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車を買いました

小岩剣はとうとう、自宅で卒業論文を書き終えてしまった。

異常にも早く終わってしまったため、大学でやることがなくなってしまい、ゼミの日は、院生の手伝いや学内の清掃作業等で小金を稼いでいた。

両親からの仕送りに頼らず、自分で生きようとするための行動である。

そんな時、海上自衛隊横須賀基地での勤務となった父と、国内勤務になった母がこんなことを言った。

「社会人になったら、車も必要だろう?」

と。

「ああそうだな。でも、車ぐらい、自分で買うよ。」

そう、小岩剣は言った。

しかし、父は、

「親として、出来る事は全くしなかったために、剣には嫌な思いをさせた。せめてもの罪滅ぼしと思って欲しい。」

と言った。

「罪滅ぼしって言われても―。」

そんな自覚のない小岩剣だが、ここは両親の好意に応じることにした。

どうせ、社会に出たら、自分で生きなければならないのだから、両親にしてもらえる事はこれが最後だろう。

「車を買う」という両親と共に、車屋へ出向く。

(中古の軽で良いよ。)

と、小岩剣は思った。

だが、その時、小岩剣の脳裏に、

「群馬は車無いと生活できねえような場所だ。おまけに、派手な車が好きな奴が多い。ヤンキーならクラウン、セルシオ。走り屋ならシルビア、RX‐7。金の無い奴は、ワゴンRを下手に改造する。」

と言う、三条神流のセリフが過ぎった。

そして、同時に、自分が群馬で生きるなら、どんな車に乗るのかと考える。

中古車販売店を見て歩く。

しかし、三条神流の言う「派手な車」の類の車が見つからない。

HONDAのCR‐Zがそれっぽいなと思ったが、それは値段は安かったのだが、その分、走行距離40万キロ以上と相当あり、もはやポンコツだった。

SUZUKIのジムニーを試乗する。

こちらはMT車であったが、試乗中、発進時にギアが抜けてエンストしてしまい、とても扱えないと、迷い迷った挙句、とうとう、両親と共にHONDAのディーラーに行って相談するハメになった。

そして、購入後のメンテナンスや維持費等から、新車を勧められ、小岩剣は何台か提案された中から、最終的に自分で「これが良いです」と言ったのは、N‐ONEだった。

カラーリングは青。

その日のうちに、購入を決めた。

 

そして、数日で納車となった。

父と一緒に車を受け取りに行った時、父は、

「つるぎも大人になったな。」

と、言った。

「どうして?」

「車も自分で買うって言うのだからな。でも、今回は、車の代金は父さんと母さんが出す。その代わり、その後の事は自分でやるんだぞ。」

「ああ。あの、父さん。」

「なんだ?」

「ありがとな。大学出るまで、育ててくれて。」

「おい。それは、社会に出てから言えよ。結局、どうするんだ?都内のタクシー運転手か?それとも、群馬の貨物列車か?」

「それは―。」

小岩剣は黙り込んだ。

「一生を左右する事だ。よく考えろ。ただ、父さんとしては、群馬の貨物列車の方がいいと思うな。都内でタクシーって言ったって、タクシーのこと知らないだろ?」

「まあ、二種免許が必要って事しか。」

「でも、群馬の貨物列車なら、鉄道については詳しいし、群馬の土地勘だってあるだろ?それなら、群馬の方が、大変だろうけど後で苦労は無いと思うな。」

「父さんもそう考えるか。」

薄々、小岩剣は群馬の方が良いのではと思い始めていた。

だが、先日、連合艦隊から「群馬の鉄道は今の形状から変わる。機関車は消える。もう、元の群馬にはならない。」と告げられていたため、群馬に行ってもどうなるのか解らず、給料面で見るならば、歩合でやった分だけ給料になる都内のタクシーの方が良いのではとも思っていた。

だからなのか、小岩剣はN‐ONEの納車翌日、試運転のために向かったのは群馬だった。


夕食会から数日が経ったある日。

「ドガッ!」

と、松田彩香が三条神流に壁ドンをする。

ここは、仕事終わりの会社の外だ。

深夜の時間帯なのに、関係ないらしい。

「しのぶ毛の国?」

「―。双子塚。」

三条神流は言われた札を答えた。

「何のつもり?」

三条神流が逆に聞き返した。

「別に。」

と、松田彩香は言った。

(こいつもこいつで、時に意味わからねえことすんだよな。)

と、三条神流は頭を掻く。

「嫌なことがあった。」

と、松田彩香。

「ちょっと酒が入っている感じの、都内へ帰るおっさん乗せて、しつこくナンパされて、連絡先教えろって。それ、当然断った。したら、クレームだって。まあ、翌朝の報告の必要は無いけど、胸糞悪いから、付き合って。」

