第22話 芽依を何とせよ!
これは大問題が発生してしまった!
マリーの秘密を知られたということは芽依に口止めをする必要性ができたわけだ。
芽依は口が堅い方ではない。むしろ柔らかすぎると言ってもいいだろう。
「芽依。よく聞くんだ。今日ここで見たことは絶対誰にも話すんじゃないぞ。わかったな」
「うん、話さないよ」
駄目だ。この返事では確実に話しまくる。
「どうする?」
俺は小百合とマリーに問いかけた。
「催眠術で忘れさせるとか?」
「殺す!」
当然後者の意見はマリーである。
それにしても2人の意見は現実味がない。
「もっと真剣に考えろよ」
俺達3人は黙ってしまった。暫く沈黙の時間が続く。
「お兄ちゃん。何でみんな黙ってるの?」
「うるさい。お前には関係ないことだ」
思いっきり関係あるような気もするが。
「ねえ、芽依も仲間に入れてよ」
「駄目だ」
「何で~」
沈黙が続く中、芽依の声だけが部屋中に空しく響く。
「ねえ、どうして~ どうしてどうして~」
少しうっとうしく思い始めた時、突然小百合が口を開いた。
「芽依ちゃんて、魔術とか魔法って好き?」
「魔法はそうでもないけど、黒魔術と白魔術なら詳しいよ」
意外な言葉が芽依の口から飛び出した。黒魔術と白魔術なら詳しいだと?
「芽依、白魔術って何だ?」
俺は芽依に聞いた。
「黒魔術で呪われた時、それに対抗する魔術だよ。まだ研究中だけど白魔術って芽依好きだよ」
「やはりこいつは敵か」
マリーがぽつりと呟く。
「芽依ちゃん、黒魔術については熟知、じゃなくてよく知っているってことね?」
小百合はにっこり笑いながら言うと、
「まあ、そうかな?」
と芽依は照れながら答えた。
なぜそこで照れる?
「じゃあ、話が早いわ。実は私達黒魔術の活用法を研究しているの。芽依ちゃんも一緒にやらない」
「うわ~。やりた~い」
「でも、厳しい掟があるんだけど守れるかな?」
「掟って? あ、どうしても守らなければいけない決まりだね。はい、どんな掟も守ります」
芽依は敬礼して言った。
「では、一番大切な掟を言うわよ。絶対このことは人に知られてはいけないの」
「いかにも黒魔術っぽい掟だね」
「もし、誰かにこのことがばれたら今までやって来たことが水の泡になるばかりか、掟に従って私達全員闇に葬られることになるのよ」
「すごい! 本物の黒魔術だね」
芽依は目を輝かせて小百合を見つめている。
「じゃあ、芽依ちゃんも今から仲間ね。ああ、ついでに紹介するわ。この尻尾アクセサリーはマリーって言うの。今は悪い魔女によってこんな姿になってるけど、いつか本当の姿を見せてくれるはずよ」
「うわー、すご~い!」
「適当なこと言うんじゃないわよ!」
マリーは大声で叫んでいるが、どうやら小百合の見事な話術で俺達は危機を乗り越えることができたらしい。
「私が今回のプロジェクトの指揮を執るマリーよ。よろしく」
「ああ、思い出した。腹話術のマリーだ」
「数日前の記憶を思い出すのにどれだけ時間がかかるのよ?」
芽依はわくわくした目つきでマリーに顔を寄せると、
「マリーさんは黒魔術が使えるの?」
と聞いた。
「当たり前よ」
「それじゃ今まで何人呪い殺したの?」
芽依って初対面の相手でも何を言い出すかわからないな。
妹の新たな一面を見た気がするぞ。
「あなたは黒魔術を誤解しているようね。というか、この世界の人は昔から誤解しているみたいだけど」
「芽依も少しなら黒魔術が使えるよ」
突然の爆弾発言だった。
マリーのような異世界から来た者が使えるのならまだわかるが、同じ種族の人間が、しかも俺と血が繋がった妹が黒魔術など使えるわけがない。
俺は妹の勘違いを訂正すべく優しい口調で尋ねた。
「それで、どんな黒魔術が使えるんだ?」
「電気ビームを指から発射するのとか」
「嘘付け!」
俺は思わずツッコミを入れる。
「じゃあ、やってみせるよ。準備してくるからちょっと待ってて」
そう言うと芽依は部屋から出ていった。
いったい何をするつもりだ?
普通に考えて指から電気ビームって無理だろ?
わかってるのか芽依?
今更ながら妹に一抹の不安を感じる俺であった。