第18話 貴様ら許さん!
突然、小百合が顔に手を当てて泣き出した。
「四郎君ひどい! 二股かけてたのね。信じてたのに!」
なんで俺が突然マリーと付き合っていることになるんだ? わけがわからん。
「落ち着けよ小百合。俺が尻尾‥‥」
と言いかけて俺は慌てて口を閉じた。
下手なことを言うと呼吸困難に陥ることになりそうだ。
しかし、そんな俺の苦悩も知らぬ小百合は、
「私達、もう終わりね」
と言い、立ち上がった。冗談じゃない。
俺は慌てて小百合の腕を掴むと、
「いいか。命がけで言うからよく聞けよ。俺は尻尾アクセサリーのマリーより人間の小百合の方が好きだ!」
言い終わるのを待っていたかのように俺は呼吸困難に陥った。
床を転げまわり、もがき苦しむ俺を小百合は心配して必死に声をかける。
「四郎君、どうしたの? 大丈夫?」
かすれてゆく意識の中で、俺は壁の一部が黒い渦巻きに変わっていくのを見た。
渦巻きの中心は徐々に大きくなり、奥の方から可愛らしい少女がこちらに向かってくる。肩に掛からないショートヘア。大きく丸い目。背の高さは妹の芽依くらいだろうか。とてもキュートな仕草でこちらに向かっている。
この少女どこかで見たことがあるぞ。
そうだマリーだ。マリーが人間の姿になったというのか?
やがて目の前が真っ暗になると、俺は気を失いかけた。
「ただいま~」
『マリー、助けてくれ』と言いたいが声にならない。
マリーは小百合が一生懸命、俺を揺すっているのを見ると、
「え!? どうしたの?」
と大声を出した。
「急に苦しみだしたのよ」
マリーはじっと俺の様子を見ると、
「パパ、ママ、どういうことなの!?」
と怒鳴った。
鶴の一声で俺の苦しみはスーッと消え、何とか目を開けることができるようになった。
「よかった。もう、四郎君が死んじゃうかと思ったよ」
小百合はそういうと寝ころんだままの俺をぎゅっと抱きしめ涙を流した。
「ちょっと何してるのよ!」
マリーが怒りの叫びを上げた時、2号が追い打ちをかける。
「うあい」
「え? どういうこと?」
2号と3号が事の真相をマリーに話すと、
「貴様ら許さん!」
マリーの雄叫びと共に俺の体にいつもの倍ほどの電流が流れた。
俺に触れていた小百合も感電したらしく大きな悲鳴を上げている。
今までのこの電気はマリーの仕業だったのかとふと思う俺であった。
その夜、俺はなかなか寝付けなかった。
本気で心配してくれた小百合の態度。ほんわかと幸せだった昼間の会話。
小百合との仲が一層近付けたという気持ちが俺の脳を興奮させて眠れないのだろう。
マリーは機嫌を悪くしたままふて寝状態で俺の横で眠っている。
俺は何度も寝返りを打ち、ようやくうとうとと眠りかけた時、横に人の気配を感じ飛び起きた。
そこには黒い服を着た少女が寝ている。
その少女は今まで見た誰よりも可愛かった。整った顔立ちに透き通るような肌。どれを見ても超一流の美少女だ。
小百合が俺にとって美人系の頂点ならこの子は可愛い系の頂点と言えるだろう。
でも何故こんな所に女の子が突然現れたんだ?
肩まで届かないショートヘア。どこかで見たような。
暗くてよくはわからないが、今日の昼に黒い渦巻きの中で見た少女と似ている。
もしかしてマリー? まさかマリーが人間の姿になったというのだろうか。
信じられない。しかし目の前に可愛い少女がいるのは事実だ。
「マリーなのか?」
俺は思わず手を伸ばし少女の頬に触れようとした時、『ワオーン』という犬の遠吠えと共に俺の意識はなくなり深い眠りに陥ってしまった。