カプセルホテル
22時半頃、集まっていた車はゾロゾロと帰り始める。
取り巻きの一部のメンバーは、熊谷や妻沼の辺りから来ているのだが、それより遠い所から来ている小岩剣は、カプセルホテルに泊まる。
三条神流と松田彩香も、地下駐車場を出発する。
「あいつら、この後家に帰らねえで、ラブホに行ってばっかりだ。だから、影でラブホ特急って言われてんさ。」
と、霧降が言う。
「ラブホ特急って、「カシオペア」の事でしょう?青函トンネル走行中に車内でAV撮影したら、配電盤に体液かかって火を吹いて、龍飛海底駅に緊急停車。」
小岩剣も思い出し笑いを浮かべる。
「あの事件のとき、偶然にも青森に居合わせて姉さんと野次馬しに龍飛岬まで行って、後で真相知ってバカ笑いしてましたよ。」
「笑い事じゃねえだろ。よりによって、繁忙期にやりやがって。でも、ある意味貴重なシーン見れたな。海底駅が本来の役割を果たしているシーンじゃねえか。」
「あまり、見るようなものじゃないですが、備えあれば憂いなしとは、あのことでしょうな。」
「そうだな。んじゃ、明日な。」
「了解です。」
霧降のBRZも出発。
小岩剣は地下駐車場から地上駐車場へ車を入換する。
地上駐車場への入換を終えると、カプセルホテルのある入浴施設へ入り、受付を済ませ、風呂に入り、カプセルホテルに入る。
(なるほど。B寝台のようだ。)
と、思いながらカプセルに潜り込む。
モゾモゾっとカプセルの中で向きを変え、カーテンを閉め、電気を消す。
(「あけぼの」のB寝台個室の下段のようだ。「あけぼの」のB寝台個室は狭かったからなぁ。でも、開放寝台より好きだったなぁ。)
小岩剣は、「あけぼの」のB寝台個室を思い出しながら寝た。
それがいけなかった。
「ピィーーーーッ!」
「ガクーン!」
「ゴッゴットン。ゴゴン。ゴゴゴゴン」
「カンカンカンカン」
「ゴゴンゴゴゴンゴゴン」
周囲がはっきりしない。
小岩剣はよろよろと、身体を起こすと何かにぶつかった。
「ここは―。」
走行する客車列車の車内のようだった。
いや、間違いない。
窓の外を見る。
真っ暗闇を加速しながら突き進んでいる。
どこへ向かっているのか、他でも無い。
信越本線を、北へ向かっている景色。
(「あけぼの」だ―。あれ?俺、ワム地下ってところに―。)
B寝台個室を抜け出る。
車内を徘徊する。
客の姿は無い。
何処にもない。
そして、新津駅に着いた。
向かいのホームに、大阪へ向かう上り寝台特急「日本海」が入線してくる。
その車内もまた、空っぽのようだった。
「日本海」が止まるか止まらないかというところで、「あけぼの」が発車。
「日本海」の最後尾。
オロネ24の車内に人影。
「姉さん!」
オロネ24の車内に居たのは、ニセコと、ニセコの旦那だった。
「姉さん!待って!」
「うわぁっ!」
と、派手にうなされて、目が覚めた。
すると、そこは、カプセルホテルのカプセルの中だった。




