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皮肉な再会

(おもしろそうだから、隙を見て俺もあっち行こうかなぁ。)

と、小岩剣は対岸道路を走るZD8型BRZとBMWの姿を見て思い、神戸駅の入口あたりで国道を離れ、渡良瀬川を渡ると、国道122号の対岸の道に出ると前に、黒いBMWと、紺色のBRZの姿を見つけた。

BRZとBMWは、草木ダム手前の集落を徐行で走り、集落を抜け、草木ダムを登る道に出る。

ここは2車線ある。

望月が並列して止まる。

三条神流も「分かった」とその横へ。

両者、2、3発空吹かしした後、レーシングスタート。

ロケットのように加速する2台を、小岩剣は追う。

(三条さんはスポーツカー好きの端くれで、望月さんは金持ちの道楽坊で、俺とくりゃ貧乏商人って構図かな?)

と、小岩剣は思う。

小岩剣もバトルに加わろうとしたが、ZD8型BRZとBMW Z4相手にN-ONEで敵うはずもなく、草木ダムを登り切ったところで、小岩剣の姿は見えなくなる。

BRZとBMWはそのまま、草木橋までバトルをした後、勝ったのはBRZと言う結果に終わり、草木ドライブインに入る。

スポ車やヤンチャな車の中に混じって、未だノーマルのN‐ONEが居ると言う構図に、小岩剣自身、恥ずかしくなった。

(せめて、見てくれだけでも何か弄って、この中にいても浮かない車にしたいなぁ。)

と思ったが、今ここに、N-ONE乗りの先輩である、加賀美の姿は無い。

霧降が、

「これ、N‐ONEのカスタムパーツのカタログ。」

と、カタログを渡す。

「それを参考に、何を弄りたいか、どうしたいかを決めるといい。」

「けっ霧降め。またマルシェの客とっ捕まえるってのかよ。気が早いやつだなぁ。」

三条神流が苦笑いしながら言い、

「まっ、何をどうするかはお前が決めていくことだからよ。青葉さんのBRZのようなカラフルな痛車にしても良いし、望月のようなヤンキー車にしてもいいし、俺やアヤみたいに、ザッ走り屋見たいな車にしてもいい。まぁN‐ONEでザッ走り屋やると、ダセぇ言われるかもしれないがな。良い例は、TRXだよ。」

と言った。

舞茸の直売所だった建て屋の前に車を止めている。

そうすることで、屯する走り屋や車好きが、売店に立ち寄る観光客の邪魔にならないように配慮しているのだ。

そして、道の駅の建物の中を占領することは、食事するとき以外は無く、基本、車の近くで屯するし、表の売店や饅頭屋さんで、よもぎまんじゅうやソフトクリームや、瓶コーラを買って、道の駅に金を落とす。

