ご飯にする? お風呂にする?
ご飯にする、お風呂にする~の亜種が書きたかった。
8月8日
レビュー感謝です! 今見たら評価も増えてる! ありがとうございます!!!
ご飯にする? お風呂にする?
「……それじゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
「……はあ」
唯奈は、自分の夫である壮太の姿が玄関の扉に消えると同時に、深く、ため息をついた。
唯奈は長年付き合っていた恋人と結婚したばかりの新婚さんである。
しかし、今、彼女の顔には先ほどまでの笑顔はなく、代わりに何処か憂うような表情だった。
待ち望んでいた新婚生活。同棲も始めてみた。それなのに、そんな表情になるのは一体何故か?
……夫婦の夜の営み……ハッキリ言うとヤってないのだ。
確かに、夫は最近仕事が忙しくてする余裕が無いのは分かっている。
でも、彼には悪いことだが、少しだけ疑ってしまう。
「浮気……してないよね?」
口に出してみると、キュッと胸が痛んだ。
分かっている。壮太が結婚して何か月かで浮気をするような人物ではないということを。いや、そもそも浮気なんて考えなど端から持ち合わせていないだろう。
だけど、やっぱり、ちょっとだけ不安だった。あとちょっとだけムラムラとしてた。
「……そうだ!」
そこで唯奈はあることを思いついた。
「うん。これなら、イケる。うん。ヨシ!」
悲痛そうな表情は嘘みたいに消え去り、唯奈も仕事へ行く支度を始めた。
「今日は早めに帰ろう」
◇
唯奈が何かを企てたその夜。
「はあ」
壮太はため息をついた。けれども、その割には表情は明るいし、家へと向かうその足取りは軽い。
遂に最愛の恋人とひとつ屋根の下で暮らしているというのもあるが、それは同棲してから毎日のことだ。
やっと自身の仕事がひと段落したのだ。
「ふう~、ただいまぁ」
壮太がルンルン気分で家の扉を開けると───
「あ、先帰ってたのか」
───エプロン姿の唯奈が仁王立ちしていた。
「ん? どうした?」
壮太は仁王立ちのまま動かない唯奈に話しかける。
すると、唯奈は目を閉じ、深呼吸して、言った。
「ご、ご飯にする?」
どもりながら。
「お風呂にしゅる?」
嚙みながら。
なるほど、アレね、と壮太は思った。
うちの嫁めっちゃ可愛い、とも思いながら。
「それとも───」
壮太は唯奈が言い終わる前に、両手を広げ、にっこり笑った。
「俺にする?」
「する!!!!!!!」
唯奈は待ってましたと言わんばかりに壮太に飛びついた。