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小岩剣・遭遇する

国道17号バイパスで延々、群馬まで行く小岩剣。

ETCも付いているのだが、貧乏性らしい小岩は、高速道路は帰る時だけで済むのなら、そうすることにした。

熊谷を過ぎ籠原辺りで、伊勢崎回りで渋川方面へ抜ける上武道路と別れた後、やっとのことで倉賀野貨物ターミナルのコンテナヤードが見えた時には昼食の時間。

またまた、食費を削ろうとコンビニのおにぎり2つと、お茶だけで昼飯にしようと言う小岩剣は、倉賀野貨物ターミナルと日本ケロッグ高崎工場の合間の公道に車を止め、その車内で食べる。かつては日本ケロッグ高崎工場の中にまで貨物引き込み線があったが、今は無くなった。

ヤードを見ていると、霧降が先日言っていた通り、DE10の姿は無く、HD300型ハイブリッド機関車の姿があった。

昼食を食べ終えると、とりあえずという意味で、JR貨物の高崎機関区の方へ向かう。

倉賀野駅から高崎操車場沿いの公道を走って居ると、後方から見慣れない列車が近付いてくるのが見えたので、止まってそれを見る。

(のっぺらぼう見たいな変な電車だな?それに後には、なんだ?貨車か?)

その列車のどの車両にも、パンタグラフが無い事に気付くのが遅れたため、それが気動車と気付くまでに時間がかかったが、それは、明らかに事業列車だった。それも、貨車のような車両を4両合間に挟んでいるにも関わらず、それを牽引するEF64やDD51等の機関車の姿はなく、代わりに、前後の気動車が動力車となっているらしい。

とりあえず、スマホでその列車の写真を撮るだけ撮る。

(まさか―。)

小岩剣はJR貨物の高崎機関区とJR東日本のぐんま車両センターの合間に通る公道に向い、国道の高架下のラブホに車を停めて公道の踏切に向かう。

JR貨物高崎機関区とJR東日本ぐんま車両センターの合間に通る公道には、踏切が飛び石のようにあり、そこから高崎機関区とぐんま車両センターの様子をうかがうことができる。

一番奥、基本的にDD51やDE10が留置されている場所を見られる踏切へ向かう。

踏切から留置線を覗くと、確かに、DD51やDE10の姿はあった。

だが、DD51‐888と895に妙な札が刺さっていた。

左2.5、右1.5と言う視力があっても小さなそれが何か分らず、小岩剣は持ってきたカメラで撮影して分析する。

それは、回送票だった。

送り先は、秋田総合車両センター。

JR東日本所属の機関車の全般検査や車両解体も行われる車両センターである。

車を停めたラブホへ戻る時、沿線に、やけに鉄道マニアの姿があることに気がついた。

だが、中には線路の中に入って撮影しようとしている奴も居る。

(死にてえのか。)

と、小岩剣が思った時、踏切が鳴る。

高崎駅から回送線を経由して何かが来る。

秋田車両センター所属のEF81‐136だった。

「秋田の釜が―。まさか?」

独特の走行音を響かせながら、EF81は高崎機関区へ入区していった。

嫌な予感がした。

しかし、どうすることもできない小岩剣。

高崎を彷徨い、問屋町に出て来たら、イタリア料理屋の駐車場に、見覚えのある赤いGR86が居るのが目に入ってきたので入ってみる。


(何、トナラー?殺すよ?)

と、松田彩香。

だが、N-ONEから降りてきたのは、小岩剣だったから松田彩香は驚いた。

「車、買ったの?」

「えっええ。その、両親が社会に出たら必要だろうと―。車なんて、中古車を自分で探して買うつもりだったのに。まったく過保護なもので。」

小岩剣は頭を掻いた。

「そんなこと無いよ。大切にされているって事だよ。それに、最初から買ってもらおうって考えず、自分で買おうとしたってのは、偉いよ。」

そこに、三条神流のBRZもやって来た。

「あれっ?」

三条神流も一瞬驚いたが、

「その車、自分で買ったのか?」

と訊いたのだから、正直に小岩剣は答えた。

「ああそう。それなら、少し派手な車買ってもらえばいいものを。」

三条神流はそっけない。

「派手とは程遠いかもしれませんが、FFではなく、4WD―。」

と、小岩剣は余計なことを言ったかもと思いながら言う。

「いや、群馬で生活するならそれ正解。群馬は雪降る時は降るからな。どうせなら、ランエボとかインプレッサみたいな奴にして貰えばよかったのに。まっヒュンダイじゃねえからいいかな。それに、俺の知り合いには、N-ONE乗りもいる。」

