふりをして町を歩いてるの。私達の世界の公安局を気にしながらだけど」

「そんな人は昔からいるのか?」

「私達が研究を始める随分前からいるわね。何らかの特殊能力を持った人は私達の世界から来た可能性が強いの。例えばドラキュラとか狼男とか。証拠がないのではっきりとは言えないけど」

おいおい、これは大発見だぞ。


「でも、人間の姿でいると見つかるって言ってたわよね」

小百合がマリーに素朴な疑問をぶつける。

「私たちは裏の世界の許可を得て表の世界に来ているの。だから登録時に私たちから出る微量の魔力を公安局が把握しているの。つまり常に見張られているようなものね。でも違法侵入者は公安の許可を取っていないから見つからないことが多いのよ。ただ見つかったら最後ほぼ終身刑だけどね」

俺の知らないところで複雑な事情があるものだ。


「ねえ、マリーさん」

突然マリーに声をかけたのは芽依である。

「何?」

「芽依も黒魔術が使えるようになれるかな?」

「たぶん不可能じゃないと思うわ。黒魔術を正しく理解できたらだけど」

「ねえ、マリーさんて黒魔術が使えるんでしょ。芽依見てみたいな」

「こら~! 余計なことを言うんじゃない!」

俺は慌てて芽依を止めようとした。


「わかったわ。今日は特別だからね」

「マリー止めろ!」

マリーは俺の言葉など見事にスルーして呪文を唱え始めた。

そして部屋中に雷鳴が轟き渡ったかと思うと、予想通り鍋やらヤカンやらが降り始める。

「やっぱり」

俺と小百合はちゃぶ台の下に頭を入れて避難した。

「やったー、新しい土鍋ゲット」

降ってきた鍋をかぶって芽依は一人はしゃぐのであった。


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