いくら、車好きに開放的な道の駅とは言え、これくらいの最低限のマナーを守る事は大切だ。

小岩剣は、自販機で濃いお茶を買い、売店で、バラ売りのよもぎまんじゅうを買おうとする。

売店に並び、レジでバラ売りのよもぎまんじゅうを買っていた時、チビッ子が小岩剣にぶつかって、小岩剣が持っていたお茶を落とした。

「っとっと。邪魔なところに並んでいたかな。」

と、小岩剣は言いながら、お茶を拾おうとして、その子の母親がお茶を拾った。

「ごめんなさい娘が―。」

と、チビっ子の母親が言う。

「あっどうも―。」

受け取った時だった。

「姉さん―。」

「えっ―。」

目の前に居たのは、松江ニセコだったのだ。

「ガシャコン!」と、自販機から瓶コーラを取り出し、栓抜きで栓を空けた三条神流も、それを横目で見る。

「あいつ、人妻にナンパされてら。」

三条神流は言いながらコーラを飲む。

「でも、上手くいっていないのか、と言うか、なんか変だね。」

松田彩香もファンタグレープを飲みながら言う。

小岩剣はどうしようかと言う状態で、松江ニセコもどうしようと黙り込んでいる。

「あっパパー!」

と、チビっ子が言うと、ニセコが我に帰った。

「どうしたん?」

と、ニセコの旦那が言う。

「あの、青森であった例の弟君だよ。」

「ああーっ!」

ニセコの旦那が、ニセコに言われて言うと、

「こんにちは弟君。元気にしてた?」

と、小岩剣に言う。

「いえ。とても元気とは言い難いですね。」

小岩剣は暗い顔で表に出ようと歩き出す。

「おまけしてもらってスミマセン。」

「イヤイヤ。あの新入り君に食わせてやりな。」

霧降がくるみ焼きまんじゅう屋のおじちゃんと話している。

「おいつるぎ。これ食えよ。旨いぜ。」

「結構です。」

「あっおい―。」

霧降を無視して表に出て行ってしまった。

三条神流と松田彩香も、様子が変だと気付いて、コーラとファンタを一気に飲むと、それを追った。

「裏に回ったな。」

と、三条神流は言いながら、建物の裏手の寝釈迦に向かった。

そして、案の定、そこに、小岩剣の姿があった。

夏草が生い茂り、傍らには大きな蜘蛛の巣もある中、小岩剣はそれを掻き分け、蜘蛛の巣を壊しながら、建て屋の裏手に回る。

コンクリート製の蓮華台が見えた。

横の階段に腰を掛ける。寝釈迦の隣り。

小岩剣は真夏の熱い陽射しの下で、涙を流しかける。

(涙より、汗ばかり出るな。)

と、思いながら、お茶を飲む。

(なんで、なんで今、再会するんだ。なんで?なんでだ!?)

「わっ!」

霧降が悲鳴を挙げた。

「相変わらず嫌いか?喰らえよ。」

「お前等二人マジで殺すからな!お前等それ以上近付いてみろ!お前いい加減にしろお前!ほんと、いい加減にしろ!マジでいい加減にしろ!いい加減にしろって言ってんだろ!殺すぞテメェら!いい加減にしろってんだよゴルァ!!お前等いい加減にしろ!お前等二人マジきめえんだよ!!お前ぶっ殺すぞ!!死んじまえ!死んじまえお前等二人よぉ!!」

三条神流がゲラゲラ笑い、松田彩香も加わって笑い転げ、霧降要は本気でキレている。

「あっ―。」

小岩剣は慌てて、溢れそうになった涙を拭い立ち上がる。

「けっこのグラサンバカ、こんな面してて虫嫌いなんだぜ。特に蜘蛛がよ。」

三条神流の腕から、コガネグモがぶら下がる。

「お前が巣壊すから、こうなってたんだよ。」

と、小岩剣に言いながら、三条神流は適当な場所にコガネグモを放してやる。

「ついでにコーヒーでも飲ませたれよそのクモに。」

霧降が言うが、

「止めろ。酔っ払っちまってまともに巣を作れなくなるよ。」

と、三条神流が止める。

「生まれ変わったら、俺は蜘蛛になりてえんさ。綺麗な糸を出して巣をかけ、網にかかった虫を食べ、風景の中に溶け込む。そんな風に生きてみたい。」

「でも、私がメスの蜘蛛になったら、オス蜘蛛は食い殺される運命だぞ。」

「知ってるよ。でも、運命には抗わねえ。」

松田彩香も三条神流と同じく、蜘蛛に生まれ変わりたいらしい。

「あーあっ俺は蜘蛛の夫婦の相手は嫌だ。先に戻るから。」

「あっそ。あっ霧降の頭にデッカイオニグモ!」

「わぁーーーーーーっ!!!!」

「嘘だよ。こんな真っ昼間に、オニグモなんか出てくるもんか。」

「テメエ。BRZパンクさせんぞ。」

「器物損壊で捕まってもいいならどうぞ。」

霧降は出て行ってしまう。

「見られてしまいましたね。」

と、小岩剣。

「何がだ?」

「えっと、その、姉さんと会った所を。」

おおよその見当は付いている三条神流と松田彩香。だが、敢えて何も言わないで、小岩剣に言わせることにした。

「姉さんと、修学旅行のときに再会して、青森で何度か会って、その時、「姉さん。「記憶が無いなら、また新しい記憶を作っていこう。昔から私達は姉と弟のようなものだった。将来は一緒になるんだ。」「将来の心配したって始まらない!「日本海」無くなっても「あけぼの」無くなっても、どうなるかは分らない。でも、「ココロノツバサ」って物を信じろ!列車のヘットマークに描かれたツバサは、必ず、また私たちを巡り合わせる!どんな姿になってでも、会える!」って―。でも、結局、信じた結果―。だったら、姉さんとなんか、再会しなければよかった。会えなくなるのなら、関係も消えちまうのなら―。俺、鉄道員になって、姉さんの婿になりたかった。でも、こうなるのなら―。」

「バカだな。」

と、三条神流。

「大バカすぎて、呆れて物も言えねえ。」

「ええ。バカです。自分は。大馬鹿野郎です。」

「違うね。そういう意味じゃねえ。」

「どういう意味で―。自分が、早くそれに気付けば良かったって事ですか?確かに、自分がそれに気付けば、姉さんも、自分を取るか、今の旦那を取るかで悩まなかったでしょうし―。」

