プロローグ
例えば、自分の目指す物。やりたい事。なりたい自分。そうした物を持っていて、それを目指して頑張って来たけど、ある日突然、自分ではどうする事も出来ない事により、その全てが叶わぬ物になってしまい、自分さえも見失ってしまったなら、どうすれば良いのでしょうか。
夕方、東京の大学の10階展望ラウンジ。
文学部交通地理学科鉄道専攻。
言う間でも無いが、この学科は交通に特化した物で、鉄道を中心にした専攻。
「あーあっ」と、ため息ひとつ。
交通に特化した学科で、将来の夢は寝台列車の車掌と息巻いていたかつての姿は無く、何を目指していたのかも分からず、就活の時期を迎えてしまった。
何をやりたいのか分からぬまま、就活しても良い結果は得られない。
先程、大学の就職課から「JR貨物の採用見送り」と言う結果を聞いた。そして、その伝手で紹介されたJR貨物関連企業。ここもピンと来ないが、JR貨物の採用試験の際の書類選考やSPI、健康診断の結果、面接試験に進むことになったと言う話になった。
(この会社、どこの会社かな?)
と、会社の場所を確認する。
「群馬県高崎市ー」その地名にふと、思い出した事があった。
(群馬か。出来れば、あの人に会いたいが、あの人はなりたい自分であるために、群馬を去った。俺が、自分は何者か確かめるために寝台列車で旅立った時、あの人も同じく旅立って行った。でも、まだあの人の仲間は群馬にー。どうせ行くならば。)
と、僅かに希望を持った。
例えば、自分の目指す物。やりたい事。なりたい自分。そうした物を持っていて、それを目指して頑張って来たけど、ある日突然、自分ではどうする事も出来ない事により、その全てが叶わぬ物になってしまい、自分さえも見失ってしまったなら、どうすれば良いのでしょうか。
そんな事を思いながら、小岩剣は展望ラウンジから北の方角を見る。
遠くに、ビルの隙間から見える北関東の山の麓。
そこに、その答えを求めて。