松田彩香は言いながら、GR86のエンジンをかける。

「どこだ?赤城か?足尾銅山か?」

「ラブホ直行。」

「―。会社でそんな会話するなよ。どこで聞き耳立てられてるか解ったもんじゃねえっつーの。」

と、三条神流は苦言を言う。

三条神流もGR86のエンジン始動。

会社の近くのラブホには絶対に入らない。

明日は土曜日で、日曜日も休みなので、いつものように、草木ドライブインに行くつもりだ。

そのため、赤城山の南麓を少し走って、三夜沢辺りのラブホに入る。

群馬の、特に赤城山南麓はラブホが多い。

おまけに、土地代が安いので、凝った作りの物が乱立している。

ラブホに入って、二人してシャワーを浴び、肌着姿でダブルベッドへ入り込む。

寝る前に、スマホでSNSを見た三条神流は「うわ」と言った。

「どした?」

「見ろこれ。GV‐E197系が、群馬に来るのも、時間の問題だ。新津の工場で製造作業が始まったらしい。」

と、松田彩香に見せる。

「えーっと、機関車の役目をする電車?が前後に1両ずつ。そして、その合間に4両のホッパ車の6両編成で1ユニット。ふーん。こんなんで、雪降ったり、上越線の勾配登れんのかねえ。吾妻線にも入れないだろ?」

「無理矢理入れんだろ。んで、ぶっ壊して、ギャぁあーーーん!なんで壊れちゃうんだよぉおおーーーん!ギャぁあーーーーーん!ってパターンだ。」

「DD51が、危ない。」

「いや、無理だ。先行投入先見ろ。」

三条神流が示す。

「高崎に先行投入?ってことは、もうDD51は―。」

松田彩香は絶句した。

松田彩香が好きな鉄道車両は、DD51なのだが、そのDD51が余命宣告されたからだ。

 

翌朝を迎える。

いつものごとく、肌着姿でラブホのダブルベッドで目覚めると、三条神流と松田彩香は二人同時に歯磨きして、洗顔して、着替えて、大間々へ向かう。

大間々で給油の後、ラーメン屋で昼食。

そして、草木ドライブインへ。

草木ドライブインには、お馴染みの面々が何人か既に来ていた。

霧降要率いるSUBARU・TOYOTA連合軍、通称「霧降艦隊」。そして、ロータスを操る3人姉妹「東郷艦隊」通称「赤城distant moon」だ。

「私は、霧降艦隊と言いながら、distant moonと行動する事が多いから、どちらとも言えない。」

等と松田彩香は言う。

三条神流もdistant moonの手引きで筑波サーキットのレースに出た事があるし、今もサーキットに行く事もある。

「群サイ行く?」

またお誘い。

お誘いをしているのは、ロータスを操るdistant moon三人姉妹の次女、東郷恵令奈。

三条神流が長野へ行ってしまった際、松田彩香は同じく彼氏に振られた恵令奈と肉体関係にあった。その際に、松田彩香は現役レーシングドライバーでもある恵令奈の影響でGR86を購入して、レーシングライセンスも取得した。更に、松田彩香は恵令奈を追って、TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupや筑波サーキットのハチロク祭りにも参加するようになり、同時に群馬の走り屋の中でも最速クラスにまで一気に成長した。

それを追うように、走り屋になったものの、何もせず、車に乗って集まっていただけだった、かつての鉄道好き時代の松田彩香や三条神流の仲間にも、サーキットデビューをする者が現れ、中には松田彩香と同じく、レースに参戦する者も現れた。

「そうね。カンナも連れて行く。それに、咲の走りも見たいしね。」

すっと視線を、駐車場入り口に向けた松田彩香。その視線は、ダークグリーンに金帯を巻いた、いわゆる「トワイライトエクスプレス」色のN-ONEの姿があった。

松田彩香はスマホで、JR西日本が運行していた「トワイライトエクスプレス」の車内で流れていた「いい日旅立ち」を流して出迎える。

「いい目付きになって来たね。カンナ。」

と言いながら、N-ONEからショートカットの髪型に、日本人形のような顔付きの女が降りて来た。

加賀美咲。松田彩香、三条神流の元同級生で松田彩香の助手のような存在だ。

「おかげさまで。」

三条神流、答える。

少し屯して、三条神流と松田彩香は桐生まで降りて、銭湯で一風呂浴びた後、再び大間々を経由して、からっ風街道を駆け抜ける。

が、北新地で赤城道路に入る際、信号無視のプリウスに出会して、松田彩香と三条神流が分列してしまった。

高崎問屋町のシャンゴで夕食にするのだが、そこには、松田彩香が先に着いた。

「あーあっ。」

と、溜め息を吐いて、車外で三条神流を待つ。

すると、見覚えのない青いN‐ONEが自分の姿に気付くと、駐車場に入ってきた。

そして、隣りに止まった。

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