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【番外】彼らの欠片  作者: 白浜ましろ
冬の小瓶の章
1/8

欠片、一つ目。冬紅葉。―スイレン―


 森を吹き抜ける風の冷たさに、白狼はぶるりと身を震わせた。

 思わず立ち止まり、身体を縮こまらせる。

 その横を、からからと音を奏でながら、落ち葉が地を転がっていく。


「風も随分と冷たくなったもんだ」


 人の姿であったのならば、思わず鼻をすすっていたことだろう。

 空へ抜けた風を目で追い、枝葉によって遮られる空を見上げた――が、記憶よりも覗める空に、白狼は空色の瞳を瞬かせた。

 秋に色付いていた木々も、寒さに備えてすっかり葉を落としていたらしい。

 森の装いの変化に、季節の巡りを感じた。

 白狼は落ち葉でふっかりとする土を踏み、息を吐く。


「精霊界の“外”はもう冬だな」


 白狼――スイレンの言を肯定するように、また風が吹いた。

 さわざわと揺れていた枝葉の音に、からからと地を転がる落ち葉の音が絡む。

 冬の始まりを感じながら、スイレンはすくりと立ち上がった。


「気軽に“外”へ出られないヴィーに、何か冬の話題でも持って行こうか」


 立場ゆえに精霊界から出られぬ身の彼女に、何か“外”の土産かその話題になるものでもないだろうか。

 “外”には冬が来ていたよ、と。

 きょろきょろと軽く辺りを見渡しながら、スイレンはふかふかとした土を踏み歩く。

 地に積もる落ち葉。広がる草木は冬の色。

 その風景に少しだけ寂しさを感じつつ、首を巡らす中で鮮やかなとある一点に目を惹きつけられた。

 かさりと音をたて、スイレンは足を止める。

 冬の色の中に鮮やかな一点。

 木枯らしの風景の中に際立つ秋の色。

 とたとたと動き始めた歩む足が、いつの間にかとったとったと駆ける足に変わっていた。

 少しばかり息を弾ませてたどり着いたのは、大半の木々が葉を落とした中、葉数は少ないながらも未だ枝に紅葉こうようを残した一本。


「またこれは、鮮やかな――」


 気付けば感嘆の息をもらしてしまうほどに、その紅葉は深く色付いていた。

 秋の頃よりもさらに深い色をしている気がするのは、単なるスイレンの思い込みか。

 刹那――一際強い風が吹き付けた。

 それはスイレンが思わずを目を瞑ってしまうほどに。

 びゅうと低い音をスイレンの耳に落としながら、落ち葉を撒き散らして風は森を駆けていく。

 風が落ち着いた頃を見計らい、スイレンがそっとまぶたを持ち上げる。

 紅葉は無事だろうか。

 ちょっとした不安を抱きながら、顔を上げてみると。


「ははっ、力強いじゃないか」


 風の余韻に揺らされながらも、紅葉は未だ枝にしがみついていた。

 そこに透き通るような命の力強さを感じ、スイレンは空色の瞳を細めて柔く笑った。


「ヴィーへの冬のお裾分け、みっけたな」


 秋の終わりと冬の始まり。

 これは、とある時のそんな頃の一欠片。

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