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いつもの日常

変な時間にうなされた小岩剣は二度寝したが、二度寝して起きた時間は午前6時。

カプセルからモゾモゾと抜け出て、入浴施設に向かう。

(贅沢に、朝風呂をキメてやる。)

と、小岩剣は思いながら、風呂に入る。

(やっぱり、カプセルホテルが寝台列車に似ていたから、懐かしさのあまり、「あけぼの」の夢見ちまったんだろうな。姉さん。元気かなぁ。会いたいなぁ。)

と、溜め息をついた。

以前は、小学校教師の虐待のトラウマにうなされていたのだが、今は、それは無くなった。だが、松江ニセコや青森が変化してしまったら、今度は、変化に対処出来ず、変化する前の青森やニセコを求めるようになってしまって、それがトラウマの原因になっていた。

(結局、トラウマトラウマ。そればかりだ。姉さんに会いたい。)

と、小岩剣は溜め息をつきながら、入浴施設を出発する。そして、このときに気付いた。

今日は草木ドライブインで、三条神流と松田彩香と合流するまでは単独行動なのだと。

(まずった。朝メシ―。)

と、国道50号を走りながら思うと、ちょうどいいところにファストフード店があったので、そこに入る。

だが、小岩剣は朝、あまり食べない体質で、朝、大量に食べると腹を下す事が多いので、質素な物で済ませてしまう。

食べ終え、再び走り出す。

(放浪の末、群馬に流れ着いたような恰好だけど、やっぱり、昨日、一瞬思った通り、群馬で生きるのも有りだなぁ。旧友もいないし。三奈美だって長野に行ったきりだし。)

小岩剣は、高校時代の友人である三奈美つばさを思い出した。

彼は、長野電鉄へ行った際、長野に転校した中学時代の同級生と再会し、彼女と一緒に居るために、長野の信州善光寺大学へ進学してしまった。

彼は何になるのだろうか?

「あいつら、どうせ俺は、姉さんとくっつくんで、青森か大阪に行くとでも思ってんだろうな。まさか、群馬とは思わんだろう。群馬で生きていく内に、姉さんのことも消えてしまう。どうせ、姉さんにすらもう、会わねえと思うし。今日の帰り掛けにでも、内定受託の連絡してやる。不動産情報も、車の事も、あらゆる情報も伝手も確保出来る見込みもあるし。怖いもの知らずだ。」

と言いながら、ラジオをかける。

「おはようございます!FMぐんま ワイワイグルービング!さてぇ、ラジオネームあややさんから。「彼氏の後輩君が、群馬県の鉄道会社に就職するため埼玉から群馬へ引っ越す事が決まるようです。群馬へ来る彼氏の後輩君へ一言、エールをお願いします。」おおーっ。お隣さんから引っ越してくるわけですねぇ。「後輩君!群馬で待ってます!」」

自分のことだと、小岩剣は思った。

(松田さんだ。きっと。)

件の、松田彩香は下着姿でベッドから起き上がりながら、そのラジオを聞いていた。

「つるぎ君のアパート決める時、一緒に行って、ウチらの物件も探そっか?」

同じく、下着姿の三条神流も起き上がるが、やはり、まだ過去のトラウマで、将来的な話になると警戒してしまう。

(分かってはいる。でも、将来の話になると、美穂の件が―。)

三条神流は自分の心臓の鼓動が早まって、呼吸が苦しくなっているのを実感した。

ぜぇぜぇ言いそうになった三条神流。

歯を磨き、モンダミンで洗浄してどうにか落ち着く。

「望月んとこで?俺、あまり、周りに知られ―」

「もう、霧降艦隊やADMでも赤城サンダーバーズでも、知れ渡っているのに、今更隠さなくてもいいんじゃない?」

「そりゃ、そうだけど―。」

三条神流が周りに知られたくない理由は、恥ずかしいからと言うより、こちらもトラウマである。

南条美穂が三条神流と付き合い始めた時、南条美穂は将来のことを周囲に言いふらしていた。

そうすることで、南条美穂は三条神流の外堀を埋めて行き、三条神流が自分から逃れられないように、追い込んで行った。なので、松田彩香との仲が周囲に知られると、同じように、自分が無防備になって、逃れる事が出来なくなると思っていた。

