新・連合艦隊
「食い付いて来れるとはな。アヤに対して、素人相手に手加減しろって思ったが、手加減無しで行けそうだな。」
三条神流が鼻で笑いながら言う。
「なんとなく、おいていかれるみたいで、嫌だったから―。その―。もう、置き去りにされたくないから―。」
「おい。サンボルガチンコで攻めてやれ。」
ぜぇぜぇ言いながら答えた小岩剣を見て、三条神流は松田彩香にリクエストするが、
「それよか、カンナの横に乗せてガチンコで北面ヒルやってきなよ?北面じゃあんたの方が速いだろうからさ。」
と、松田彩香は言う。
「嫌味かよ。おい。乗れ。」
三条神流に言われ、小岩剣はZD8型BRZの助手席に乗る。
三条神流はZD8型BRZを発進させると、大洞赤城神社の横を抜け、また山を降り、下り切ったあたりでUターンする。
「怖いって思ったり、ヤバイって思ったら言えよ。」
「はっはい―。」
「弱っちぃ返事だな。」
三条神流は言いながら、ギアを1速に入れ、BRZを発進させる。
僅かにホイールスピンさせ、一気に加速する。加速のGで、座席に身体を押し付けられる。
コーナーに信じられないスピードで突入し、更にタイヤが「ギャーギャー」言うのだから、小岩剣は短く悲鳴を上げる。
(タイヤが鳴ればびっくりするよなぁ。)
と、三条神流は思いながら、
「大丈夫か?まだ序の口だぞ。」
と言う。
「なんの―これしき。」
「そうか。」
2車線あるが、交通量の少ない北面道路を、三条神流は一気に駆け抜ける。
(まるで、上越線や中央本線で高速貨物を牽引するEH200のようだ。)
と、小岩剣はその姿を見て思う。
前に、別の車がいたが関係無い。
むしろ、その車の方が驚いて、路肩に逃げ込む有様だ。
「偶に何も考えねえ、制限速度にも達しねえでチンタラ走って、アンポンポロぴぃやだから退きませんって阿呆がいるが、構わず抜いちまうな。だってさ、煽ったら免パー喰らうって事は、わざと煽らせて相手免パーにして楽しむ金髪チリチリラーメン頭の鼻くそガキだって出て来る。そんな奴のために、免パー喰らうなら、煽る前に追い越し禁止の所でも追い越ししちまった方が罪軽いじゃん?そもそも、道交法がおかしいんだっての。」
と、三条神流。
コーナーが連続する。その度、小岩剣は身体を振り回される。
あっという間に、山を登り切り、さっきの廃虚に戻ってきた。
廃虚と言ったが、ここは、かつて、赤城山に存在したケーブルカーの廃駅を改装したバーベキューホールだ。
三条神流、廃墟に入ると「熱くなったから、ブルースカッシュフロート2つ」と、おっちゃんに注目する。
駐車場に目をやると、先程よりスポーツカーが増えていた。
「大丈夫か?」
「なんとか―。」
無理にでも、「大丈夫だ」と言い張る小岩剣。
「へぇっ。素人横に乗せて、北面アタックとは。三条もようやる。」
と、言ったのは霧降だった。
更に、群馬帝国帝都防衛連合艦隊の面々の半数が居たのだから驚いた。
「赤城サンダーバーズが勢揃いか。んで、夜にはADMも合流。見ての通り、今、連合艦隊は「連合」って名は着くが、実際には、ADM。Akagi distant moon付属の車好きの同好会に変わってんだ。群馬で俺達と絡むんなら、アレを体験して欲しいんでね。」
三条神流が言う。
昼食のため赤城大沼湖畔に降り、おのこ駐車場に車を停めて、湖畔の食堂に入る。
「もう、鉄道からは身を引いたのですか?」
小岩剣が聞く。
「アヤと俺は、一応、錆取り程度ではあるけど活動はしている。って言っても、今は車メインだからな。正直、電車より車の方が便利だし、ラクだし。」
言いながら三条神流は、昼食にワカサギ天とざるうどんを頼むが、その際、小岩剣の分まで注文する。
「お前、明日も群馬居るか?」
と、三条神流は小岩剣に聞く。
「まっまぁ。でも―。」
「なら、親と宿に連絡しろ。俺とアヤは例によって例の如くなんだがお前は―。そうだなぁ。足利の健康ランドか、タウンホテルがいいかな?」
「ワム地下んとこの、風呂屋のカプセルホテルで泊まれば?」
「あそこのカプセルか。寝台列車みたいでいいんじゃねえ?」
「あそこ、寒くて風邪引く。」
「俺、風呂しか行ったことないけど、まあいい風呂だったよ。」
「朝風呂の後、草木って言う手もありだな。」
「カンナとアヤはどうせ、ラブホ特急で、朝飯は城ヶ崎でラーメンだろ?」
「うっせぇ。」
「まぁ、ワム地下行ったら帰り夜中だし、埼玉っしょ?熊谷ならまだしも、そこじゃワムに泊まっていけ。」
「つか、N‐ONEなら、車中泊も行けるぜ。草木辺りで車中泊とか?」
「いや、あの辺りで一人は普通に怖ぇだろ!?」
矢継ぎ早な話で、小岩剣は蚊帳の外だ。
だいたい、「ワム地下」とはなんだ?と言いたいくらいだ。
かなりの時間、赤城山に滞在した。
「んじゃどうする?サンボル下って、ワム地下?でも、まだ早いな。」
「俺、マルシェでちょっと用事があるんだが―。」
「全員でマルシェは無理だって。」
「前橋のオートバックス行っても良いか?」
「じゃあ、マルシェ組とオートバックス組別れよ。つるぎって言ったっけ?君は―。」
「カンナと一緒にオートバックス!」
なんだか解らないが、小岩剣はこの後、三条神流と一緒に前橋のオートバックスまで行くことになったらしい。
三条神流は横目で、小岩剣を見るが小岩剣は自分で前橋のオートバックスを検索しているようだ。
(いいぞ。群馬で生きるなら、いざと言う時は一人だからな。最初から他人に頼ってはダメだ。)
三条神流、頷く。
だが小岩剣、前橋のオートバックスが天川と前橋インター近くの2箇所ある事に気付いたらしい。
確認の意味合いで、松田彩香に聞いた後、三条神流の後について、赤城山を出発した。
が、三条神流はそれと分かると意地汚い真似をした。赤城道路をまっすぐ行くところ、若宮町十字路付近の工事渋滞を避けるため、国道353号を富士見温泉方面に入るが、ここでかなりペースアップ。三条神流と小岩剣の車間が大きく開く。
富士見温泉を通過すると、三条神流の後ろに、日本中央バスの富士見線の路線バスを入れてしまう。
「さぁどうするかね。」
と、三条神流は珊瑚寺にWRXを入れる。
バスの後ろに居た小岩剣は、気付いていない。
三条神流、小岩剣の後ろに回る。
小岩剣は石井の交差点を左折する日本中央バスに次いで左折する。
(そのバスは前橋駅行きだからな。着いていけば前橋駅には行ける。が、オートバックスまでは行かねえぜ。堀ノ内のオートアールズなら通過するがな。それからな、路線バスってのはどんなバスだ?)
富士見公民館バス停。
ここで、バスは止まる。
小岩剣、バスを追い越す事になる。
(さぁどうする?)
三条神流は様子を見る。
が、小岩剣はこのルートは少々手間のかかるルートだと気付いたらしい。
富士見十字路のコンビニに入ってルート検索をかけるようだ。三条神流はそのまま通過してしまった。