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第12話 命がけの登校

 次の朝、俺はいつもより一時間早く起きた。マリーは泣き疲れたのかぐっすり寝ている。

「小百合との約束なんだ。悪いが今日は留守番してくれ」

と心の中で呟くと着替えと鞄を持ち、そっと一階へと降りた。

 俺は玄関を開け、左右そして上空をしっかりと確認してから外へ出る。どうやら中華鍋は落ちてきそうにない。


安堵の気持ちで二、三歩歩き出すと二階の窓から、

「あ~!」

というマリーの大きな声が聞こえてきた。

 俺がいないことがばれたか?


俺はとっさに路地裏に入り、そのまま細い道を進んだ。

マリーと一緒にいないから大丈夫だとは思うが、車が俺に向かって突っ込んでくる可能性は否定できない。

となると車が通れない細い道を行くのが賢明といえるだろう。


 暫くは何事もなく時間が過ぎていった。どうやら俺の作戦勝ちのようだ。

 だが、世の中そんなに甘くはないらしい。

突然、俺の目の前に何かが勢いよく降ってきた。

予想通り大きな中華鍋である。


「こんな重い物が頭に命中したら間違いなく死ぬぞ」

そう呟きながら上を向くと、また何かが俺に向かってくる。

ガラスのコップだ。更に大皿だ。フォークだ。金魚鉢だ。

 俺は慌てて先ほど降ってきた中華鍋を拾うと傘のように頭の上へと持ち上げた。


「何で俺の居場所がわかるんだ?」

と、独り言を言いながら俺は全速力で走りだす。

とにかくじっとしているのは危険だ。何が降ってくるかわかったものじゃない。


 いろいろな物が降りしきる中、俺は大通りへと向かった。

大通りに出れば変な物を降らすことなんてできないだろう。

こんな不思議な現象を多くの人に見られたら、たちまちニュースになってしまう。

その展開はマリーにとっては困るはずだ。


 そしていよいよ大通りという所で俺は急ブレーキをかける。

「待てよ、これは罠だ。俺を大通りに出させる罠だ。大通りに誘い出し自動車で仕留めるつもりなんだ」

先ほど降ってきた蛸が中華鍋から俺の顔に移動してきたので、俺はそれを掴むと地面に投げつけた。


「しかし、いくら嫉妬に燃えるマリーでも、俺を殺しはしないだろう。好きだとか何とか言ってたし。殺すつもりがないのなら一体何が目的なんだ?」

俺は少ない脳みそをフル回転させて考えた。

「そうか! 殺さなくても病院送りにすれば俺は学校に行けなくなる。これだ、真の目的はこれだったのか」

俺は向きを変えると今来た道を走り右折した。

かなり遠回りになるが車の通らない道ばかりを選ぶことにしよう。


 マリーのしつこい攻撃の中、俺は走った。

走って走って走り抜いた。ナイフだ。椅子だ。火炎瓶だ。機関銃だ。

「何か、降ってくるものが過激になってきたぞ」

しかし、もう学校は近い。タンスだ。グランドピアノだ。システムキッチンだ。

ここまでくると生きていられるのが不思議なくらいである。


 学校が見えた! 

人通りが多い場所に出ると流石に何も降ってこなくなった。

俺は息絶え絶えに正門前まで辿り着くと、心の中で叫んだ。

「よし、何とか生き抜いたぞ!」


俺がガッツポーズをした瞬間である。

前方から九十歳は超えているのではないかという老婆がセントバーナードを連れてこちらに向かってくるではないか。


「おい、冗談だろ? あんなよぼよぼのおばあさんがセントバーナードみたいな大型犬を散歩させるなよ!」

俺とセントバーナードの目があった瞬間バトルは開始された。

大型犬にとっておばあさんの手を振りほどくなどいとも簡単なことだ。


 俺は必死で校庭へと走った。走って走って走りまくった。

犬が追い付けないのだから、かなりのスピードが出ているのだろう。

そしてそれから約100週、距離にして20キロメートルほど走り続けてやっと俺は大型犬から解放された。


いつ俺の心臓が止まってもおかしくない状況だが、たった一つの収穫は犬が走り疲れて倒れる瞬間を初めて見たことである。

こんな光景そう見られるものではない。


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