自分の服を着る間、またもトラウマから息が苦しくなる。

「ちっ―。」

松田彩香はしびれを切らし、強引に出ることにした。

「嫌なら、避けろよ。」

「えっ―。」

三条神流は考える間も無い。

サバゲーの時にスナイパーライフルで、脳天を撃ち抜かれたような衝撃を感じたように思った。

目の前にある松田彩香の顔と、唇に振れる感触と、僅かに感じる、ディーゼル機関車のアイドリングのような息使いに、三条神流も目を瞑り、彼女を受け入れる。

勢い余って、波形自動連結器に激突するように、唇を合わせて来た松田彩香だが、直ぐに勢いを止めてからは、押し付けられるような事はない。

数分の後、離れた。

「あっ―。」と、三条神流は一瞬、上目遣いになり、妙に寂し気な顔を浮かべた。

松田彩香は離れたものの、まだ顔と身体は近い場所にある。碓氷峠を下って来た列車を切り離したEF63電気機関車が、放熱のため、それまで連結いた列車のすぐ近くで停車して放熱しているように。

「こんなこと―。俺―。」

「拒絶する?でも、カンナの方からは止めてくれとは言われていないよ?」

「―。」

「カンナの内心と、上っ面。どちらを信じればいいのかな。」

ラブホを出る。

三条神流が身体に火照りを覚える。

松田彩香のGR86と三条神流のZD8型BRZに燃料を満載すると、らぁめん城ヶ崎に停車。腹拵えをしたら、草木に行くいつもの休みの日だ。

ワムから、川を渡って足利のラブホに行った三条神流と松田彩香。

先程の事が、まだ頭にある三条神流だが、両毛線で訓練運転中のD51‐498牽引のSL列車と遭遇してそれが少し薄まった。D51と旧型客車1両、それから、EF65-501という編成だった。

群馬では、何の情報も無くとも、珍しい列車に遭遇することも多い。

(最も、GV‐E197系が出張って来たら、終わるだろうな。)

と、思いながら、前を行く松田彩香のGR86に視線を向ける。

(美穂とは、抱き合ったけどキスまではしなかったな。松田とは、一緒に風呂入る事も、下着で同衾する事も多々あるのに。でも、興奮しなかった。なのに、さっきは、かなりドキドキしたな。)

2台揃って、ガソリンスタンドに入る。 

セルフスタンドで、三条神流も松田彩香も札を機械に入れる。

三条神流は5千円札。

松田彩香は1万円札。

入れ終わると釣り銭を受け取るのだが、最近は、釣り銭を受け取るために、わざわざレシートに付随する釣り銭引替え券を持って、少し離れた釣り銭機に行き、それに、釣り銭引替え券のバーコードを読み取らせて、釣り銭を受け取るスタイルのセルフスタンドが多い。

だが、三条神流はこれに不満を持っていた。

レシートは要らないと選択しても、必然的に、釣り銭引替え券を貰うハメになるので、ゴミが出る。おまけに、釣り銭機まで歩いて行くハメになるので手間がかかる。

混雑しているタイミングでこんな手間をかけていたら、大迷惑だ。

三条神流は先日、このタイプのスタンドで横着して、千円札一枚だけ突っ込んで、釣り銭のやり取りをしないで給油を終えたのだが、そのために十分な燃料が入っておらず、ガス欠を起こして立ち往生して松田彩香に殴られたのだが、三条神流の不満は松田彩香も同じだった。

だが、松田彩香はそれをいいことに、三条神流を弄る。

スタンドの規模に対して、1台しかない釣り銭機から釣り銭を受け取る三条神流の尻を撫でて、三条神流が変な声を出してひっくり返るのを、ゲラゲラ笑い、三条神流は背後から腹に手を回して弄り返す。

ただのいちゃ付き合いだが、確かに、三条神流はこの時間が楽しい。

それだけに、下手なことをして、これが壊れてしまうのが怖いのだ。

大間々の行きつけのラーメン屋に着くと、ADMのメンバーに赤城サンダーバーズのメンバーの一部。そして、5分ほど遅れて、小岩剣が姿を見せた。

「よかった。あってた。」

と、小岩剣は肩を降す。

「なんだぃ。わざわざ降りて来なくても、草木で飯食って待ってても、足尾まで行って、かじかで温泉入って来ても良かったのに。」

と、三条神流。

小岩剣は草木ドライブインまで先行してしまったのだが、ほとんどのメンバーは大間々のラーメン屋でラーメンを食べてから行くと言うので、小岩剣は大慌てで、そのラーメン屋へ向かうことにしたのだ。

集合時間はギリギリだ。

(やっぱり、一人で居るのはまだキツイらしい。)

と、思った。まだ、草木ドライブインには誰も居なかったが、大間々へ向かう間に、ダンゴムシのような車と、2人乗りの少しカクカクした小さなオープンカーとすれ違った。車種は分からぬが、同じHONDA車だった。

(群馬って、SUBARUとHONDAが幅を利かせているのかな?)