「俺が言いてえのは、テメエで言い出した「ココロノツバサ」って物をテメエで否定しているのが、バカじゃねえのかって言いてえんだ。だったら、俺だって、長野で酷使されるだけ酷使され、搾取され続け、骨になるまで吸い尽くされて、抜け空にされ、何もなくなったら捨てられて死んでいるさ。こんな風にな。」

三条神流は服の上から血を吸おうとしていた蚊をつまんで、先ほど放してやったコガネグモに与えた。

まだ作っている最中の巣に引っ掛け、コガネグモは早速、蚊をクルクルと糸で巻き上げ喰い初めた。

「俺達群馬人は、お前とは別系統ではあるがココロノツバサという物を持って生まれている。お前の場合は列車のヘットマークと、姉さんとやらの関係から着想を得たのだが、俺達群馬人のココロノツバサは、そう簡単に折れない。それに気付かせてくれたのは、お前だ。」

「―。何のことか解りません。」

「とにもかくにも、こんなところでいじけてんな。熱中症で死ぬぞ。」

売店の前に戻る。セミの大合唱の合間を縫うように、車の音が聞こえる。

「吾妻のエスロク変態めバカだ!こんなクソ暑い中、オープンで来やがったぞ!」

と、ADMのメンバーが言っている。

「久しぶり。」

と、松江ニセコが言う。

「私は今、東京に住んでる。旦那と一緒に。」

「―。」

「つるぎは今、どうしているの?」

小岩剣は黙って、自分のN‐ONEを指差し、

「あれに乗っている。」

と言った。

「へえ。でも、止める場所ちょっと考えなよ。周り暴走族じゃん。暴走族の仲間に思われるよ?」

(なんだと!?)

と、聞いていた霧降と三条神流が怒りの眼光で睨む。

小岩剣もムカっと来たらしい。

「俺のココロノツバサがそうしろって言うからね。」

と、小岩剣はぶっきらぼうに言った。

「まさか、暴走族の仲間ってわけ?ええーっ電車一本でずっと生きると思ったのにぃ。」

(誰のせいでこうなったと思ってんだバカ姉貴!)

小岩剣は怒りを覚えて来た。

なぜ、自分はこんな奴に懸想するあまり、何もかも無くしてしまったと思ったのかと、自分への怒りが強い。

「この後、日光東照宮に行くんだぁ。一緒に来ない?」

と、ニセコが言う。

「いや。行く予定にない。赤城勢は赤城山に行くのでね。」

冷たく、小岩剣は言い放った。

10分くらいして、ニセコ一家のプリウスが、日光東照宮方面へ向かって出発して行くのを、小岩剣は見送る。

出て行き際、小岩剣はニセコ一家のプリウスに向かって中指を立て、

「二度と会うものか。馬鹿野郎。群馬で出来た仲間を暴走族呼ばわりしやがって。次会ったら、その面切り刻んでくれる。」

と、吐き捨てた。

その横で、小石が飛んで来て路上に落ちた。

「おい危ねえよ!」と怒鳴り声。

投げたのは三条神流だった。

怒った三条神流は、ニセコ一家のプリウスに何かしてやらなければ収まりが付かず、思わず小石をぶん投げたが、危なく別の車に命中しかけて怒鳴られたのだ。

「えっ。ええっとー。」

小岩剣は、三条神流に怒鳴った人に声をかけてみる。

「あぁ。はじめましてだったな。カンナとアヤからたまに話聞いていた、小岩剣ってのは君か?」

「ええ。はじめまして。」

「俺はナガト。その、青いインプレッサWRX STIグループR4に乗っている。」

何か分からぬ小岩剣。

「SUBARUが、インターコンチネンタル・ラリー・チャレンジのために製作した、インプレッサWRX STIセダンのレースカー版だ。」

と、三条神流に教えられるも、STIすら分からぬ。

だが、そのインプレッサのフロントには大型のフォグランプが付いている等、ノーマルとは明らかに異なる点が多々あるのは、素人から見ても分かった。

更にその両脇には、大型のフォグランプやら、エアロパーツやらで武装し、ラリー仕様となっているGRヤリスとGRカローラ。

GRカローラはネルソン。

GRヤリスはロドニー。

と、彼らも自己紹介。

「俺達は両毛連合から派生したラリー仲間のようなものさ。群馬サイクルスポーツセンターや浅間2000をメインに、ラリーをやっている。と言っても、JRCAのような本格的なラリーには出ていなくて、峠道でヤンチャするのにラリーテクニックを加える程度なんだけど、地方戦には偶に出場している。」

と、ロドニーは言う。

「自分は、群馬に住み、三条さん達から車の事を勉強して、まずはみなさんと一緒に走れるよう、努力します。」

と、小岩剣は言った。

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