ブリキの車
とうとう、卒論も書き終え、何もやることが無くなった小岩剣は、バイトの合間を縫いながら、群馬へ行く事が増えていく。
都内のタクシー会社の懇親会にも行ったのだが、やはり波長が合わず、3社中、2社の内定を断ってしまった。
その中には、東京無線の本部も含まれていた。
今、これは?と思って内定を残しているのは、日本交通グループの会社と、北関東ロジテクスだ。
今日は日曜日。
夏の朝日を浴びながら、上武大橋を渡る。
遊ぶ友達もいない小岩剣は、行く場所もないので、なんとなく、群馬へ行く。
世間では二学期が始まったが、小岩剣が学校へ行くのは週に1日か2日だけ。早い段階で単位を取得した故の弊害と言うべきか。
道の駅で一度、トイレ休憩をするも、行くあてもない小岩剣は、カーナビで適当に探って草木ダムへ行くことにした。
まだ、朝も早いのだが、夏はあっという間に明るくなる。
(姉さんと一緒に、陸奥湾に昇る日の出を見に行ったことあったな。)
と思いながら、道の駅を出発。
駐車場の端っこに、ボロボロの軽が止まっていた。
どうやら、車上生活者の車らしい。
長い事動いておらず、主の姿も無い状態で放置されているようだ。
それに、小岩剣は、今、秋田の港でほったらかしにされている「あけぼの」の客車を思い出した。
テレビやネットでしか、それを見ていないのだが、見る度に、嫌な気分になる。どうせなら、いっそのこと壊してほしいというのが、小岩剣の本音である。
伊勢崎インターを通過し、上武道路から県道73号を大間々方面へ向かう。
横目に、赤城山を見ながら、のどかな道を走る。
新川で上毛電鉄の線路を渡り、大間々から国道122号を、わたらせ渓谷鉄道に沿って、足尾方面へ向かう。
前方を見ると、ずいぶんと古めかしい車が何台か走っているのを見付けた。
更に、それに付随するかのように、スポーツカーらしき車の姿もあった。
特に予定もない小岩剣は、草木ダムを通過したところでトイレに行きたくなり、道の駅を見つけて、そこに入るのだが、古めかしい車やスポーツカーもそこへと入っていく。
売店の先の小さなお社の前に車を止め、売店のトイレを借りて出てくると、またも、古めかしい車が入って来るので、そんな車が止まっている場所へ行ってみることにした。
ブリキの玩具のような車が何台か集まっている。
そして、また入ってこようとして、道の真ん中で止まってしまって動かなくなってしまった車が居た。何が起こったか分らない小岩剣は、別の人に押されてエンジンがかかって動き出したのを見て、余計に何が何だか分らない。
(車って、押せばエンジンがかかるのか?)
と、首をかしげる。
ブリキの玩具のような、古めかしい車を見ているが、さほど興味が沸かず、自分の車に戻る。
(ブリキの玩具。扱っているのはお爺さんだらけ。老人の趣味?老けると、古い物を好むのか。って事は、逆にいえば、俺みたいに、クソガキのクセして時代遅れのブルトレを好むのは、ジジ臭い年寄り野郎って事か。大学出たばかりで、もう年寄り扱いされんのかよ。)
自分のN‐ONEに戻るが、さっきの、押してエンジンがかかったことが気になって、自分の車でも出来るのかと思ってやって見るが、重くて動きもしない。
(さっぱり分からねぇなぁ。)
と、小岩剣は思う。
おまけに熱い。でも、アイスを買う金が勿体ない。
車の中も熱いので、仕方なく、エアコンが効いて車いる売店へ意味もなく入ろうとした時、見覚えのある青いスポーツカーと赤いスポーツカーがやって来た。