と、小岩剣は首をかしげながら、ラーメン屋でなんとか三条神流と合流した。

店主が出てきて幟と暖簾を出す。

「おっす店長。今日は、お初の奴連れてきたッスよ。」

「ありがとよ。んじゃ、お初の君にはチャーシュー1枚サービスだ。」

食券を買う。

「えっと―。」

小岩剣は限定ラーメンにするか、普通のラーメンにするか迷う。

「普通のにしろ最初は。」

と、三条神流に教えてもらい、その通りにする。

見た目は油こい様子のラーメンだが、意外にもあっさりしている。

チャーシューやメンマも味がしっかりと染みているので美味い。

(なるほど。ここの店主もオタクなのか。)

と、小岩剣。

店内はアニソンや音ゲの曲が流れている。

「地方の大衆食堂って、大抵がラジオ流しているのですが、ここはそれがなく、かえってこの雰囲気で安心するような気がします。」

小岩剣が言うと、三条神流と松田彩香は激しく同意した。

「タクシーの車内の楽しみって言ったら、ラジオだけだもんなぁ。FMぐんまに曲リクエストしても、通ると限らないしなぁ。」

「マルシェはどうせ、ホットバージョンかビデオオプション流してるだけだろ?」

「だけとはなんだ失礼な。偶に、ビデオオプションのバカ企画流しているよ。」

「どうせサッカーだろ?」

一気に平らげると、腹が膨れて破裂しそうだ。

「これで、腹ごなしに草木に行くのが俺達の定番コース。んで、草木で饅頭とお茶キメて、時間があったら赤城上がるし、無ければ帰るし、適当ってわけ。」

霧降要が言う。

「じゃっ草木行くか。お前も適当に無理せず来いよ。俺、トイレ。」

と、三条神流が言いながらトイレに向かった。

別の駐車場に止めていたメンバー達に混じって、小岩剣も出発。

前を走るのは、ADM所属のBRZ。

ADMにしろ、赤城サンダーバーズにしろ、BRZが所属車両の半数を占め、そのほとんどは青色である。

そして、その先頭に目をやると、松田彩香の赤いGR86がいた。

(やっぱり、EF81が牽引するブルトレ見たいだなこうしてみると。)

と、小岩剣は思う。

しかし、同じ青いBRZでも、ボンネットが黒い物もあれば、アニメキャラが描かれたカラフルな痛車も混ざっているのだから、おもしろい。

ふと、対岸に目をやると、三条神流のZD8型BRZと望月光男のBMWの姿があった。

彼等は渡良瀬川を挟んだ対岸の道を走っている。

こちらの方が、交通量は少ない上、景色もいいらしい。

その、対岸道路で三条神流と望月光男はBRZとBMWの模擬バトルをやっていた。

「不動産屋!小岩の後でガレージハウス紹介しろ!」

と、三条神流は言いながら、BRZから砂塵を巻き上げる。

「2LDKの2台収容可能なやつがあるぜ城南に!」

BMWのリアタイヤを流しながら、望月が答える。

パラボラアンテナのあるT字路。

三条神流、一瞬サイドを引くとそのままドリフト体制。

砂や砂利が多くて、滑るこのT字をドリフトで左折。望月のBMWも続く。

「ー!?徐行予告!」

三条神流、望月に徐行指示。

この先のS字の舗装が剥がされているのだ。

舗装が剥がされている区間を徐行して通過した後、また、バトル再会。

BMWが並びかけるも、三条神流のBRZがラインを撹乱。望月、走行ラインを見失い失速。

「こっちは、信号無いし、10キロ以上出せない爺のボンクラ軽ワゴンやプリなんとかリウスが居ねえから、楽しいぜ。」

と、望月。

三条神流も「そうだな。」と言った。


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