第15話 小百合の敗北?
マリーは落ち着いた声で条件とやらを話し始めた。
「まず1つ目は私のことをマリーと呼ぶこと。2つ目は私が指揮を執るから意見が分かれた時は私の意見を優先すること。そして最後に、四郎には一切手を出さないこと。以上よ」
「四郎君に手を出すなって私たちはもう付き合ってるのよ。今更手を出すなっておかしくない?」
小百合はややむっとした表情になった。
「それは私が現れるまでの話よ。これから四郎の気持ちはあなたから私に移っていくことがわからないの?」
「何よそれ!?」
小百合は大きな声をあげると今にもマリーに掴み掛りそうな体勢になった。
俺は慌ててマリーに話しかけた。
「マリー。やっぱりお前は俺のことが好きなんじゃないのか?」
これでマリーが否定すれば小百合へのアシストになる。何て頭がいいんだ俺。
「そうよ。私はあなたが大好きよ。愛してるわ。だから他の女に奪われたくないの」
え? 今なんと? ややツンデレのマリーが素直に自分の気持ちを言うわけがないのだが。どうなってるんだ?
「何言いだすのよ! 尻尾アクセサリーの分際で」
小百合の怒りが爆発する。
「この姿は仮の姿って言ってるでしょう。その気になればいつだって人間の姿に戻れるわよ」
何だ? マリーが人間の姿に? ちょっと想像できないのだが。
「へえ、だったらどうしてそんな不格好な姿をしているわけ?」
「裏の世界の住人が表の世界に来た時には、この姿でいることが義務付けられているのよ」
「義務付けられてる?」
「表の世界で人間の姿になっていたことがばれると、強制連行されて牢屋に入ることになるわ。まあ、私たちは大丈夫な気もするけど・・・・」
これを聞くと小百合はニヤリと笑った。
「要するにあなたを人間の格好にすればいいんだ」
何か最近の小百合を見ていると昔とは随分印象が変わってきているような気がしてならない。
結婚してしばらくすると女性は変わってくるという話も聞くが、これが小百合の本性なのだろうか?
「私が人間の姿になればあなたとは比べ物にならないくらい可愛いんだからね」
「ふーん。どうだか。自分で自分のことを可愛いと評価してる時点で終わってると思うけど?」
「何ですってー! わかったわよ。私の写真を見せてあげる」
そう言うとマリーは妙な呪文を唱えた。
すると空中に立体映像が現れ超可愛い女の子が映し出されたのである。
「どう? これが私の真の姿よ」
「こ、これって、嘘よね?」
俺は思わず言葉を失った。映し出された女の子は今まで見たこともない可愛い顔をしている。
おそらくアイドル歌手だと言われたら何の疑いもなく信じるだろう。
「これでも四郎が心移りしないと言い切れるわけ?」
「い、い、言い切れるわよ。いくら可愛くてもこの姿になれないんだったら意味ないじゃない」
やや焦りの表情になった小百合の体は小刻みに震えている。
「とにかく私の提案が不服なら帰ってちょうだい」
「四郎君は私と付き合ってるのよ!」
「あなたもいい加減頭悪いわね。好きな彼を奪われる危険を冒してまであなたを仲間に入れたくないの。わかる?」
「そ、それは‥‥」
「あなたが一切四郎に手を出さないと約束できないのなら、当然この話はなかったことになるわね。まあ、人手がほしいというのは正直あるわ。だからあなたが誓ってくれたらこのプロジェクトに参加してもらってもいいと思ってるけど。どうするの?」
マリーの余裕のコメントに小百合は俯きながら小さな声で答えた。
「わ、わかったわ。約束する」
なんと! あの小百合が言い負かされたのか?
こんな姿今まで見たことがないぞ。
小百合と言えば何でも無難にこなすスーパーガールのイメージしかないのに。
「私のことをマリーと呼ぶこと。私が指揮を執るから意見が分かれた時は私の意見を優先すること。四郎に手を出さないこと。いいわね」
マリーはもう一度念を押した。
小百合は下を向いたまま頷いていたが、いきなり顔を上げると、
「指揮は私が執った方がいいんじゃなくて? あなたが指揮を執って解決するのなら、もうとっくに解決しているはずでしょ?」
これが女の意地ってやつか? 凄い!
「今までは忙しかったからで、本腰を入れたらすぐ解決よ」
「この状況で本腰を入れてないなんて考えられないことね。私の方が頭良さそうだし、私が指揮を執るわ。いいでしょ?」
「何を言ってるの? どう見ても私の方が優秀でしょう?」
「そうかしら?」
と言うと小百合は俺の方を見た。
とても嫌な予感がする。
「ねえ、四郎君。私とマリー、どちらが頭いいと思う?」
予感的中だ。
こんなのどちらを選んでも後で地獄を見るに決まっている。
「どちらも同じくらいかなあ?」
「真剣に答えて!」
2人は声を揃えて叫んだ。
仲が悪いくせにどうしてこういう時は声が揃うんだ?
この後、俺はねちねちと2時間ほどいじめられるのであった。