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赤城南麓グランドツアー

タクシー会社の飲み会の後、その会社の内定を蹴飛ばすまでの数日間でやっていた書類運搬のバイトで稼げた額は1万弱。

ポスティングは1日程度で1万以上稼げるので、10日も働けば、かなり稼げるのに、こちらは数日で1万弱。

(割に合わねえなぁ。)と思うが、何もしないで居るのは嫌なので、やっていた。

そして、このバイトで得た金は、三条神流の呼び出しで使い切るだろう。

「出かけるのか?」

と、父に言われる。

「ああ。また、群馬。」

「群馬の貨物列車の会社に入るのか?」

「一応ね。そうなるだろう。」

「タクシー会社で何があって、内定を蹴飛ばしたかは聞いたし、咎めない。むしろ、それは蹴って当然だ。」

「親父はどう思う?俺は群馬で生きるべきかな?」

「生きたいって思うのなら、生きればいいんじゃないか。ただ―。」

「ただ?」

「何となくで生きるのは止めろよ。」

「分かってるよ。」

と、小岩剣は言った。

N‐ONEで群馬へ向かう。

いつものように、国道17号を走り、神流川を渡り、倉賀野貨物ターミナル横の公道で、三条神流のZD8型BRZと松田彩香のGR86を待つ。


仕事を終えた三条神流は、先に会社に帰庫していた松田彩香に明日、小岩剣を呼んだ旨を伝える。

「倉賀野貨物ターミナルで集合?分かった。そうなると、藤岡のラブホか、高崎機関区近くのラブホに直通ね。」

と、松田彩香は言った。

「仕事の後、一応着替えるとは言え、ラブホに直通運転ってどうかしてるよ。」

三条神流、呆れ返る。

「どうするのがベストかを考えた上でのこと。一旦、家に帰ってまた明日合流するなら、ラブホで軽く寝て、倉賀野貨物ターミナルに直接行った方がいい。」

「まぁ、あの時間に出て来いって言ったのは俺だからな。」

と、三条神流は言った。

前橋市赤坂の会社を出て、前橋市中心部を抜けて、高崎市に入ると、「藤岡じゃ倉賀野に戻る格好になる。」と松田彩香は言い、高崎機関区近くの国道の高架下のラブホに入る。

もう、松田彩香にラブホへ連れ込まれることにも慣れてしまった三条神流。

いつも、松田彩香に抱かれる格好になっている事にも慣れた。

朝、高崎機関区近くの国道下のラブホを出て、高崎機関区から高崎操車場に沿って、線路沿いの道を走ると、後ろから、高崎機関区を出庫した新鶴見機関区所属のEF65が来るのが見え、高崎操車場に停車中の新潟発、隅田川行き貨物列車に出会う。

倉賀野駅を通り、国道17号から側道に入り、倉賀野貨物ターミナルに行くと、南ヤード沿いの公道に青いN-ONEの姿。

(来たな。EH200みたいな車と、EF510みたいな車。)

と、小岩剣は思う。

秋風が吹き始めた群馬。

紅葉シーズンもまもなくだろう。

ヤードに、HD300が、空のコンテナ車を押し込んで、出ていくと、その隣の線路に留置されていたDE10に連結する。

「DE10は、いよいよお払い箱だな。どこへ行くのだろうか。最も、就職先も無く、解体が関の山だろうな。」

「就職先も無く、解体―。」

三条神流のセリフに、小岩剣はビクっと反応した。まるで、自分のようだからだ。

「今日はどちらへ?」

「ん?特に決めてない。まっ、赤城南麓グランドツァー?って感じかな。」

と、三条神流が言うのだが、松田彩香が咳払いをする。

「赤城山よ。ほらあの山。あの山の山頂にある廃駅にね。」

と、松田彩香が赤城山を指す。

小岩剣は少し不安に思った。

免許取ってから一応運転はしていたが、自分の車で赤城山を登れるのかと不安だった。

草木ダムまでは行ってはいるが、赤城山の山頂と言う事は、かなりの急勾配の峠を登ると思ったからだ。

それでも、小岩剣は、三条神流と松田彩香の後について、赤城山を目指す。

高崎車両センターの横の公道を走ると、ちょうどC61‐20とD51‐498が出庫するところだった。

今日は久しぶりに重連運転を行うらしい。

踏切待ちで、2両の蒸気機関車が目の前を通過。

「こんな光景も、近いうちに見られなくなるんだよな。群馬でも、当たり前のものが無くなってしまう。群馬に来ればなんとかなるかもって思いながらここに来たのに、なんだよ。こうなるんじゃなければ、群馬に迷わず就職したのに―。」

と、小岩剣は一人で言う。

なぜなら、機関区の奥の方にEF64が1両、廃車回送の札を入れられて留置されていたからだ。この1両は1053号機で、この後、1001号機が廃車となれば、ぐんま車両センターからEF64が完全に居なくなってしまうのだ。

国道17号バイパスで高崎市内を迂回すると、左側には、白衣大観音が見える。

秋風が吹く群馬の空は澄渡り、空気も澱みが無く、遠くに榛名山がくっきりと見えていた。

前橋市内に入り、上越線の線路を陸橋で越えると、ちょうど真下の線路をSLが通過したらしく、煙が登った。

橋の上で止まったので、横目で上越線の線路を見ると、12系客車の最後部が見えた。

群馬大橋を渡って、赤城道路を走るようになると、目の前に赤城山が見えるが、小暮の一の鳥居辺りで見え方が変わる。

バックミラーを見ると、さっきまで居た前橋の町が遥か下に見える。からっ風街道を渡ると、人家と言う人家も無くなり、周囲には森林が広がる。

夏と秋の合間の中途半端なオフシーズンのせいか、土日だが観光客も疎らだ。

気が付いたら、三条神流のZD8型BRZと松田彩香のGR86の前後が入れ替わり、GR86が先頭。ZD8型BRZが後になり、更に車速も速くなっている。

「あんたが前だと、絵面悪い。」

と、松田彩香。

「確かに。ただ、3台じゃな。TOMIXの3両セットだ。」

三条神流、冗談を言う。

「うわっ!」

と、小岩剣は悲鳴を上げながらも、松田彩香と三条神流の後を食い付いて行く。

「どんだけ飛ばしてんだよこの人達!?」

しかし、前方を見ると、道が青空に向かって伸びていくように見えた。

そして、自分も、赤城山から青空へ向かって走っているような気になる。

そうなると、急に心地良くなる。

赤城山を登りきった。

だが、目指す場所はまだ先。

そして、登りきったと思ったら今度は下り坂。

眼下には、湖が見える。

青い湖面を横目に走り、どん詰りの場所にあるボロボロの廃屋のような場所が、最初の目的地だ。

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