三条神流は否定しているのか、していないのか分らない。

店内に入ると、小岩剣は財布の中身と値段ばかり気にしている。

「お前、金ねえのか?」

「いっいえ。ただ、貯めときたいってだけで。理由は無いですが―。」

三条神流は「なるほどね」と言った後、

「確かに、貯蓄は大切だが、使う時は使うようにしないと、安いものばっかりに流されて、周りから「ケチな奴」って言われる原因になる。下手すると、安物だったせいですぐぶっ壊れて、修理に倍の値段取られたり、買い換えたりで余計に金かかることだってある。」

と言った。

三条神流は先日、釣り銭機のやり取りを面倒に思ってガソリン代をケチったために、ガス欠騒ぎを起こして、松田彩香にお仕置きされたばかりだ。

「いや、その、青森に帰る時、あっちで使う金を溜めていたクセで、こっちで使う金は極限まで抑えて、あっちで散財していたものですから―。」

小岩剣は言いながら、メニューに目を落とすが、コスパの観点からシャンゴ風のSサイズにした。

意外なのは、三条神流も同じくSサイズを頼んだのだ。

三条神流はMを頼むと思った小岩剣は「えっ」と思い、逆に、松田彩香は涼しい顔でMサイズを頼んだ。華奢な見た目の割に、松田彩香は大食いなのだと三条神流は言う。

そして、運ばれてきた物を見て、小岩剣は目が点になる。

「あっあの、これでSサイズですか。」

「えっ?いや、これが普通だよ。」

デミグラス風のミートソースの上に、豚カツが載って、更に、パスタの量は150g。

ちなみに、松田彩香の頼んだMサイズは200gだ。

「コスパいいですね。」

と、小岩は言う。

「お前、食費どんだけケチってんだか知らねえけど、食うときはしっかり食え。金、使う場面と使わねえ場面はしっかり見極める事は出来るんだろうから、使う場面はガツンと使う。特に、車買ったんならな。車は、群馬で生きるには必需品だからな。安物で部品代ケチったら、死ぬからな。」

三条神流が言うのに対し、松田彩香が、

「N‐ONEは軽だからって、軽油を入れるような真似しちゃだめよ。軽自動車だからって、軽油が燃料なんて事、普通は有り得ないから。最も、DD51のエンジンをぶち込んだんなら、話は別だけど。」

と、言いながら、加賀美を思い浮かべる。

彼女も、N-ONEだ。

(DD51のエンジン積んだN-ONEが、加賀美のトワイライトエクスプレスの前に居たら、北海道を走るトワイライトエクスプレスに見えるかな?)

と、松田彩香は思う。

「そう言えば」と、小岩剣は、高崎機関区にいたDD51に回送票が挿され、更に、秋田のEF81が高崎にやって来たと話す。

「ああ。それ、廃車回送だ。888と897は、廃車になる事が決まったらしく、今夜、そいつらが秋田へ持っていかれる事になっている。今後、高崎の旅客用機関車は数を減らしていく。GV‐E197系って言う、動力車とホッパ車を繋いだ、変な事業用車が製造され、それが、今、DD51の活躍の場である、小野上工臨や八高線の工臨に宛てられる。残りの842と895も、今年中の引退が決まった。」

「その、それっぽいのを見ました。」

小岩剣は、先ほど撮った写真を見せる。

「間違いない。こいつが、GV‐E197系だ。」

「―。」

「今後、SL列車もこれになる可能性がある。SL列車には、ピックアップ機が必要だろ?でも、ピックアップ機がいなくなったら?」

「SLは運転できなくなる。」

小岩剣にまたも、群馬の鉄道の現実を突き付ける三条神流。

群馬に引き込みたいのだが、引き込んだ結果、思っていたのとは違うと、ミスマッチになってしまえば、後で困るからだ。

実際、長野でミスマッチになって、大変な想いをしたのは自分だ。

もし、松田彩香が居なければ、どうなっていたか分からない。

素っ気ないながら、三条神流は小岩剣を大事な後輩であり、弟分であり、自分達群馬人の持つ大切な物を教えてくれた者と思っている。

だからこそ、自分と同じ目に遭わせたくないのだ。

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