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群馬と青森

倉賀野駅で高崎線を降りる小岩剣。

10時45分に到着した快速列車。

籠原からはドア横のボタンを押して降りる。

小岩剣もそれは知っていることだったので、スーツ姿でボタンを押して、ドアを開けて降りる。

改札へ向かおうとすると、直ぐに、熊谷貨物ターミナルで追い越した、福岡発―倉賀野貨物ターミナル行き貨物列車が倉賀野駅に入線してきた。

新鶴見機関区のEF210が、牽引してきたコンテナ車から切り離され、代わりに、列車の反対側にHD300ハイブリッド機関車が連結される。

改札口を抜ける時、EF210は高崎機関区へ。牽引してきたコンテナ車は、ディーゼル機関車DE10に牽引され、倉賀野駅から数キロ程離れた操車場へ向かっていった。

倉賀野駅の駅舎の隣りの事務所。

ここに用があって来た。

就活である。

鉄道会社への就職を目指していたのだが、大手私鉄に関しては、鉄道会社を名乗っておきながら鉄道の経営はしないという物、鉄道会社を名乗っておきながら鉄道事業は子会社へ分社化したと言う物ばかり。

後者のような会社は受験したが、尽く落とされた。

江ノ島電鉄、秩父鉄道等の地方私鉄も受けたのだが、こちらも尽く落とされた。

JR各社に関しては、1社を除き、受ける気にすらならなかった。

唯一受けたJR貨物も、最終選考で落ちた。

そして、その伝手で受けに来たのが、倉賀野を拠点にするJR貨物の子会社だった。

(ダメで元からだ。)と、思いながら、事務所の扉を開き、挨拶。人事部と採用担当の者と会い、会社概要を聞く。

そして、そのままの流れで面接開始。

書類選考とSPIは経ているし、健康診断も受けている。ここまでは上手く行っているのだが、面接で落ちてばかりだった。

1時間に渡る面接の末、1週間程度の後、合否の連絡をするということで終了だ。

面接が終わると、小岩剣は高崎へ行く。

理由はない。

ただ、白衣大観音に行こうと思っただけだ。

高崎機関区を通過し、入換中のDE10と客車の姿を横目に、高崎駅に入線。

駅のホームの立ち食いそば屋で軽い昼食を取っていると、中線になぜか、D51‐498が単機で入線してきた。

そして、またすぐに高崎機関区の方へ戻っていくのを見送りながら、改札口に向かう。

改札を抜け、バスに乗り、白衣観音前で下車。

境内に入り、坂を登って行く。

慈眼院に参拝し、観音様の前に行く。

そして、胎内に入り、最上階に来たところで、携帯が鳴った。

「やあ。」

「三条さん?」

電話の相手は三条神流だった。

「―?あれ?三条さん今、どちらに?列車の音が聞こえますが―。」

「あっ。ああ、ちょっとな―。」

三条神流が言った時、車内放送の音声が聞こえた。

「まもなく終点、三厩です。」

それを聞いて、小岩剣は胸が締め付けられるように感じた。

「三条さん。どうして、私の故郷に―。」

「ああ。お前の故郷だったな。」

「一応、故郷ではあります。それから、列車を降りてから電話してください。」

「もう着いた。三厩にね。」

「どちらへ?龍飛岬ですか?」

「いや、折り返す列車で、蟹田へ引き返す。」

「そう、ですか。」

とことこと歩いている足音が聞こえる。

だが、改札口でやり取りをする声は無く、ただ、駅の周囲をウロウロしている感じだった。

(三厩駅は無人駅になってしまった。)

小岩剣は知っていたが、電話の向こうの様子からも、それを実感する。

そして、駅のホームを歩いていると思われた時、奇妙な違和感を感じた。

気動車のアイドリング音が聞こえなかったのだ。

(おかしいな。キハ40系なら、聞こえるんだけど。)

と思いながらも、小岩剣は、以前、ネットで見たハイブリッド気動車の記事を思い出し、嫌な予感がした。

「あの、三条さん。可能でしたら、三厩駅に停車中の列車の写真、今、送っていただけないでしょうか?」

「ああ。分かった。一旦、電話切る。後で、折り返せ。」

三条神流は電話を切った。

そして、5分程度して、小岩剣が白衣大観音の胎内から出た時、三条神流から、三厩駅に停車中の列車の写真が、三厩駅の様子と一緒に送られてきた。

「ああっ―。」

小岩剣は、絶句する。

嫌な予感が的中したからだ。

そして、「やはり。ありがとうございます。」とだけ返信した。


三条神流と松田彩香は、あまりにそっけない返事に首を傾げながら、列車を乗り継ぎ、青森駅に戻る。

「あいつ、何があったのかな?」

と、三条神流。

かつて、高崎駅で上野から青森行きの夜行列車に乗っている小岩剣を見送った時、小岩剣に言った事を思い出す。

だが、三条神流自身がされた事。

それに関しては、想定していなかった。

だから自分は鬱になり、未だ爆弾を抱えている。

「今夜は、浅虫温泉に泊まる。もう向かうとこだけどその前に、小腹減った。ホームのスタンドで軽く。」

「浅虫温泉の晩飯がー」

「いなり寿司なら食えるだろ?それにー。」

「ああ、そう言う事ね。私達、推理小説の世界にいるのやら。」

「もし気に触るなら、浅虫温泉で、レイプしようが、好きにしていい。分かってんだろ?俺は今、小岩剣の傷と、奴に何があったかを探る事で、鬱気味な事や爆薬が起爆しないようにしているって。あいつの傷を爆弾処理に使っているって。」

「最低ね。」

松田彩香、冷たい目を向ける。

青森駅に降りる。

「分かってる。こんな事して、あいつに何があって、過去の傷弄んで、目的のためなら手段を選ばないのはー。今の目的はー。」

「何?」

「最低だよ。爆弾処理だ。そのためにあいつの傷をな。かえって、俺の中の傷や爆弾がー。」

「もし、私と小岩君を天秤にかける場面に出会したら、どちらを取る?」

「ー。」

「選べないでしょう。」

松田彩香は冷たく言った。

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